見出し画像

社内に新ビジネスを提案しても関心が薄いのに社外向けの記事にして話題になると「やってみろ」という話になる件

はじめに

筆者は生命保険会社のデジタル共創オフィサーとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

その中で、伝統的な日本企業(JTC)において「新しい取り組みが社内で取り上げられずに蔵に入って行く事例」を多くみてきた。特に社外で聞く話は「やれば良いのに。丁寧にやれば当たりそうなのにもったいない」と思ってきたので、今回はこの話をしたい。

「社内→社内」は話題になりにくい

JTCにおいて、新しいビジネスアイディアを社内で提案しても関心が薄い理由はいくつかある。まず長年培ってきた事業モデルや組織文化に対する強い信頼があり、新しいことに目を向ける必要性を感じにくいことが多い。「うちはこれまでのやり方で成功してきた」という自負心が、新しいアイディアへの関心を低くしている面がある。

年功序列(JTCにはまだ残ってる)や終身雇用(JTCでは普通)といった人事制度が残っていることも、新しいアイディアが受け入れられにくい要因だ。若手社員の斬新な提案よりも、知識と権限を持つ社員の意見が優先されがちな風土(というか若手の意見が上に届かない仕組み)がある。

JTCの意思決定プロセスは、多重構造になっており、正規のルートでは通らないが、他のルートでは通るなど複雑であり、正規のルートの場合、かなりの時間がかかる。新しいアイディアを実現するには、多くの部署の了承を得る必要があり、調整に労力を要して途中で諦めてしまうことが多い。こうした障壁が新しいアイディアへの挑戦を躊躇させている面も大きい。

社外からの逆輸入

社内で新しいアイディアを通していくにはテクニックがいる。良く聞くのは「いったん社外に出して逆輸入する」方法だ。自分のアイディアを社外の人(雇っているコンサルタント、懇意にしているマスコミ、マーケティングやビジネスモデルの有名人)などに説明し、合法的に社内に逆輸入させる方法だ。

「そんな人脈ない」というのであれば社外向けに記事を書く方法でも良い。本名ではリスクがあるなら匿名やペンネームでも良い。要は外で話題になれば良いのだ。そうすれば「世の中で話題になっているので、うちでも」という話法が使えるので通しやすくなる。

人は世の中の話題に引っ張られる

なぜ社外向けの記事にすると、新しいアイディアが注目を集めるのだろうか。社外の反響は、社内の人々に「外部から期待されている」という意識をもたらすからだ。「うちの会社にもこんな斬新なアイディアがあったのか」と、自社の可能性を再認識するきっかけになる。これが「うちも行けるかもしれない」という希望に繋がるのだ。

また、社外発信によって、アイディアの提案者が注目を集めることも大きい。JTCでは、個人の実績よりも組織の調和が重視される傾向がある。しかし、社外から注目を集めた社員は、「うちの若手は優秀だ」と組織内で再評価されることが多い。これも良くある話で、この社員の上司は鼻が高い。

社外発信は気をつける

ただし、社外発信を活用する際には、JTC特有の留意点もある。特に、長年築いてきたブランドイメージとの整合性には気を配る必要がある。あまりに既存のイメージと乖離した新しいアイディアを安易に発信すれば、ブランドの信頼性を損ねかねない。

社外の反響をそのまま鵜呑みにすることも危険だ。JTCの事業は、長年の経験とノウハウの蓄積の上に成り立っている。社外の反応に惑わされず、自社の強みを冷静に見極めることが大切だ。

アイディア逆輸入の意義

このようにJTCでは社員がアイディアを実現するには「逆輸入」がお勧めである。グローバル化やデジタル化の波の中で、従来のビジネスモデルが通用しなくなっている。新しいアイディアや事業モデルを積極的に探索し、外部との協業を進めることが求められている。

アイディア逆輸入は、そうした変革を促す触媒となり得る。自社の殻に閉じこもるのではなく、外部の知見を取り入れ、オープンイノベーションを進める上で欠かせない方法である。

まとめ

JTCにおいて新しいアイディアを実現したい人は逆輸入を使うと良い。社内の壁に阻まれがちな新しいアイディアも、一旦社外に出すことで実現に向けた弾みがつくことがある。

ただし、伝統や文化を大切にするJTCならではの留意点も多い。ブランドイメージとの整合性や社内の理解に配慮しつつ、戦略的に発信していくことが求められる。

変化の時代に求められるのは、社内外の知恵を結集し、新しい価値を生み出すことだ。逆輸入方式は、その実現に向けた一手として活用していくべきだろう。外部の力を借りながら、自社の強みを活かした新しいビジネスに果敢に挑戦する。それが、伝統を守りつつ革新を続けるJTCに求められる戦略なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?