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非情怪談 | 毎週ショートショートnote

空が赤く染まる夏の夕暮れ。
桃色帽子の女の子が一人、砂場で遊んでおりました。

どこかで一匹、蝉が今にも力尽きそうに弱弱しく鳴いています。

先程まで一緒に遊んでいた友人達は
6時の鐘が鳴ると皆散り散りになって帰ってしまいましたが、
女の子はみんな非情だなと呟き一人で残りました。

やがて蝉の鳴き声が止み、世界がしんと静まりました。

蝉は死んだのでしょうか。
無音の中で砂を掘り続けます。

突然、ぴゅうと風が吹きました。

「あっ、帽子…」

風に飛ばされた帽子を女の子は追いかけます。
やがて帽子は誰かの足に当たって止まりました。

…誰もいなかったはずなのに?

見上げると、2つの複眼と3つの単眼を持つ黒い塊がこちらを見つめています。
それは自分よりはるかに大きな蝉でした。

ジィ、ジィ、ジィ

蝉は腹部を震わせると、
細長い口吻を女の子の耳に近づけ囁きました。

「もう、一人きりにはさせないよ」

蝉は女の子を掴んで飛び立ちました。
地上には帽子が一つ残されていました。

(410文字)


たらはかにさんの企画に参加させて頂いております。

#小説 #ショートショート #毎週ショートショートnote #非情怪談 #ホラー

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