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JTCの新規事業アイデアコンテストは「社員の想いだけでやらせてはいけない」件

はじめに

筆者は生命保険会社のデジタル共創オフィサーとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

この中で、JTC事業会社からよく聞かれることの一つに「新規事業のアイデアコンテストをやっているが、入賞した社員のビジネスを検討させても上手くいかない。スケールしないし、本業に役立たない。どうしたら良いかわからないので教えて欲しい」ということがある。

新規事業アイデアコンテストは、社内の創造性を刺激し、イノベーションを促進するための有効な手段であることは間違いない。しかし、単にアイデアを募集し、入賞者を決めて専任としてビジネスを検討だけでは、実際のビジネスに結びつけることは難しい。それは多くのJTCのビジネスアイデアコンテスト経験者が感じていると思う。

何故、上手くいかないのか

では、何故上手くいかないのか。筆者の経験と多くの人から聞いた話をベースに考えていこう。理由は大きく4つある。

①やりたいことが自由過ぎ

社員が提案するアイデアは、しばしば現実的な制約を考慮していないことがある。誰もが素晴らしいアイデアだと感じて発案した社員に検討させたが、実施内容が魅力的にならないケースである。全然進まないので聞いてみると「内容が現実的でないので、検討しても無理だろう」と思ってしまうような話だ。

例えば、客も多く、ビジネスモデルも多様な「商売がしやすい」東京エリア限定でしかビジネスをしていない企業の社員が、全国の地域活性化ビジネスを熱く語るなどである。地域は人口減、若者流出、高齢化、産業空洞化で、これを支援して活性化させてるビジネスアイデアは誰もが良いと思うが、東京エリア限定企業にはノウハウや土地勘が無さすぎるので大抵の場合検討が進まない。

地域ビジネスにはその地域の顔役とのネットワークが必要であったり、助成金の知識が必要であったりする。逆に過疎地域に住んでいたことなどは強みになるし、ふるさと納税の申請知識、体験型消費の知識などがあったりすると有利である。マニアックなところでは、地域通貨の知識や他の地域通貨との交換ルール、地域のダムや発電所や廃墟など観光資源としての流行らせ方などのノウハウや土地勘もあると検討が進む。知識やノウハウが必要な「本人の想いだけではどうにもならない」シビアな世界なのである。

技術的な実現可能性、市場ニーズ、法的規制など、ビジネスを成功させるためには多くの要因を考慮する必要があるが、それらを深く考慮していない「自由過ぎて現実的ではない」ビジネスアイデアは検討しても深くならない。「社員が頑張ってるから」「成長するだろうから」「これを機に全国展開できるかも知れないので検討を続けるべき」と検討のストップを先延ばしにしてはいけない。たっぷり考えた挙句にお蔵入りになると社員にも会社にも不幸である。

②社内有識者とリソースの問題

誰もが「それいい!頑張って考えたな」という優秀なアイデアであっても、それを実現するための社内有識者と社内リソースが不足していては、ビジネスとして成功することは難しい。人材、資金、技術など、必要なリソースを確保できなければ、アイデアは絵に描いた餅となる。アイデアコンテストはやるが、実現リソースまでは考えてなかったというのがJTCには多い。そもそもJTCは新規ビジネスにめっぽう弱いし、アイデアは苦手で時間を与えても調査的な仕事しかしない。

社員のアイデアが良くても会社的に進めていくノウハウがないのであればアイデアコンテストはJTCの闇となる。

③本業との連携が弱いか、まったくない

新規事業が本業と全く関連性がない場合、社内の理解と協力を得ることが難しくなる。本業との連携を考慮せずに新規事業を進めると、社内の反発を招き、事業の継続が困難になることが多い。「それ何の役に立つの?」「自由過ぎだろ!」というやつだ。

④社員の動機が不純

アイデアコンテストに応募する社員の中には、単に賞金や転勤を目的としている人もいる。今の所属や上司、先輩とソリが合わないのでコンテストを使って逃げようとする。真剣に事業化を目指している社員でなければ、アイデアを実現するためのモチベーションを維持することが難しい。

新規事業コンテストを成功させるためのコツ

では、どのようにすれば新規事業アイデアコンテストを成功させることができるのだろうか。いくつかのコツを紹介する。

①明確な目的と評価基準の設定

アイデアコンテストを開催する際は、明確な目的と評価基準を設定することが重要だ。単に面白いアイデアを募集するのではなく、会社の戦略に沿ったテーマを設定し、実現可能性や市場性などの観点から評価することが必要である。

②社内外の専門家の関与

アイデアの評価や実現可能性の検討には、社内外の専門家の関与が不可欠だ。技術者、マーケター、法務担当者など、様々な分野の専門家の意見を取り入れることで、アイデアの精度を高めることができる。

③本業とのシナジー

新規事業は、本業とのシナジーを追求することで、社内の理解と協力を得やすくなる。本業の強みを活かしつつ、新たな価値を提供できるアイデアを優先的に検討することが重要だ。

④事業化プロセス

優秀なアイデアであっても、いきなり大規模な事業化を目指すのは得策ではない。まずは小規模な実証実験を行い、事業の有効性を検証することが重要だ。段階的に事業規模を拡大していくことで、リスクを最小限に抑えつつ、事業の成功確率を高めることができる。

⑤社内外のパートナーシップの活用

新規事業を成功させるためには、社内外のパートナーシップを活用することが有効だ。自社だけでは不足するリソースやノウハウを補完するために、他社との協業や外部人材の登用を検討することが重要である。ここにエフェクチュエーションが活きる。

トップのコミットメント

新規事業を推進するためには、トップのコミットメントが不可欠だ。トップ自らが新規事業の重要性を社内に発信し、必要なリソースを確保することで、社内の理解と協力を得やすくなる。

失敗を許容する文化の醸成

新規事業は、失敗のリスクを常に伴うものだ。失敗を恐れずに挑戦できる社内文化を醸成することが重要である。失敗から学ぶことを奨励し、失敗を次の成功につなげていく姿勢が求められる。

まとめ

新規事業アイデアコンテストは、社内のイノベーションを促進するための有効な手段だが、単にアイデアを募集するだけでは不十分だ。明確な目的と評価基準を設定し、社内外の専門家の関与を得ながら、本業とのシナジーを追求することが重要なのだ。

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