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戦艦からモビルスーツに移ったように「個人が生成AIで武装化すると企業が攻められる時代になるかもしれない」件

はじめに

筆者は生命保険会社のCDOとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧客先やパートナー企社のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

そんな中で感じるのは、生成AIの登場によって、「社会のパラダイムチェンジが起きるのではないか」ということだ。それは機動戦士ガンダムの世界観である「戦艦からモビルスーツへの移行」に例えられる。大型で強力な戦艦に代表される「大規模組織」から、小型で機動性に優れたモビルスーツに象徴される「個人の力」が増大する時代だ。

<ガンダム世界観の戦艦とモビルスーツ>

当初、宇宙での戦闘は巨大な戦艦同士のものだったが、それには限界があった。戦艦は大きすぎて的になりやすく、機動性にも欠けていた。そこで登場したのがモビルスーツである。

モビルスーツは人型の兵器で、高い機動性を持ち、一機で戦艦に匹敵する戦闘力を発揮できる。パイロットの技量次第で、さまざまな戦術が可能だ。

ザクやガンダムに代表されるモビルスーツの登場で、戦闘のあり方は一変。戦艦は後方支援に回り、前線での主役はモビルスーツが担うことになる。機動力を生かした白兵戦は、戦局を大きく動かしていく。

戦艦もモビルスーツを運用する母艦として重要な役割を果たす。戦艦とモビルスーツの連携が、勝敗を分けるカギとなった。

一年戦争を通じ、宇宙戦はモビルスーツ中心のものへと移行した。ガンダムの世界観における戦いのパラダイムシフトである。

個人の創造性と生産性が飛躍的に向上

生成AIは、個人に強力なツールを提供する。文章の執筆、デザインの制作、プログラムのコーディングなど、これまで専門家や法人組織の領域とされてきた分野において、個人が高度な成果を生み出すことを実現してしまう。

例えば、小説の執筆。生成AIを活用すれば、アイデアやプロットを入力するだけで、瞬時に完成度の高い原稿が生成される。推敲や編集の作業も、AIによる提案を取り入れることで効率化できる。個人の力だけで質の高い小説を生み出すことが可能になる。(賛否はあるだろうが)

同様のことは、他の創造的な分野でもある。デザイナーは、AIを用いて独創的なビジュアルを短時間で生成できるようになる。プログラマーは、AIによるコード補完や自動デバッグの支援を受けて、より複雑なシステムを一人で開発できるようになる。

AIの力を借りることで、専門知識がない個人でも、プロ並みの成果を生み出せるようになりつつある。こうした個人の生産性と創造性の向上は、従来の法人組織に対して大きな脅威となるだろう。

個人の発信力が飛躍的に

生成AIは個人に強力な発信力をもたらす。ブログやSNS、動画プラットフォームなどを通じて、個人は自分の意見やアイデア、作品を直接世界に発信できる。その際、生成AIを活用することで、より説得力のある文章やインパクトのある映像を制作できる。素人でも、プロ並みの質の動画を簡単に作れるようになる可能性大だ。

ブログ記事の執筆においても、AIの力は大きい。キーワードを入力するだけで、AIが質の高い記事を自動生成してくれる。個人ブロガーはAIの力を借りることで、より頻繁に、より質の高いコンテンツを発信できるようになる。デジタル時代はコンテンツマーケティングやコンテンツビジネスが全盛だが、この世界観に見事にマッチする。企業で大人数でしかコンテンツを作れなかったのが個人で一人でいくらでもコンテンツが作れるようになる。それはあたかもモビルスーツがビーム砲やビームサーベルをいくつも持って戦艦を撃沈させる様を予感させる。

企業の対抗策

企業は個人に攻撃されるのを待つのではなく、企業もモビルスーツを運用して対抗すべきである。つまり、「社員の個人としての強さを引き出して生成AIの時代を生き抜く」ための変革だ。AIを活用して業務を効率化するとともに、個人の力を引き出し、モビルスーツのように機動力を持って母艦である企業の力を最大化するための取り組みが必要である。

個人の活躍を支援するような教育体制としても複業や越境などもモデルスーツとしての力を増す。そしてトップダウン型の意思決定(戦艦型)から、ボトムアップ型のイノベーションを重視する体制への転換(モビルスーツと戦艦の相互運用)が求められるのだ。

まとめ

生成AIは、社会に大きな変革の波をもたらそうとしている。その波に飲み込まれるのか、それとも巧みに乗りこなすのか。一人一人が、この問いに向き合わなければならない。個人の力が増大する時代にあって、私たちがどのような社会を築いていくのか。生成AIの登場は、そのことを考える重要な契機となるだろう。重要なのは、技術の進歩を恐れるのではなく、それを適切に活用し、より良い社会を築いていくための知恵を出して動くことにある。

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