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イーラーニングでひたすらDX事例を学ばせてレポートを書かせる「事例写経」よりも、事例で共通している成功要素の「顧客価値、データ活用、顧客との直接コミュニケーション」の要素「法話集」を学ぶ方が役に立つ件

はじめに

筆者は大手生命保険会社のデジタル共創オフィサーとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

その経験から、企業のDX人材教育事例に接することが多い。その中で「効果面でどうか」と思うものがある。それが「イーラーニングでひたすらDX事例を学ばせてレポートを書かせる」ことである。いわば「事例写経」である。写経は辛いと思う。当然事例写経も苦痛であろうと思う。辛い経験で楽しくない。それでは理解が深まらないし本質に到達できない。

「事例写経」があまり意味がないのは、DX事例といっても業界や企業によって状況が異なるため、そのまま自社に当てはめても上手くいかないことが多いからだ。それよりも事例で共通している成功要素を学ぶ方が役に立つ。それは写経ではなく成功法則をまとめた「法話集」である。

成功要素の理解と実践

結論的にいうとDX事例に共通しているのは、「顧客価値の向上、データ活用、顧客との直接コミュニケーション」といった要素だ。これらの要素を深く理解し、自社の状況に合わせて実践できるスキルを身につけることが、DX人材育成では重要となる。

①顧客価値の向上

DXの目的は、デジタル技術を活用して顧客に新たな価値を提供することだ。そのためには、自社の製品やサービスが顧客にとってどのような価値があるのかを深く理解し、デジタル技術でそれをさらに高められるかを考える必要がある。

例えば、あるスポーツ用品大手は、オンラインでカスタムシューズをデザインできるサービスを導入した。これにより、顧客は自分のスタイルに合ったユニークな商品を手に入れられるようになり、同社は顧客満足度を高めることに成功した。

ある大手自動車メーカーは、コネクテッドカー技術を活用して、車両の状態を常時モニタリングし、予防的なメンテナンスを提案するサービスを開始した。これにより、顧客は車両トラブルを未然に防ぐことができ、安心して車を利用できるようになった。

②データ活用

DXではデータが重要な役割を果たす。顧客データや業務データを収集・分析し、意思決定やサービス改善に活かすことで、競争力を高めることができる。

例えば、米国のある小売大手は、購買データの分析から妊娠初期の女性を特定し、育児用品のクーポンを送付するターゲティング広告を実施した。これにより、顧客のニーズに合ったタイムリーな商品提案が可能になり、売上増加につながった。

ある大手銀行は、AIを活用した与信審査システムを導入した。膨大な取引データを分析することで、従来の画一的な審査基準では融資が難しかった中小企業への融資を拡大することができた。これにより、銀行は新たな顧客を獲得し、中小企業は資金調達の選択肢が広がった。

③顧客との直接コミュニケーション

デジタル技術の発達により、企業と顧客が直接つながることが容易になった。SNSやWebサイトを通じて顧客の声を直接聞き、ニーズを把握することで、よりパーソナライズされたサービスを提供できる。

例えば、ある大手ゲーム機メーカーは、SNSのアカウントを通じてファンとの交流を積極的に行っている。新作ゲームの情報発信だけでなく、ファンからの質問や意見にも丁寧に対応することで、顧客との信頼関係を築いている。こうしたコミュニケーションは、商品開発にも活かされている。

ある大手化粧品メーカーは、オンラインコミュニティを立ち上げ、美容に関する悩みや疑問に専門家が直接回答するサービスを提供している。顧客との対話を通じて得られた情報を商品開発やマーケティング戦略に反映することで、顧客満足度の高い商品やサービスを生み出している。

ある大手旅行会社は、AIチャットボットを導入し、24時間365日、顧客からの問い合わせに自動で対応できるようにした。これにより、顧客は待ち時間なく必要な情報を得ることができ、利便性が大幅に向上した。同社は、チャットボットとの会話データを分析することで、顧客ニーズをリアルタイムに把握し、サービス改善に活かしている。

DX人材育成の実践例

DX人材育成に成功している企業の事例を見てみよう。ある大手EC企業は、社内プログラムを通じて、全社員がDXに必要なスキルを身につけられるよう支援している。単なる座学だけでなく、実際のプロジェクトへの参画や社外との共創など、実践的な学びの機会を提供している。

ある保険会社は、デジタルビジネス発想というワークショップを開催し、社員がデジタル技術を活用して社会課題の解決に取り組む機会を設けている。多様なバックグラウンドを持つメンバーがチームを組み、限られた時間内で新しいアイデアを形にすることで、デジタル企画人材としての力を磨いている。

まとめ

DX人材の育成には、単なる事例写経学習ではなく、成功要素の理解と実践が重要だ。顧客価値の向上、データ活用、顧客との直接コミュニケーションといった要素を身につけ、自社の状況に合わせて実践できるスキルを養成することが求められる。

スポーツ用品大手などの事例からも分かるように、これらの要素を取り入れることでDXの成果を上げることができる。また、大手EC企業や保険会社のように、実践的な学びの機会を提供することでDX人材の育成を加速させることができる。

企業はこうした観点からDX人材育成プログラムを設計し、社員がデジタル時代に求められるスキルを身につけ、ビジネス価値創出に貢献できるよう支援していくべきだろう。

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