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Vol.51#挑め!Leading Article/歴史を超えたサワーブレッド

今日のテーマは”サワーブレッド”というパン、というかそのパンを作るパン種の話です。

🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸

一般的なイギリスパンの特徴は外殻をきれいに取り除いた白い小麦粉をつかい、四角の型で焼き上げる事です(tin bread)。栄養価が高く、収納性が良いといった利点がありいかにもイギリスらしいものです。
しかし、食文化の成熟に伴い、伝統的な機能性重視のイギリスパンだけではなくドイツやイタリアといった周辺諸国からもたらされた多様なパンが食卓に並ぶようになりました。またロックダウン時の手作りブームも多様なパンの流行を後押ししました。今回はその中でも特に人気が高いサワードウという酵母を使ったパンの話です。

祖先が遺したサワードウを大事に育て続け、希望者に無償で提供する慈善事業を行ったサワードウの偉人も登場します。
パンについての語彙を確認しながら、読み進めていきましょう。

酸味も味わいですね

◎今日のLeading Article:Living History

The sourdough starter created in 19th-century America has attained mythic status
There was a time, not so long ago, when Britain was a bread basket case. The population subsisted on Mother’s Pride or Sunblest or, for the figure conscious, Nimble. The sliced whites were carefully purged of roughage, and when combined with fish paste or potted meat, a cheap spread of indeterminate provenance, represented the happy nadir of postwar British cuisine. And then, out of this desert, bloomed the bloomer, focaccia and sundry artisanals. But the coolest bread was sourdough, the making of which became a subject of rising interest during the bleakness of lockdown.

Not only was it a form of therapy but a pet. Because sourdough starter, the goo you make sourdough from, is alive: a bubbling mass of yeast and acid-producing bacteria (hence the tangy taste). If this culture is renewed regularly with infusions of flour and water it will continue to produce tasty bread. Carl Griffith’s great-grandmother understood this when, in 1847, she packed her starter before setting off with her family along the Oregon Trail, a 2,000-mile trek to a new life in America’s Pacific northwest. That starter did not die with her. It passed down through the generations until Carl decided that it merited a wider audience and began handing out samples free of charge.

The world owes an enormous debt to Mr Griffiths, who died aged 80 in 2000. Since then volunteers have continued to post off samples of the starter to sourdoughers around the world eager to benefit from its fabled consistency and robustness. Although donations are welcome, no charge is made. Demand is booming, so patience is advised.

That ball of chemistry, which bounced its way west on the back of a wagon 177 years ago, is still feeding families around the world. And the requirement of its offspring for attention continues to provide purpose for those who knead to be needed. Truly, it is the gift that keeps on giving.

□解釈のポイント■■■

①basket case/最悪の状態

戦場で重症を負って四肢を失った兵士を籠に入れて運んだことから最悪のケースをbasket caseと言います。歩かせたり、担架で運ぶ事ができない状態になってしまったら籠で運ぶしかないという事ですね。

一方でbread bascketはパンを載せておく籠で、一般的なキッチンで見かけるものです。このbread basketと上記のbasket caseを合わせてbread basket caseという造語を作り、一昔前のイギリスの救いようのないパン事情を表現しています。英国人の大好物、自虐ユーモアですね。

②sundry artisanals/種々様々な職人技

sundrig(ばらばらの)という古英語に起源をもち、様々なという意味です。artisanalは手仕事、職人技です。

パン工場で生産する食パンだけでなく、ドイツ風、フランス風、イタリア風など様々なパンの選択肢が増えてきたという事です。

③knead/こねる

押しつぶして丸くするという意味でパンをこねる事です。

ここではニードという読み方が重要です。purpose for those who knead to be needed(パンをこねる人から必要とされる有益性)というフレーズですが、このkneadに続くneededと韻を踏んでいます。


■試訳

英国のパンが最悪だった時代はそう昔のことではない。国民の生活を支えていたのはMother’s Pride かSunblest、体型を気にする人にはNimbleくらいという状況であった。スライスされた白パンは丁寧に繊維質を除去されており魚のペーストか得体のしれない安物のスプレッドである瓶詰め肉と組み合わせで提供され、第二次対戦後の英国式食文化の幸せなどん底を象徴していた。かくしてこの砂漠のような状況に花開いたのがフォカッチャと様々な職人技だ。しかし、その中で最もクールなパンはsourdoughだ。sourdoughづくりは寒々としたロックダウンの際に注目されるようになった。
サワードウづくりは癒しの一種であるだけでなく、ペットでもある。Sourdoughの素となるドロドロの物体は生きている。ぶくぶくと泡立ち、イーストと酸を生成するバクテリアの塊(そのため酸っぱい味になる)なのだ。小麦粉と水を加えて定期的に培養すれば、美味しいパンを作り続けることができる。
Carl Griffithの曽祖母はこの事を踏まえていた。1847年にこのパン種を荷物に入れて家族と共にオレゴン街道へと出発し、アメリカの太平洋岸北西部での新しい生活を目指した。そのパン種は彼女が他界した後も生き続けた。何世代もの間受け継がれて、Carlはより多くの人々の役にたつと考え無償でサンプルを配布することを始めた。
世界はGriffith氏に対して大きな貸しがある。2000年に80歳で他界しているが、それ以降も有志達が世界中のサワードウ利用者たちにサンプルの配布を続けており、受け取った人は評判の粘度と安定度の恩恵を得ている。寄付は歓迎しているが、利用料をとる事はしていない。需要が高まっているので辛抱強く到着を待たなければならない事に留意してほしい。

177年前に馬車の後ろにのって西側に広がっていった化学の塊が今もなお世界の家庭にパンをもたらしている。そして、そこから派生したパン種への要望は途絶えることなく、パンをこねる人たちの役に立ち必要とされている。実に与える事をつづける贈り物なのだ。

◇一言コメント:開拓者達

先祖から受け継いだとっておきのサワードウを無償で世界中の人に提供しつづけたGriffith氏は2000年に80歳でこの世を去りました。もともとは弁護士であったGriffith氏は長らく空軍に在籍した為、軍式の格式高い葬儀が行われ多くの人に見守られながら旅立ったとの事です。

Griffith氏の祖先はアメリカ大陸の東岸から豊かな土地を求めて西岸に移動した開拓者でした。サワードウを運んだ馬車もまたそんな開拓の一風景です。自分たちの生活を自分たちの手で守り、人の役にたつ事を進んで行う気質はアメリカの礎を築いた開拓者達の良い側面であり、Griffith氏もそれを受け継いでいたようです(悪い部分も勿論あると思いますが)。

要望に応じてサワードウを送る活動は今も有志の手によって続いているようです。


なおwebにでてくるSASEはSelf-addressed stamped envelopeで自分の住所を書いて切手をはった封筒です。これを送るとサワードウを入れて返送してくれるという運用です。

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