[#シロクマ文芸部]雨を聴く
雨を聴く 三年前から閉ざされたままの兄の部屋に居る 時が止まった時計 行儀よくたたまれたジーンズ 外国のサッカーチームのユニホーム 本棚には推理小説の文庫本 頭を揃えてきちっと並べられ お気に入りの作家は総て揃えられていた
退職したら一人キャンプと意気込んでコツコツ集めたキャンプ用品
まだ真新しいまま 部屋の隅に置かれていた
そして別れた二人の子どもの写真が
財布の中に小さく収まっていた
二人とも幸せそうに笑ってる
外は 辺りを深とさせる小糠雨
プレーヤーと
CDに目がいった
サザン 安全地帯 コブクロ
(コブクロ!趣味は私と一緒 )
生きていたら お揃いのTシャツを着てライブに誘ったのに
中学の時 回りの子は郷ひろみや西条秀樹に夢中だった頃 私はミッシエル・ポルナレフとかシルビー・バルタンを聴いていた 勿論兄の影響
ちょっと大人ぶってたかも知れない
コブクロの曲をかけてみた
[桜]
これは言わずともがなである
昨年福岡のライブのアンコールラストの曲 会場中大合唱した。 コブクロの原点 ファンは空で歌える
[ここにしか咲かない花]
ラストの歌詞がしみる
どんな気持ちで聴いていたんだろうか
兄の人生に踏み込むことなど一度もなかったから 思いをくみ取ることは出来ない
窓に目をやると雨がやみそうだ
もうすぐここも無人の家 一人の孤独を雨が包み込んで 何もなかったかのように 洗い流してしまう
さぁ私もここを去ろう
ドアに鍵をかけ無口な部屋を後にした
コブクロのクロちゃんの声が耳に残っている
なんて 肩を押してくれる曲なんだ
さぁ雨が上がる 歩きだそう
了
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