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高校野球マニアック地区予選試合展望#第106回全国高校野球選手権大会#北北海道十勝地区予選代表決定戦(令和6年6月29日第二試合)#帯広農業高校VS帯広大谷高校に注目

どちらも地区予選で消えるのは惜しすぎる。「十勝の絶対的王者」と「プロ注目左腕を擁する強豪校」が対戦。

106回を迎える全国高校野球選手権の北北海道十勝地区代表決定戦が熱い。
なぜ熱いかと言うと「甲子園に行ってもおかしくない」という両校のどちらかが、地区予選で消えてしまうからである。

地区予選というのは広大な北海道ならではの方式で、北北海道大会の出場をかけて、まずは同じ地区(地方という)の学校同士で対戦して地区代表を決めるのである。

大抵、地区から複数校(十勝地区は3校)が選ばれ、代表を決めるブロック制が設けられており、そこで強豪校同士が潰しあうことは先ず無い。しかし時に、「まさか」という事も起きるのが高校野球。

夏大会のシード権がかかる春大会で、帯広農業高校が運悪くシード権を逃し、抽選の妙により何とも勿体無いカードが実現した。
大阪予選に例えると2回戦で「大阪桐蔭」と「履正社」が当たる様なものである。

「十勝の絶対王者」帯広大谷高校

3試合で得点20点、失点0

これは帯広大谷高校の春季十勝予選の成績である。
対戦相手も1回戦:帯広南商業高校、準決勝:帯広工業高校、決勝:帯広三条高校であり、決して対戦相手が弱小だった訳ではない。
何故なら3校とも上述した地区代表決定戦に駒を進めているチームだからだ。

春季北海道大会では緒戦で北海高校に敗れているが、北海高校と言えば「北海道の絶対王者」であり、春季北海道大会の優勝校となった。その北海高校を4対4でタイブレイクまで持ち込み最も苦しめたのが帯広大谷高校だ。

現チームになってからの北海高校は公式戦で、北海道の高校に敗れておらず、「北海道の絶対王者」と呼ぶに値するチームである。

それには劣るが帯広大谷高校も現チームになってから、公式戦では十勝地区では負け知らずで、公式戦で土を付けたのは、東海大札幌(秋季北海道大会準決勝)と、北海高校のみ。

「十勝の絶対王者」と言われる所以である。

では、その「十勝の絶対王者」に最後、土を付けたチームはどこか?
それが帯広農業高校である。

「甲子園を知っている」帯広農業高校

2021年、帯広農業高校は甲子園に出場している。
緒戦で世代最速157キロの風間投手を擁する明桜高校(秋田)に2−4と惜敗したが、北北海道代表として見事な戦いぶりであった。
2020年の甲子園交流試合にも21世紀枠で出場し、健大高崎を破るジャンアントキリングを演じている。
帯広農業高校は十勝地区で一番、甲子園を知っているチームである。

甲子園を知っているのは監督、選手だけで無い。
応援団や父母、学校関係者も甲子園は身近なものと実感している。
南北海道の甲子園常連校である北海高校を観て感じることは、甲子園に行くための応援やバックアップを心得ているという点だ。

そんな甲子園のDNAを引き継ぐ帯広農業高校と、絶対王政前夜の帯広大谷高校が、昨年(2023年)の選手権大会十勝予選2回戦で対戦した。

結果は7−0(7回コールド)で帯広農業高校が勝利。
何ともあっけない結末であった。

帯広農業に見えて帯広大谷に見えてなかったもの(7秒の壁)

2023年6月25日、帯広農業高校は帯広大谷高校のシートノックを計測して、ある仮説を立てた。そして、それは2回表に決行された。

センター前ヒットで2塁走者が生還して先取点。

ただの先取点だが、これで帯広農業高校は確信した。
「帯広大谷高校は地区大会レベルのチーム」
全国を知っている彼らは精神的優位に立ち波状攻撃を仕掛ける。
2回に2点、3回に5点。
得点機はそれだけだったが、試合を決定づけるのには十分だった。

果たして帯広農業高校はシートノックで何を計測していたのか?
それはバットがボールに当たってからホームに返球されるまでのタイムだ。
強豪校なら当たり前に意識している数値である。
甲子園出場校なら「6〜6.5秒」が求められる数字だが、地区予選レベルのチームではそこまでレベルでは無いと判断して、帯広農業高校では、その基準を「7秒」と設定して常に意識している。

帯広大谷高校のシートノックで俊足・強肩で知られるセンターの返球が7秒をオーバーしていた。これはフィジカルの問題では無く意識の問題である。

グランドに存在する「7秒の壁」が、帯広農業には見えていて、帯広大谷には見えてなかった。

「見える者が見えない者を攻撃する」これは奇襲攻撃の鉄則である。
甲子園で「機動破壊」のお株を奪った帯広農業が、帯広大谷の隙をつくのは容易い所業であった。

因縁の両校

帯広農業高校の選手は、守備につく際に手でグランドをならす。不思議に思うかもしれないが、それには理由がある。

2018年6月25日、選手権大会の十勝地区予選。帯広農業は帯広大谷に9回2アウトまで3−2でリードしていた。しかし試合が決まるはずのセカンドゴロがイレギュラーして同点に追いつかれ、延長戦で敗れてしまう。

それ以降、帯広農業高校の選手は、守備につく際に手でグランドをならすという。その他に「守備につく時は外野の芝から行く」、「バットは丁寧に置く」等の意識改革が、後の甲子園出場に繋がったと言っても過言では無い。

そして2021年7月25日、帯広農業が念願の甲子園を決めた試合。
対戦相手は帯広大谷だった。仮に結果が逆だったとしたら「甲子園を知っている」のは、帯広大谷だったかもしれない。

そして前述した2023年6月25日のコールド試合。
その両校が再び対戦する。
今年はどんな結末を迎えるか、期待は膨らむばかりである。

帯広大谷(見えにくい強さの秘密)

帯広大谷の強さは、バランスの取れた打線と、試合を作れる投手が複数名存在するところにある。
加えて秋季、春季と全道大会を経験し、本気の強豪校を知っているという点である。

打線はチームに一人いれば有難いキープレーヤーが、打者の大半を占めており、打者個人の好不調により戦力が左右されない強みがある。また札幌ドームや円山球場を知っている経験豊かな投手陣を有しており、こちらも好不調で使い分けられる優位性がある。

そして何よりも着目したいのが「走力」である。
帯広大谷には50m6秒台前半の選手が複数名いる。
この複数名というのが肝である。

秋季全道大会で勝利したのも、この要因が大きい。
内野ゴロを容易くアウト出来ない。そんな打者が、複数名いることで、内野手は軽いパニックになる。帯広大谷の先取点は、この混乱に乗じたものが多い。

春季全道大会で北海高校から奪った先取点も、道内屈指の内野手による悪送球であった。
一流選手ほど送球に独特の間を持っている。それが乱れると混乱する。
ゴロを捌くとイメージより一塁に近い位置に、ランナーがいるのだ。
それが他の選手でも同様な事が起きると、「何かがおかしい」「自分の調子が悪いのか?」と錯覚してしまう。
そんな威力が帯広大谷の走力にはある。

強力打線や豊富な投手陣に隠れがちだか、これが不気味な強さの秘密である。

帯広農業(ミライモンスターの存在感)

帯広農業にはプロ注目の絶対的エース左腕がいる。
緒戦は9回2アウトでノーヒットノーランこそ逃したが、22奪三振の完封勝利。投手が勝敗の7割を占める競技において、絶対的エースの存在は大きなアドバンテージとなる。

十勝地方はサウスポーの宝庫であり、過去2名の左腕をプロ野球に輩出している。これはプロ野球選手と縁遠い地区では特筆すべき事である。

私事だが自身の高校自体、1人目のプロ左腕と対戦した事がある。
2年時と3年時に公式戦で計6三振ほどお見舞いされたが、そこで感じたことは、これがプロが注目する選手の球なんだなという点だった。

勿論、スピードは速いが、それ以上にムチのような球筋であった事。投げた瞬間にワンバウンドすると感じるも、気付いたらキャッチャーミットに入っている感覚。

天才と凡人の差を見せつけられた思い出したくない記憶だが、噂では今回のミライモンスターも同様のタイプだと聞く。帯広大谷打線のうち何名が対応できるかが鍵を握る。
複数の好打者カードを有する事が帯広大谷の強み。
秋季全道大会で北見柏陽のミライモンスター左腕を攻略した時の再現なるかは、乞うご期待。

勝敗の鍵は「球場の空気」

2023年WBCのメキシコ戦9回の裏。
大谷選手が二塁打を放ち、申告敬遠で出塁した吉田選手の代走として周東選手が登場。その瞬間に周東選手が快速を飛ばしサヨナラのホームに滑り込むイメージを浮かべたのは私だけでは無いだろう。

「イメージは現実化する」

古くは長嶋選手の展覧試合サヨナラ弾。
WBC絶不調のイチロー選手の起死回生タイムリー。
そして甲子園球児の奇跡の数々。

そこには「あるかも」という予兆があり、それを作り出すスターがいる。

帯広農業のミライモンスターが、その類のスターになり得るのか?
ミライモンスターのお兄さんは、2021年に帯広農業で甲子園に出場している。その背景や肘の怪我からカムバックしたストーリー。

21世紀枠で甲子園出場を決めた時の帯広農業は、観客を味方につける「イメージのマネージ」に長けていた感があった。

そのターニングポイントになるのが、本日(2024年6月29日)の試合であり、勝敗を左右するのは球場の「応援してあげたい」「このチームの試合を次も観たい」という空気ではないか?

注目の一戦は、あと4時間ほどで始まる。
応戦に行ける方は是非、帯広の森野球場に。

試合結果と振り返りはコチラ


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