天ぷら不眠 | 毎週ショートショートnote

料理が趣味の男は今日も一人で天ぷらを揚げていた。

「よし揚がった。天かすは後でうどんに使おう」

すると突然声が聞こえてきた。

「お前ナメてんのか？」

「…へ？」

周りを見渡すが誰もいない。声は敷紙の上から聞こえた。

「天ぷらが喋った!?」

「阿呆、俺はその横。お前、今俺にカスって言ったろ」

喋っていたのは天かすだった。

「天かすが喋った!?」

「おぉい！また言ったな!?これ以上怒らすと高温でハジけるぞ？」

「…もしかして天かすの[かす]って言葉に怒ってます？」

「…お前さぁ。友人にカスって言ったことあるか？」

「ないです」

「だろ？カスは悪口だ。言われたら傷つく。
傷ついたらベタついて不味くなる。お前にもいいことないだろ？
敬意を持って接してくれ」

「すみません…」

まさか天かすに怒られるとは思わず、男は眠れなくなった。

実はここだけでなく、世の中の天かすが一斉に反発を始めたらしい。
翌日から天ぷら屋が軒並み休業となり、睡眠外来が大繁盛したそうだ。

(410文字)

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