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映画「ディアファミリー」レビュー

幼少の頃、西春(現:北名古屋市)という町に住んでいた。正確に書くと幼稚園までは徳重駅近くの旧西春町、卒園した春休みに一回り広いマンションに越した。そちらは西春駅近くの旧師勝町だ。
春になると休みの日に子どもの趣味に付き合うことを面倒がる父が年に一度ドラえもんの映画に車で連れて行ってくれるのが慣例だった。空港線と呼ばれる道を東へ。豊山町に入りあと1㎞で名古屋空港という場所でY字に分岐する南側へと車を進める。空港の南側を沿うように東へ進むと春日井市に入り名鉄小牧線の踏切。それを越えてすぐの所にロッテリアがある。ロッテリアで昼食を食べると目と鼻の先にあった春日井コロナへGO!昼過ぎからドラえもんの新作を見るのが定番だった。
年中から小3くらいまでであっただろうか。私にとっての映画館の原風景は春日井コロナである。もう大分前になくなってしまった。

名古屋空港も当時とは形を変えてしまった。中部国際空港ができて国際線と国内線の基幹路線はそちらへと移っていった。旧国際線のターミナルビルが現在のエアポートウォーク。そしてそこに隣接した形でミッドランドシネマ名古屋空港がある。

ディアファミリーという映画の存在を知ったのはGW頃。そして6月の半ばくらいに実話を基にした映画で、主人公の男性は春日井市の町工場経営者だと知った。「これは絶対にミッドランドシネマ名古屋空港で見なければならない。春日井が舞台になる映画とは何か郷愁に訴えるものがあるな」そんな思いで父が私たちにしたように子を二人連れて鑑賞した。

生まれつき心臓疾患を持っていた幼い娘・佳美は [余命10年]を突き付けられてしまう。
「20歳になるまで生きられないだと…」
日本中どこの医療機関へ行っても変わることのない現実。
そんな絶望の最中、小さな町工場を経営する父・宣政は「じゃあ俺が作ってやる」と立ち上がる。
医療の知識も経験も何もない宣政の破天荒で切実な思いつき。
娘の心臓に残された時間はたった10年。
何もしなければ、死を待つだけの10年。
坪井家は佳美の未来を変えるために立ち上がる。


絶対にあきらめない家族の途方もなく大きな挑戦が始まる―。

ディアファミリー STORY

始まって数分で驚いた。「坪井さん」と主人公の宣政が呼ばれている。確かモデルとなった男性の苗字は筒井だったはずだが…一文字変えたのだなと気づいた。これは私にとっては小さくないサプライズだった。映画館のある豊山町在住の方と最初に懇意になったのは小4の時の坪井先生。そして20代前半の頃に皆で遊び倒していたグループにいたのが豊山町出身の高校の後輩の坪井さん。私にとっては豊山の苗字=坪井なのである。舞台に最も近い映画館でいかにもこの地域に多い苗字の主人公一家。一気に感情が引き込まれた。

「病気と闘うドラマや映画」は何作か見てきた。「病気を受け入れてそれでも善く生きるドラマや映画」も何作も見てきた。しかしディアファミリーは今までとは違う心臓病との戦い方をして、つらい現実を受け入れて尚、家族はよりらしさを発揮して戦い続ける。しかも短期戦ではなくざっと15年ほど。娘の病気を自分の持つ技術で克服を目指す父親の姿に感銘を受けた。

役者では途中から主人公の協力者になる富岡役の松村北斗が良かった。正直名前しか知らなかった。SixTONESのメンバーなんですね。ジャニーズ関係でこんなに芝居からオッと思った役者は初めてかもしれない。動の大泉洋に対して、抑制の効いた「静」の演技が素晴らしかった。それでいて終盤に覚悟と怒りを発するシーンがあったが、それまでの静かな演技が効いていたように思う。あれで主人公の夢が潰されそうになっていたのが覆るわけだが妙な説得感があった。途中で「すずめの戸締まり」の草太の声だなと気付いたが確かにそうだった。これから追っていきたい俳優である。

富岡進(松村北斗)

残念だった点を挙げるとすると2時間の尺では少し短かったことだ。佳美との宣政の会話ややり取りが病気に関するものしかない。もう少し佳美との日常や彼女の性格が見える部分の描写が欲しかった気がする。

まあそれにしても「ほぼ実話」なんだということに改めて驚かされる。娘が病気になったのを救うために、全くの畑違いだった技術者が人工心臓の開発に乗り出す。それが無理だと分かってもIABPバルーンカテーテルを開発して17万人もの命を救ったという事実。確かに佳美は短い生涯で悲しい話ではあるのだけれど、何かスカッとした気持ちになれる素晴らしい家族の物語だった。

最後に佳美が成人式の家族写真を撮るシーン。カメラマンの役の人が私が何度か撮ってもらった写真館の主人に似ていたので「オッ」と思った。カメラマン顔ってあるんだなとそのシーンでは思ったが、その後調べると本人で江南の写真館「かつみ」で撮影もされたとのこと。自分も撮ってもらったことのあるスタジオで大泉洋、菅野美穂、福本莉子、川栄李奈、新井美羽の5人が演じていたのにはちょっとした感動があった。

家族写真のシーン(写真館かつみ)

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