見出し画像

JTC大企業では「時間を与えるほど、ビジネス発想が調査結果的で具体性に乏しくなってしまう」件

はじめに

筆者は企業や自治体、官公庁の職員や社員にデジタルビジネス発想研修を5年以上実施してきました。これまで1300人にワークショップを提供してきました。その中で感じることは、特にJTC大企業では「時間をかけるほど、ビジネス発想が調査結果的で具体性に乏しくなってしまう傾向がある」ということです。

筆者のビジネス発想ワークショップには2種類あり、1日でビジネス発想する短い時間しか与えないものと数週間たっぷり時間を与えるものがあります。前者は時間が短いのでたっぷり調査する時間もなくビジネス発想に注力するので、短い時間の割には(短い時間だからこそと思っていますが)良いビジネス発想が出てきます。

後者は企業カスタマイズバージョンであり、企業の考えで与えられる検討時間が決まり、各社割と長い期間を設定しがちです。この長い時間を与えるビジネス発想ワークショップで「時間をかけるほど、ビジネス発想が調査結果的で具体性に乏しくなってしまう」ことが良く起こります。

30枚のプレゼン資料でいえば、27枚が調査結果で肝心のビジネスアイデアが1枚か2枚残りはスケジュールと注意点といった感じで、調査結果的な内容が膨大で、解決策の導き方や具体的顧客価値の部分が少なく薄いのです。これは、イノベーションを生み出し、競争力を維持するうえで大きな課題です。本記事では、この問題の背景にある要因を探り、それを克服するための方策について考察します。

具体的なアイデアが弱い理由

JTC大企業の社員のビジネス発想アイデアが調査結果報告的で具体的でない理由には、いくつかの要因が考えられます。

1. 実践経験の不足

多くのJTC社員は、自ら商品やサービスを開発・販売した実践経験が不足しています。アイデアを具体的に落とし込むためには、市場ニーズの把握、技術的な実現可能性の検討、収益性の試算など、様々な観点からの検討が必要です。しかし、大企業の分業の中で部分的仕事をしてきた社員には、こうした経験を積む機会が限られているため、具体的なアイデアを提案することが難しいのだと思います。

2. 失敗へのリスク回避

具体的なアイデアを提案し、それが失敗に終わった場合、上司からの評価が下がるリスクがあります。JTC大企業では、失敗が許容されにくい風土があり、安全志向が強くなりがちです。そのため、社員は抽象的なアイデアにとどめておく方が無難だと考える傾向があると考えられます。

3. 情報と権限の不足

JTC大企業では縦割り組織が多く、社員がビジネス発想に必要な情報や権限を持っていないことが多いです。部門間の壁が高く、全社的な視点でアイデアを考えることが難しい環境では、アイデアが総花的で抽象的になりがちです。

4. プレゼンテーションへの過度な注力

仕事が部分的で全体像が見えにくいため、本質的なアイデアよりもプレゼンテーションの資料作成に時間をかける傾向があります。アイデアの中身よりも、いかに上司を説得するかに注力するあまり、肝心のアイデアが抽象的になってしまうのです。

組織文化や評価制度の問題点

JTC大企業において、社員のビジネス発想アイデアが調査結果的で抽象的になる背景には、組織文化や評価制度の問題もあります。

1. 革新を阻む風土

JTC大企業では、安定性や効率性を重視するあまり、革新的なアイデアが生まれにくい風土があります。失敗を恐れるあまり、リスクを取ることを避け、既存の事業の延長線上でしか考えられなくなってしまうのです。また、短期的な業績を重視するあまり、長期的な視点でイノベーションを育むことが難しくなっています。

2. アイデアの質より量を重視する評価制度

評価制度においても、アイデアの質よりも量を重視する傾向があります。社員は、多くのアイデアを出すことを求められますが、その内容を吟味し、具体的に練り上げる時間が十分に与えられていません。また、アイデアの実現可能性や収益性よりも、上司を説得できるかどうかが評価の基準になりがちです。

こうした組織文化や評価制度の問題点が、社員のビジネス発想アイデアを抽象的で調査結果的なものにしてしまう要因となっています。

具体的なアイデアを引き出すための方策

JTC大企業の社員が革新的なアイデアを生み出すには、組織文化や評価制度の改革が不可欠。社員一人ひとりのアイデア創出能力を引き出し、具体的なビジネス提案を奨励する仕組みづくりが求められます。

1. 自主的ビジネスやベンチャー経験

社員に自主的なビジネスやベンチャー経験の機会を与えることが重要です。新しい事業アイデアを実践的に試す機会を設けることで、社員は具体的なアイデアを提案する力を身につけることができます。

2. 失敗を許容する

失敗を許容する企業文化を醸成し、具体的なアイデアを奨励することが必要です。トップマネジメントが率先して、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を示すことが重要です。

3. 部門間の情報共有と協力の促進

部門間の情報共有と協力を促進し、社員がビジネス全体を理解できるようにすることが大切です。縦割り組織の壁を越えて、様々な部門の知見を結集することで、より具体的で実現可能性の高いアイデアが生まれます。

4. 評価制度の抜本的見直し

アイデアの質や実現可能性を重視し、プレゼンテーションよりも内容を評価する必要があります。アイデアの独創性、市場性、収益性などを多面的に評価し、優れたアイデアを見出す仕組みを構築することが求められます。

まとめ

JTC大企業において、社員のビジネス発想アイデアが調査結果的で抽象的になる問題は、イノベーションを阻害する大きな障壁となっています。この問題の背景には、社員の実践経験の不足、失敗への恐れ、情報と権限の不足、プレゼンテーションへの過度な注力などの要因があります。

大企業が持続的な成長を実現するには、社員一人ひとりの創造性を引き出し、革新的なアイデアを具体的な事業につなげる仕組みづくりが不可欠です。トップマネジメントのリーダーシップのもと、全社一丸となって、イノベーションを生み出す組織への変革に取り組むことが強く求められています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?