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南海トラフ狂騒曲の盆休みに憂う

コロナ禍において日本社会の「ゼロリスク志向」がほとほと嫌になった。「何かあったらどうする病」は、日々炎上の種を求めるSNS中心の世の中で驚くべきスピードで世の中のあらゆる所に広がっている。

さて南海トラフの件である。
気象庁の会見では以下の発言があった。
「普段から危険性はあった。注意情報はそれが数倍高いということ。危険性のあるところが数倍高いわけだからこれは危険です。極めて危険。だがすぐに来るわけでもないしいつ起きるかは分かりません。1週間は注意して、だが1週間たてば安全というわけではない」
「ちなみに1週間というのは科学的な数字ではなく『ここまで我慢』の目安。日頃の備えを確認し注意して生活してほしい」

これはある程度賢い層には受けの良い発言であろう。偏差値60以上の理系の大学の研究室ではこのようなやり取りが日々行われている。しかし大衆に向けてのメッセージだとしたら間違っている。「危険、1週間」としかインプットされない。そんなことは小中生に10年以上国語を教えてきたらよく分かる。また保護者に手紙やLINEのやり取りをしていたら更に分かる。こんなごちゃごちゃした言い方ではコミュニケーションにならないのである。

その証拠として個人ではなく企業がさっそくおかしな反応をした。
愛知環状鉄道が知らせを出したのである。
「8月8日16時43分に日向灘で発生した地震を受け、気象庁から『南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)』が発表されました。お客様におかれましては不要不急のご旅行は中止いただくようにお願いいたします。なお、南海トラフ地震臨時情報につきましては、気象庁のホームページなどを参照してください」
昨日9日になって「不要不急の旅行」の部分は表現が変えられた。驚くべきなのはこの愛知環状鉄道が岡崎~春日井という内陸部を走る鉄道会社という点である。自分たちの発信によって他の旅行業者や飲食業者が損害が被るリスク等を考えないのであろうか?
また湘南や南紀白浜の海水浴場も1週間は閉鎖とのこと。白浜では盆期間中に予定されていた花火大会も中止になった。

私がお人よしだと思うのは、今まで地震予知が当たったことが無いのにこの規制を疑いもせずに乗っかる世論である。彼らの言い分では私の住む愛知や三重は大規模地震のリスクが高いと30年ほど前からずっと言われている。それでいて大きな地震が起きたのは阪神淡路、中越、東日本大震災、熊本、胆振、能登…43年愛知で暮らしている私がその間に経験した最大震度は4、しかも1回限りである。備える労力の方がよほど人生の負担になる状況である。しかも今回の日向灘の地震でさえ気象庁は何の予知もできていないのだ。

昨日夕方にスーパーに行ったら驚いた。朝から水が売り切れたようでたまたまその時刻に新たな水が入荷されてきた。2L入りのペットボトルが6本入った段ボールが100個ほど並べられた。高齢者を中心にその売り場に人がどんどん集まってきた。まだルール等が確立されていなかったようで6箱も持っていく人もいて、たった10分ほどで売り切れてしまった。レジの私の前のファミリーはカップ麺を50個ほど購入していた。さらに違う客はトイレットペーパーを3袋レジの途中で取りに行っていた。

ちなみに昨日は名古屋が今年最高の39.3度、桑名では40.4度と歴史的高温の日であった。普段ならそのニュース一色になり「暑い時間の外出は控えましょう」とする報道になるだろう。しかしその報道は明らかに少なくなった。そしてその熱い時間に年寄りが大量の重い段ボールを運び、乳児を連れた家族が買い物に来ているのである。リスクの比較衡量を全く無視しているし、自分だけが助かればよいという態度も感じられる。コロナ初期にそういった行為はバカなことだと実感したのだと思っていたが、どうも「危険」と言われると1%に満たないリスクに右往左往するのが現代の日本らしい。

一応、私は過去のサイクルから2035~2040年くらいに次の南海トラフ地震が来ると考えている。それを踏まえた時に今回のような南海トラフ地震臨時情報は今後10数年で何回も出されることになるだろう。そのたびに自粛ムードになり場合によっては学校や会社が休みになったりイベントが中止になったりするのは目に見えている。それが日本の負債になっていくのにも関わらず「備えて何もおこならなかったらそれが最も良い教」の人が多いので食い止められない。コロナ禍でも100兆円以上の使う必要のない金が使われたのである。そういうことを全く考慮しない無責任だが自称賢い人がどんどん世の中を弱体化させていく。

この2日の様子を見て私は一つの考えに至っている。
「できるだけ早く南海トラフ地震が起こった方がよい」というものだ。
理由は以下である。
・自分が若いので対応しやすい
・日本の平均年齢が低く、高齢化率が低い時期に起こった方がマシ
・復興だけを考えて次の南海トラフにおびえる必要が無くなる
今後15年くらいで日本は未曽有の人手不足、インフラ弱体化に直面することになる。それが少しでもマシな段階での震災の方が傷が少なくて済む。どうも現代人は「腹をくくる」ということができない。人間は生きていれば感染症は避けられないし(とはいうものの私はコロナに罹患してないが)、南海トラフも必ず来るのである。そもそも冷静に考えれば、明日地震で死ぬよりも交通事故に遭う可能性の方が高いのである。何が起こるかわからないのであれば備えることも必要だが、今を目いっぱい楽しむことも必要である。それがなぜか前者に大きく傾いている状態の日本を憂いている。


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