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Vol.56#挑め!Leading Article/防衛は特別

今日のテーマは”予算審議での防衛費”です。

🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸

英国は予算審議の時期です。会計年度の始まりは4月ですが、7月の次年度予算確定に向けて来週から審議が始まる予定です。世論では減税を求める声が強まっており、政治家にとってそれに応えていく事が効果的な選挙対策に直結します。一方で防衛費について積極的に議論しようとする政治家は多くありません。冷戦の終結から今年で32年目。今やすっかり戦争のない世界になれきってしまった英国で防衛費の増額に対し有権者から理解と支持を得るのは容易ではありません。ロシア、中国、中東地域の情勢不安を背景に防衛費の重要性が増していますが、それでも防衛費を他の予算と同列に扱う限り必要な増額を見込むことはできません。防衛費は有権者の顔色とは切り離し、必要性に応じて検討すべきという内容です。

固く暗いテーマではありますが、なかなか面白い語彙が出てきます。確認しながら読み進めていきましょう。


◎今日のLeading Article:Defence is Different

Government spending has a lot to do with proximity to the (voting) public. Ministers who deprive hospitals and schools of money do so at their peril. Cutting bobbies on the beat is also inadvisable. But defence? While Britons tend to take the excellence of their armed forces for granted, most pay little attention to them day to day. This country’s last big military adventure was the invasion of Iraq in 2003. The subsequent policing operation in that country and the UK’s involvement in Afghanistan passed largely unnoticed. Relentless shrinkage in military manpower means that most civilians know no one in the services. The forces have ceased to be a central component of national life
(中略)
“Could” is the problem. Fears raised by Russia’s invasion of Ukraine and China’s rise may prove unfounded. This doubt is all the Treasury needs to keep shifting defence spending to the future. Not helping is the MoD’s lamentable procurement record, resulting in billions wasted on botched projects. NHS jam today is always more urgent than preparing for a war that might never happen. This is a sure way of increasing the risk.

Ever since the end of the Cold War, Britain and her European allies have been winging it with defence budgets of 2 per cent of GDP or less.

Donald Trump, possibly the next US president, has warned “delinquent” Nato partners who duck this 2 per cent level that he will leave them to the tender mercies of Vladimir Putin. Mr Trump likes to rattle his audience, but he raises the spectre of US retreat.

By virtue of their size and nuclear status, Britain and France (with Germany) must step up.

Grant Shapps, the defence secretary, and General Sir Patrick Sanders, chief of the general staff, have warned that the age of the peace dividend is well and truly dead. Mr Shapps says the country should consider itself to be in a pre-conflict phase.
(中略)
Of course, this ticking timebomb of military unpreparedness will be forgotten amid calls for tax breaks next week. Every so often this country must painfully relearn the lesson that to maintain the peace one must prepare for war. Defence is not just another spending department; it’s different.

□解釈のポイント■■■

①bobbies on the beat/巡回する警察官

ここでのbeatはもともと魚の生息域を意味する言葉です。そこから転じて縄張りや担当地域。on the beatで持ち場を回っているということになります。

じゃあbobbyって誰?ってなりますよね。BobbyはRobertの愛称ですが、このRobertさんは警察を作った首相Robert Peel卿です。
通常警察組織は地方自治体が運営するものですが、当時の不安定な情勢とロンドンの地域的な重要性を考慮したPeel首相が警察組織を設立しました。当時の市民達は青色の制服に身を包み棍棒を持って巡回する警察官に反感を込めて”Bobbies”と呼んでいたそうです。

Bobby本人(Robert Peel卿)はこんな人です

②wing it /即興でやりすごす

事前の練習や計画なしでその場をやりすごすという意味のイディオムで、元々は演劇用語です。割り当てられた役以外を準備なしでこなさなければならない場合、wing(舞台袖)の指示に従い即興で役を演じた事が起源です。

冷戦が終わって緊張感が薄れ、欧州諸国は入念に防衛を計画する事をしてこなかったという事をwing itしてきたと言っていますね。不景気や世論の反発があれば減らすなどしていたら合格線ぎりぎりのGDP2%付近、時としてそれを下回る防衛費の実績となってしまったんですね。まさに”平和による配当”を享受していたというわけです。

③ Every so often/時折

あるにはあるが、頻繁ではないという意味です。oftenに色々くっついてるのでなんか一見ものすごい頻繁な感じがしますが、そうではないという。

防衛費の重要性を思い返す場面は頻繁ではないにせよ必ずあるのだから、他のところにお金を使いたいという弱い心を押さえて計画的に使っていかないといけないという事ですね。幸いにも痛い目を見る事がそう頻繁にないという事に甘んじてはいけません。

■試訳

政府の支出は(選挙権を持つ)人々に歩み寄る事と無関係ではいられない。閣僚が病院や学校の予算削減を実施すれば自らの立場は危うくなるし、巡回する警察官を削減するのも賢い事ではない。一方で、防衛はどうか。大半の英国人は自国の軍が素晴らしいものである事を当たり前のように考え、日々の生活の中ではあまり気にしない。英国が最後に行った大規模な軍事活動は2003年のイラク侵攻だ。それに続く現地での治安維持活動と英国のアフガニスタンでの取り組みはほとんど注目を集めない。軍人数激減により、知り合いに兵役に就いている人がいない国民がほとんどである。軍隊は国民生活の中心的な要素ではなくなってしまっているのだ。
(中略)
この”可能性がある”というのが問題だ。ロシアのウクライナ侵攻と中国の勢力伸長への懸念は実態がないとなるかもしれない。この疑いのおかげで財務省は防衛支出を先延ばしにできるのだ。また、防衛省の調達実績も嘆かわしい状況で、何十億ポンドもの金額をかけたプロジェクトが失敗に終わっている。これも向かい風だ。近年のNHSでの混乱の方が、もしかするとない可能性のある戦争に対する備えよりも緊急性があると判断される。こんな事をやっているとリスクは確実に大きくなっていく。
冷戦終結後、英国と欧州の同盟国は深く考えずに防衛予算GDPの2%あるいはそれ以下にとどめてきた。次期アメリカ大統領となる可能性のあるドナルド・トランプはこの2%を下回る水準を下回るNATOの”怠惰な”加盟国に対して、ウラディミールプーチンの為すがままにすると警告した。トランプ氏は聴衆を脅かすのを好むが、撤退の可能性をちらつかせているのだ。
国の規模、核兵器の状況から英仏は防衛予算を拡大しなければならない。
防衛大臣のGrant Shappsと参謀総長のPatrick Sanders総督は平和による配当の時代は既に、確実に終わったのだと警告してきた。Shapps氏は英国が自国が開戦間近の段階にある事を自覚すべきと述べている。
(中略)
もちろん、軍備の不足という時限爆弾は来週の減税を求める声の中で忘れられてしまうのだろう。英国は時として痛みをともないながらも平和を維持する為には戦争に備えなければならないという教訓を思い出さなければならない。防衛は他と同等の支出部門ではない。全くの別物なのだ。

◇一言コメント:平和の配当

企業の利益を株主に還元するのが配当(devident)です。その期のPLが固まり損益が見えた段階で、どれだけ配当を行うのかを経営者が判断します。この損益が見えたという部分が、今回でてきたpeace devident(平和の配当)という比喩と決定的に異なる事を念頭におくべきでしょう。世界が平和であるという思い込みは往々にして楽観的な要素を含んでいます。事実冷戦終結後も世界の情勢は”平和”とは言い難いものでした。

現在の英国軍はまさに”busket case(最悪の状況 リンク先で解説しています)”というべきものです。軍人不足、兵器の老朽化など課題は山積みとなっており、これから数年はその遅れを取り戻すべく、安定していると言い難い財政状況の中出費を続けなければなりません。





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