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白い巨塔 2023年9月号無料版

ビッグモーターの事件が世間を騒がしている。組織内での権力者との付き合い方や権力とはそもそも何なのか考える時なのかもしれない。抜群のテキストが日本にはある。山崎豊子作「白い巨塔」だ。

 私が白い巨塔に初めて触れた作品は平成に放映された唐沢版白い巨塔だ。子供時代から再放送含め何度も見返した。人の正しい生き方とは何かを考えさせられる。大好きな作品だ。子供のころは、里見先生のまっすぐで正義感あふれる生き方が、ヒーローのようで正しいと思えた。しかし、この度また改めて見てみると、まったく同じようには感じられなくなった。これが大人になるという事かと少々戸惑っている。

 そもそも白い巨塔とはどういう物語なのか、ここで簡単に説明しておこう。舞台は大阪の大学病院である。食道外科の若き権威者と称される主人公、第一外科の財前助教授は、東教授の来年の定年退官により、次期教授に向けて院内工作を始める処が第一パートである。絶対的な自信と技術、長年助教授として教授に尽くしてきたという重いから次期教授は必ず自分のものだと思っていたが、東教授の嫉妬深い性格から怪しいものとなり、大学病院内の教授、権力者を巻き込みながら、様々な人間の感情が渦巻く群像劇となっている。

晴れて大学教授の座についた財前は、外国の学会にも招待され、国内外の両方にその実力を知らしめる。しかし、ひとりの患者を死なせてしまったことにより遺族による訴訟を起こされ、裁判を戦うことになるのが第二パートだ。絶頂に上り詰めたかと思った矢先のブレーキである。

 最初から最後まで、物語の重要なポイントは、財前とは正反対の同期の助教授里見だ。冒頭にも述べたが、まっすぐで正義感の強いヒーローのようなこの男は、大学病院のような所では異質であり、私から見てもサイコパスのように見える。

 唐沢版ドラマだけを見て、財前と里見両者を比べてみると、内なる野望を秘めながら、大学病院という旧時代的な封建社会を生きる財前。社会にとらわれることなく、自分が思う「こうあるべきだ」を貫こうとする里見。面白いのは、一見正しく見える里見よりも、権威を欲した財前の方が明らかに人を救っていることだ。(救うという定義にもよるかもしれないが)

この作品に触れてつくづく実感することは、人には七つの大罪が存在し、破滅へと向かう事だ。傲慢の財前や、嫉妬の東など、七つの罪に当てはめて作品内のキャラクターを見てみるのも面白い見方だなと感じた。PS 唐沢版白い巨塔にはここに述べなかったもう一つの見方があるが、ここでは割愛することにする。

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