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「首」2回目/魔性の男光秀たん

先日、「首」を見た感想を書きました。今日2回目を観てきて、前回の感想にはいくつか勘違いがあり、また、今回解釈が変わった部分が出てきたので、書いておこうと思います。前回の感想は初回の感想ということでそのまま置いておきます。

また、前回の感想を読まなくてもわかる仕様になっているので、縁があれば読んでいただけたら嬉しいです。



「首」は信長、光秀、村重の3人の愛憎が描かれている。その愛とは性愛である。惚れた腫れたの話である。
信長は村重を寵愛して可愛がっており(寝てます)、同時に光秀に惚れている。
実は信長が本気で手に入れたいのは光秀である。
しかし光秀はつれない。(たぶん光秀と信長は寝ていません)

この映画での光秀は、西島秀俊が大変美しく演じている。うるさい京の庶民も美しいと認めている。優美で洗練された武者として描かれている。戦も上手な美丈夫である。ただし中身は平凡で薄っぺらいところがある。
キム兄演じる新左衛門には、陰気で退屈な男、などと言われている。
薄っぺらいが雅びで美丈夫な光秀に、信長と村重は夢中なのが面白い。
おそらく信長と村重はすでに関係を持っていて、そのあと村重と光秀は結ばれているのだと思う。
村重が信長に反乱を起こし、光秀が降伏するよう使者として城を訪れるシーンがある。
2人きりで、村重は「お前が俺を初めて抱いてくれたとき…」など、なかなか直接的なセリフを言っている。村重はキスを迫って光秀にひっぱたかれる。「今は敵と味方だ」と光秀は突き放す。ちょっと笑ってしまうシーンである。遠藤憲一が情けなく愛嬌たっぷりに演じている。村重は光秀に介錯してくれ、お前に斬られるなら本望だ、と言い、光秀は「そんなに俺を想ってくれているのか」などと感激している。2人は大真面目なのに滑稽なシーンである。

光秀は大変プライドの高い男である。愛するより愛されたいタイプなのである。

光秀は自分に惚れている村重がかわいくて見捨てることができない。
光秀は村重を逃がしてやり、最終的には自分の城にかくまってしまう。村重は一族郎党処刑されており、光秀に見捨てられたら終わりである。光秀にすがりつく村重を、光秀は見捨てることができない。

しかし村重は謀反人である。信長は血眼になって村重を探しており、本当なら光秀は村重を捕まえて、信長に差し出さなくてはならない。それができないので、光秀はじりじりと焦っていく。

さて、信長は光秀に惚れている。頼りにもしている。光秀が村重をかくまっているなどとは夢にも思っていない。
しかし光秀はつれない。光秀にひどい折檻をした後、「俺を好きになれ、俺を好きになってくれたら天下は俺とお前の2人のものだ」などと囁き、キスしようとする。光秀は顔を背ける。

男女の恋愛と違うのは、2人ともプライドの高いオスであるということだ。
光秀は次の天下は自分のものだ、と思っている。信長は信長で、天下人として光秀を屈服させて自分のものにしようとしている。光秀は屈服などするものか、と突っぱねる。
それでいて、実は2人とも内心では愛し合っているのである。光秀は信長を殺すことを夢見ながら、同時に強く惹かれている。
また、信長が1番愛しているのは俺だ、という自信がある。だから彼は信長に対して意見するし、信長に口説かれてもそれを無視したりする。性愛の世界では、彼は信長よりも立場が上なのである。
信長はなんとか光秀を手に入れたくて暴力を振るう。

村重は光秀に対しても、信長に対してもオスみは出さない人で、SかMかでいえばMである。だから光秀と信長のような緊張した関係にはならない。

冒頭のあたりで、信長が村重に刀に突き刺した饅頭を食べさせ、村重の口の中が血だらけになるシーンがある。これは、きっかけは信長が光秀と村重の仲の良さに嫉妬したからである。
信長は血だらけになっても饅頭を食べた村重をかわいい男だと抱きしめキスをする。屈服させたい男なのである。光秀は信長に屈服してくれない。光秀に惚れている信長に冷たくすることで優位に立っている。

さて、村重を自分の城にかくまうことで、光秀はじりじりと精神的に追い詰められていく、そんななかで光秀は信長を怒らせ、殺されそうになる。信長は宣教師に刀を持たせ、光秀の首を斬るように命じる。死を目前にして、光秀は、「自分もお館様をお慕いしていました」と声を振り絞って叫ぶ。
信長の想いが成就した瞬間である。また光秀をついに屈服させた瞬間でもある。
光秀は放心して自分を抱きしめる信長の背中に手をまわす。

彼らの色恋が現代の一般的な恋愛と違うのは、パワーゲームであることである。また、旧来型の武士である彼らは天下にこだわり、首を狙いあっている。

彼らがここで見せる愛憎は、いわば天下を取り合うことと同じことである。

さて、信長にあなたをお慕いしていた、と告白してしまった光秀は、もう現実の信長を殺してしまうしかない。それしか信長に勝つ方法はないのだ。

光秀は信長を討つことを決意し、口封じに村重を殺してしまう。
この殺し方について、誤解をしていたので訂正したい。

光秀は最後まで村重がかわいい。だから死ぬところを見たくないし、彼を斬ることができない
部下の斎藤利三は光秀を敬愛しており、村重など早く斬ってしまいたい。村重の首に刀を突きつけているが、同じく村重の首に刀を突きつけていた光秀は刀をおろしてしまう。光秀の甘いところである。
光秀は村重を箱に閉じ込め、部下に命じて崖の上から箱を落とさせる。その崖に光秀はいない。死ぬところを見たくないのだ。

そのくせ、天下を取りたいから村重を殺すのである。

さて、これら三角関係のどろどろした感情を利用して光秀を謀反に誘導していくのが秀吉一派である。
彼は百姓出身であり、衆道の趣味はない。
ただ利用するのみである。

光秀をトップとする三角関係で、謀反が起こったり忍びが死んだりする。彼らはその死に無関心である。武将の嫉妬や色恋沙汰で殺されるのではたまったものではない。

彼らの色恋沙汰は滑稽であり、ブラックジョークのようだ。この映画は全編通して無情でありシニカルであり、悪いジョークである。

信長も、光秀も、天下というパワーゲームにこだわり、首にこだわる。
秀吉はそんなものなんだ、と蹴りを入れる。百姓の自分をいつまでも仲間に入れてくれない武士たちへの怒りであり虚しさである。百姓の俺が天下を取ってやるよ侍どもめ、ということである。

話がそれた。

「首」の光秀は、西島秀俊がとても美しく演じている。魔性の魅力である。ここに書いてある以上に色んな感情が渦巻いている三角関係なので、ぜひ映画館に観にいってほしい。




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