見出し画像

提示された要件で忠実に開発することに順化したシステム人材に「顧客価値的DX」を求めても酷な件

はじめに

筆者は生命保険会社のCDOとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

日本のシステム開発は長年、要件定義に忠実であることに重点を置いてきたが、急速に変化するビジネス環境への対応には課題がある。本稿では、日本のシステム開発の現状と課題、DX推進に必要な取り組みについて論じていきたい。

日本のシステム開発の課題

日本のシステム開発は、要件定義に基づいて忠実にシステムを構築することに重点が置かれてきた。この手法は、安定性と信頼性の高いシステムを生み出す一方で、変化への対応力に欠ける面がある。現在のビジネス環境は急速に変化しており、システムにも迅速な適応が求められている。しかし、従来の開発手法では、要件変更への対応に時間がかかり、ビジネスニーズに追いつけない状況がある。

また、日本のシステム開発は、ウォーターフォール型の開発手法が今でも主流である。しかし、この手法では、上流工程で決定した内容を下流工程で変更することが難しい。結果として、変化への対応力が低下してしまう。アジャイル型の開発手法も導入されているものの、日本企業の多くは、アジャイル型の導入に踏み切れていない。プロジェクトマネジメントの方法や、組織文化との親和性などに課題があるためだ。

情報システム人材の課題

日本の情報システム人材は、技術的スキルに優れている一方で、最終顧客の価値理解や、ビジネス観点での発想力に課題がある。(筆者はJTCのシステム部員を30年以上やっているので言ってもいいだろう)

DXの推進には、技術だけでなく、ビジネス知識や創造性、コミュニケーション能力が必要だ。しかし、多くの情報システム人材は、要件定義に従ってシステムを構築することに慣れ親しんでおり、自ら課題を発見し、解決策を提案する力が不足している。

この背景には、日本の情報システム部門の位置づけがある。多くの企業で、情報システム部門はコストセンターとして認識されており、ビジネス部門から独立した存在となっている。そのため、情報システム人材はビジネスの最前線から遠ざかり、顧客価値への理解が深まりにくい環境にある。

また、日本の情報システム人材は、特定の技術領域に特化する傾向がある。例えば、メインフレーム系の技術者、オープン系の技術者、ネットワーク系の技術者などだ。これは、日本企業のシステム開発が、特定のベンダーや技術に依存してきた歴史と関係している。しかし、DXの推進には、多様な技術を組み合わせ、ビジネス課題を解決する力が必要である。特定領域の専門性だけでは、DXを牽引することは難しい。

人材育成の課題

日本の情報システム人材育成は、プログラミングや設計といった技術的スキルの習得に偏っており、ビジネス観点やイノベーション思考の育成が不十分である。DXを推進するには、技術とビジネスの両方を理解し、新たな価値を生み出せる人材が必要である。しかし、現状の人材育成システムでは、そのような人材を育てることが難しい。

企業の人材育成においても、技術トレーニングが中心で、ビジネススキルやイノベーション思考の育成は後回しになりがちだ。研修プログラムも、座学中心で、実践的な学びの機会が少ない。また、情報システム部門の人材を、ビジネス部門へローテーションさせる取り組みも少ない。

DX推進に必要な取り組み

DXの成功には、システム部門とビジネス部門の緊密な連携が不可欠である。両部門が一体となって、顧客価値の創出や業務プロセスの改善に取り組む必要がある。そのためには、情報システム人材のスキル転換と意識改革が求められる。

技術的スキルに加え、ビジネス知識やコミュニケーション能力を身につけ、ビジネス部門と対等に議論できる人材を育成しなければならない。また、ビジネス部門の人材も、IT リテラシーを高め、システム部門と協働できる素地を作る必要がある。

これを実現するには、人材交流や共同プロジェクトなどを通じて、両部門の相互理解を深めることが有効だ。また、ビジネス発想や顧客価値向上、デザイン思考の手法を活用し、両部門が一体となって、イノベーションに取り組む機会を増やすことも重要だ。企業と教育機関が連携し、実践的な人材育成プログラムを提供することも有効である。

まとめ

日本のDX推進には、情報システム人材のスキル転換と意識改革、企業文化の変革、人材育成システムの見直しが必要である。これらの課題に官民一体となって取り組むことで、日本のDXを加速させることができるはずだ。

DXは、単なるシステム開発の延長ではない。ビジネスモデルの変革であり、イノベーションの創出である。日本企業がDXで成果を上げるには、情報システム部門の役割を、コストセンターからバリュードライバーへと転換させなければならないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?