DX教育には「アプリのデザイン研修」よりも「他人に勧めたいことをsnsやnoteで発信」する方が良さそうな件
はじめに
筆者は生命保険会社のデジタル共創オフィサーとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。その関係でDXやビジネス、人材育成、地域活性化について相談を受けることも多い。中でも、DX推進担当者の関心が高いのはDX人材の育成方法に関するものである。今回はこれをテーマにしたい。
実地型研修は大事であるものの、、、
多くの企業で、DX教育の実施型研修として「スマホアプリのデザインワークショップ」を実施しているという話を聞く。形式的にはデジタル技術を活用した取り組みではある。しかし作るものが問題だ。アプリの内容は「顧客アンケートやB2C
企業なら顧客の会員登録での住所登録や変更など、無難な内容で社員にとっては面白くないものが多い。これではせっかく研修をやっても「DXってこんなものなのか」と社員のやる気を削いでしまうだろう。
スマホアプリを作ってみることが大事なのではなく、顧客価値を作ってみることが大事であることを分かっていない。このような研修テーマを考えるのはシステム部門主導である場合だ。システム部門の人は顧客価値に疎いがシステム開発に強いので作ることが重要で顧客価値は重視しないことが多い。システム部門出身の筆者が言うのだから間違いない。
有効なのは「自分の思い」を発信すること
筆者は、DX教育で有効なのは、「デジタル技術を使って自分の思いを社会に発信し、世の中に良い影響を与えられる人材を育てる」ことだと思う。企業の社員一人一人がデジタルコンテンツを通じて消費者とつながることこそが、企業の強みになるからだ。ちなみにうちではそういう活動を推奨している。
他の会社もそうだ。例えばあるIT企業では、社員にテックブログの開設を推奨し、業務で得た知見やスキルだけでなく、趣味や社会課題への思いなど、自分の中にある発信したい情報を自由に世界に向けて発信することを奨励している。社員が発信するコンテンツを通じて、企業と消費者との間に信頼関係が生まれ、ファンの獲得にもつながっているという。これこそが本来のDX教育のあり方だと思う。
また、あるメーカーでは、社員のSNS活用を積極的に推進している。ただし企業では、社員の個人的な外部発信をそのまま許可するのはリスクが高いと考えていた。そこで社員のSNS活用に関するガイドラインを見直し、企業ブランドと社員保護を意識した上での適切な情報発信を許可している。
その上で、社員は自分の専門分野に関する最新トピックスを積極的に発信したり、自社製品の使い方や開発にまつわるエピソードを紹介したりすることで、企業ブランドの向上だけでなく、消費者との直接的なコミュニケーションにも貢献している。
また、ある EdTech スタートアップでは、社員自らがオンライン学習コンテンツの制作に携わっている。社員は自身の専門知識を活かして、YouTubeやUdemyで動画講座を公開。受講者から高い評価を得ることで、社員のモチベーション向上にもつながっている。まさに実践的なDX教育が行われていると言えるだろう。社員が発信するコンテンツを通じて、企業と消費者との間にも強い信頼関係が生まれているという。
企業の規模や業種によってアプローチは異なるものの、DX教育で有効な方法は「社員がデジタル技術を活用して自分の思いを社会に発信し、消費者とのつながりを強めること」にあると筆者は考えている。企業の社員がデジタルコンテンツを通じて消費者と直接つながることは、これからの企業にとって大きな強みになる。
社員が日頃から興味を持っているテーマについて、情報発信できる環境を整備するのが有効だ。例えば、noteやYouTube、Udemyといったプラットフォームの活用方法を学ぶ研修を実施したり、優れたコンテンツを社内外で表彰する制度を設けたりするのも良い。社員のデジタルコンテンツ発信を後押しすることで、企業と消費者との距離も近くなる。
但し、社員の社外発信は炎上で攻撃されるなど諸刃の剣の面がある。社員のSNS活用に関するガイドラインを今日的に見直す必要もある。企業ブランドを毀損せず、かつ社員の自主性を最大限に尊重したルール作りを心がける必要がある。
まとめ
DXの本質は、デジタル技術を活用して新しい価値を生み出し、社会をより良くしていくことにある。企業がDX教育に取り組む際は、単に社内の業務効率化を目指すのではなく、社員が自分の思いを自分の言葉で発信し、消費者との信頼関係を築ける人材を育成することを目指すべきだ。
SNSやブログ、動画配信サービスなどを活用し、社員の内発的動機を刺激するようなDX教育プログラムを推進していくことが肝要だ。型にはまったアプリ開発ではなく、一人一人の社員が持つ思いを最大限に引き出し、それを世界に発信する力を養う。そして、社員がデジタルコンテンツを通じて消費者と直接つながることこそが、これからの企業の大きな強みになると、筆者は考えている。