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あの四角いフレームの絵

あの、銀色の美しいフレームの絵はよく変わるのよ
とても大切なものなのかしら
いつもは布が被さっているわ
白い布と、薄いレースの布よ

あのねある日、わたし、わるい子だから
だめよって言われているのに
布をめくってあの絵を見たの
震える足を引きずって
震える左手でそっとね、
震える胸を右手で抑えて

あゝ忘れられないわ
あの鮮やかな橙色を

目に痛いくらいの鮮烈さ
わたし決して忘れないわ

わたしの真っ白なお部屋にはない
美しい、美しい、眩しい光よ
ゴッホでもルノアールでも描けないわ
わたしあんなに美しいもの、見たことがなかったのよ
銀色のフレームも少し金色に染まったのよ
そんな絵はきっとここにしかないわね

わたしあの日からずっと無骨な機械に繋がれて
お母さまはわるい子のわたしに愛想をつかせたのかいらっしゃらないけれど
でも全くもって後悔などしていないのよ

あゝもう一度だけでいいわ
あの美しい絵を見たいのよ
白い布をめくって見たいの

あゝそうしたらわたし、
月が綺麗でなくともね
わたし死んでもいいわ

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