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親泣かせ と 親情け

(ピンポーン…)
実家のベルを鳴らす。
返事がない。
(ガチャ…)
ドアには鍵がかかっていない。家の中には気配もない。
(え、不用心…)
「ただいまー!ただいまー!」
大きな声をだしてみた。

しばらくたって父がノソっとでてきた。
父も耳が遠くなったものだ。

『あれ…よく来ましたね〜。』

自分が社会人になったあたりからか、
父は自分に半分敬語を使うようになった。

『大変だったねー。』
妻から最近の自分の事情は聞いているらしい。
(まぁ、俺が突然実家に帰るぐらいだから色々察してはいるんだろうな…)

父と二人。

ーーー。

まじめな話をするときはどういう顔をすればよいか分からない。

『…まぁ、人間できることをするのが一番ですよ。』
口を開くと、一気に父はしゃべりだした。
年配特有の人生君。
違う。
自分が話したいのは、聞きたいことはそうではない。

少し、間があいた。
やっと自分のターン。
思い切って口を開く。

「あのさ、俺、人に嫌われることがすごい苦手なんだ。
…幼い頃、兄貴によく殴られて、
俺は兄貴に合わせなきゃって、
兄の機嫌をとらないとって、
自分の意見もなくなって。
兄貴に殴られたとき、体がカーッと熱くなってた。

今も、人に何か言われると体がカーッとなって、
頭が真っ白になる。
あのときの自分と同じ。
幼いころの自分が今も自分の中にいて、
でてくるんだ。」

自分で自分のことをこんなに家でしゃべるのは初めてだ。
自分も父も家では寡黙な役割だった。

「もっと自分で自分は仕事できるんだって思ってた。
10年間努力してきたから。
でもダメだった。
若い頃は勢いと努力でやってきたけど
だんだん疲れてきた。
エネルギーが尽きて、
もう無理だった…」

父はどんな顔をして聞いているのだろうか。
うつむきながら話しているので分からない。

今度は父のターン。

『まぁ自分の家族とか色々あるけど、
大事なのは、あなたが何をしたいかってことだよ!!』

何だか父のギアが一つ上がった。

(え、声おおきい..)

『自分の意見を..えっぐ..えっぐ…』

(え、話しながら泣き出した!?情緒不安定!?)

『本当..えっぐ..申し訳なくて..えっぐ、えっぐ…』

(何だか話もとっちらかってきている!?)

『えっぐ..まぁ、今は色々な仕事もあるから
自分がやれることをやるのがいいよ。』

(あぁ、何とか落ち着いた。着地成功。)
父の話、何が言いたいのかはよく分からなかった。
さすが自分の父だけあって情緒不安定だ。

少し落ち着いて自分のターン。
「オヤジは倉庫番みたいな仕事30年やって、、、
何が楽しかったの?」
どんな気持ちで父は働いていたのか、純粋に聞きたかった。
家族のため?
お金のため?
自分のため?

『ぼくは、人の嫌がることやるのが

楽しかったんだよ。』


さらっと言った。
あぁ、、、かなわない。
すごい人だ。
幸せになれる人だ、、、

啓発本に書かれている利他の精神。
情けは人のためならず。
だから自分のできる限りのことをした。
その結果、「損」という傷を自分に塗りつけた。

理屈ではなかった。

感情レベルの精神でないと
情けは、情けなく自分を追い詰める。


(この人は感情レベルで情けをもっているのだろう。)

下を向きながら涙がこぼれた。
父の前で泣いたのは初めてか。
声はださない。
静かな涙にしたい。

「あのさ、俺、前に父さんとの思い出、
全然ないって言ったじゃん。」

「オヤジ」と言ったり「父さん」と言ったり、
父とはいつまでたっても話し慣れない。
あいずちもない。
父は聞いているのか。
耳が遠くて聞こえないか。

ーそれでもいい。

下を向きながら、少し大きめの声で話す。

「今、娘が俺のお腹に抱きついてきて
、、、それで思い出した。
俺もお父さんのお腹の上によく乗ってたわ。」

覚えていないのか、
聞こえていないのか。
窓の方を見つめている父。


「ありがと。」


最後の言葉はやはり小さくなった。


『あぁ。』


返事とも分からぬ小さな声を父はだした。
いつしか父は自分に敬語を使わなくなっていた。


__幸せ。
自分を想って泣いてくれる親がまだこの世界にはいる。
(大丈夫、まだ道はある。)
デコボコだらけの道だけど、
まだ進める。
何も現実は変わっていないけど、
帰り道はなぜか少しだけ心が軽くなっている気がした。



【あとがき】
これで6月20日の日記は終わりです。
最後まで読んでいただいた方本当にありがとうございました。
日記を書きながら、
noteを書きながら、
自分の気持ちも少しずつ浄化されました。
今もそうですが、きっとこれからも
自分の気持ちはデコボコ上がり下がりすると思います。
その度に、このnoteを自分で見返して励みにしたいと思います。
(自己満足ですいません!)
情けない自分ですが、これからもどうかよろしくお願いします。



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