見出し画像

[#シロクマ文芸部]白い靴屋

白い靴 と書かれた看板を掲げている店が開店した 
入ってみると 看板に書かれている通りの 白い靴だけあつかう靴屋だった
「店主 色味の靴は置いてないのかい」
主「ございません こちらの靴は履く方の人生を写し出し 如何様にも染まる 靴でございます」
男「私は長年この町で漁師を生業にしてきた男だが 果たしてどんな色に染まるのだろうね」
「店主 面白そうだから一足お願いしょう」
男は 試しに白のランニングシューズを買ってみた
数日後 男は興奮気味に店に入ってきた 
「いゃあー 驚いた!シューズが海の色を教えてくれるんだよ 今日は深いグリーン 昨日は明るいエメラルドグリーン お陰で魚の居場所がよく分かる!大した靴だ!」
主「その靴はお客様の人生を写しているだけで 貴方が海をこよなく愛しているからですよ」
男は照れながら上機嫌で帰って行った

暫くすると今度は赤ちゃんを抱いた若い女性が入ってきた
「あのぅ~ この子が初めて履く小さな靴はありますか」
主「ございますよ こちらですね」
主はショーケースから小さな真っ白のベビーシューズを取りだした
「まぁー可愛い ファーストシューズ 革も柔らかいわ 履かせても宜しいかしら」
若い母親が赤ちゃんにシューズを履かせると 白さが増し明るく輝きだした
母親は
「舞が笑ったわ とっても喜んでいます」
主「これからの人生どのような色に染めて行くのでしょうね とても楽しみですね 今は純真無垢な真っ白 とても輝いていますね」
若い母親は満足げな顔で靴を買い求めていった

この白い靴屋の評判は瞬く間に広まり
貸金屋の男の耳に入ってきた
この男 ありとあらゆる手段で弱い者から金を巻き上げ一代で巨万の富を築いたという
きっと俺様が白い靴を履けば 黄金色に輝くに違いないと踏んだ
「オヤジ そこら辺の上等そうな靴十足ばかり俺に売ってくれ」
主は、横柄な態度に嫌な顔もせず 「こちらでございますね ただしあなた様の人生色に染まりますが宜しいですね」
男「あぁ 分かってるよ きっと金塊と間違えるほどの光ようさ」
男は靴を奪うように持ち去った
ところが
数日後

あの意気揚々と靴を持ち帰った男が青い顔で訪ねてきた
主「いったいどうされましたか?」
男「十足全部 履いた途端にボロ雑巾のような色に変わっちまったよ 
オヤジよぉ 何故なんだ 俺の人生ボロボロじゃぁねぇか」
主「お客様 気をたしかに持ってください これからの人生如何様にも変えられますから」
それを聞いた男は 膝をがくりと落とし大泣きをした
「オヤジよぉ 俺は毎日の飯にも事欠くような貧乏な家に生まれたんだよ
飯屋から残飯あさって暮らす日々
いつか金持ちになって俺を馬鹿にした奴らを見返したいばっかりに悪どいことにも手を染めた 
あぁ 思い描いてた豪邸も札束も手に入れた 
なのによぉ なんでこんなに心が満たされないんだぁー」
男はまた大きな声で泣き出した
主はだまって男の震える背中を支えてやった
気持ちも収まったのか 男は軽い会釈をして店から出て行った

その年の12月クリスマスで街がにぎわいをます頃 ある噂が流れてきた
あの貸金屋の男が家屋敷を身寄りの無い人達の住まいに変え 有り金全部慈善事業団体に寄付したらしいと聞かされた
店主は呟いた
「やっと本当の幸せを手にしたのですね」
「今ならきっと 白い靴も美しく輝くことでしょう」

「ご来店お待ちしておりますよ」と…


シロクマ文芸部 白い靴より
いつも楽しいお題ありがとございます
つたない文章ですが 最期まで読んでくださりありがとうごさいました
感謝!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?