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勉強以外の領域を削ることに寛容な大人たち

大部分の小中学校、加えて一部の高校の部活動がどんどん縮小・廃止されている。つい先日も全国中学校体育大会が2027年度以降から水泳やハンドボールなどの9競技を削減することを決めた。残るメジャーな競技も大会日程を短縮し参加人数を減らす方向で調整する様子である。

日本中学校体育連盟は8日、全国中学校体育大会(全中)についての運営見直し改革を各都道府県中学校体育連盟の会長、関係諸団体に発出し、現在夏季16競技、冬季4競技が行われている同大会について、令和9年度(27年度)以降は夏季11競技のみとすることを発表した。11競技は陸上、バスケットボール、サッカー、軟式野球、バレーボール、ソフトテニス、卓球、バドミントン、ソフトボール女子、柔道、剣道。  
 水泳、ハンドボール、体操、新体操、ソフトボール男子、相撲、スキー、スケート、アイスホッケーの計9競技は開催しない。原則として部活動設置率が20%未満の競技が縮減された。ただ、スキーに限っては開催地との契約終了年度となる令和11年度まで現在の大会規模を継続して実施する。  また、大会規模も縮小し、会期は3日間以内を目標に。参加者についても団体戦及び個人戦ともに現行の30%減を目標とする。また開催経費も30%減を目標とする。  
 同連盟は「少子化の進行が深刻となり、中学生の数が減少し続けること、夏季の全中大会開催に際して、参加生徒の健康保持と安全な大会運営を図る上で、一層の暑熱対策が不可欠であること、これまで大会運営に多大な尽力をいただいている教員の負担軽減を推進させることなどの全中大会の適正な運営にかかる様々な課題については解決に向けた取組が進んでいない実態から脱却し、誰もが進捗を実感出来る改革を進めなければ、中学生にとって大舞台である全中大会を開催し続けていくことが難しい状況になっています」と説明。プロジェクト委員会による3年以上の協議の結果として、改革案が答申されたという。「日本中学校体育連盟では理事会をはじめとする各種の会議において、答申を基に協議を重ねた結果、令和9年度以降の全中大会の在り方を大きく見直すこととしました」と、説明した。
 日本水泳連盟は同日、声明を発表。「中学生選手にとって唯一の中学チャンピオンシップ大会でもある全中大会は、高校進学に当たってのキャリア形成においても重要な機会であり、この令和9年度以降の開催については慎重なる検討が必要であると考えております」とし、「全中大会の在り方、方向性について中体連から本連盟に最初の打診があったのは本年3月21日でした。その際、本連盟としては令和9年度以降も継続を前提として様々な開催方法案について中体連に質問をしていた段階であり、今回の急な方針発表のタイミングには唐突感を持ちながら諸対応しているところです」と、戸惑いを滲ませた。

2024年6月8日 デイリースポーツ

この類のニュースに世論はなぜか賛成ムードである。教員の働き方改革の前には子どもたちの能力向上など取るに足らないものなのであろうか。例えば長男が入部した部活動。6月の予定表には「いよいよ勝負の時。最も頑張る時期がやってきました」と書かれているが、月の練習日は11日。以前なら軽く20日は越えていただろうから相当縮小されている。

運動会も同じような扱いを受けている。半日開催だ、熱中症対策だ、順位をつけない徒競走だ、の大合唱。赤白の組み分けをなくしたり「フレーフレー自分」とのかけ声に変えている学校もある。
「子どもの学校では2学年毎に1時間ずつ行われる体育発表会のような形になりました。待ち時間も少なくて快適です」のような事例を多数見聞きする。「アホか!」と思う。我が子以外の学年の頑張りをみるのが醍醐味ではないか。上級生の成長、下級生が懸命に踊る姿、地域が紡いできたものを感じて、その中で自分の子が在籍する集団が育ちながら新たな伝統を繋いでいく。結局自分が楽で我が子さえ見られたら良いという現代人の欺瞞が露呈するニュースで胸糞が悪い。

こんな感じで部活や行事に関して、子どもたちの活躍の場がどんどん減ることに恐ろしく寛容なのが今の大人たちである。それでいてネット民は勉強については厳しい。「これくらいは常識だ」というラインを実際に習う2学年くらい上で設定しているような発信をいくらでも見かける。しかしそれは特異な人たちの価値観である。一般的な人は部活や行事に向ける情熱と勉強へのソレが比例するのが常。部活が無くなったり、体育祭が削減されたりする数年後には入試や定期テストへの熱も同様に失うものである。その傾向の萌芽は既に見られ始めている。ただこの点については稿を改めることにする。

ここで一つ面白いデータを提示する。2022年の3月2日時点で100mを10秒55未満で走った国別の人数である。

  • 1位 アメリカ 3333人

  • 2位 日本 690人

  • 3位 ジャマイカ 377人

  • 4位 イギリス 329人

  • 5位 ドイツ 233人

  • 6位 フランス 223人

  • 7位 南アフリカ 215人

  • 8位 中国 204人

  • 9位 イタリア、ナイジェリア 182人

この結果を見た人の多くは驚くのではないだろうか。スポーツ大国で短距離王国のアメリカは別格として、その次の2位に位置するのだ。
部活動の削減や運動会の競争種目の廃止に対して、
「効果がないから」
「トップを目指すならクラブチームに行け」
このような意見が散見される。しかし上述のデータを見る限りでは日本の部活動や運動会・体育祭は競技力のアップに大きな貢献をしてきた。100m走はご存じの通り、黒人や白人がその能力に長け、黄色人種にとっては最も不利な種目の一つである。日本は人口の面で有利とはいえ、ヨーロッパやアフリカの強豪国よりも多くのトップレベルの選手を輩出してきたのである。そして不思議なほどその効果を喧伝しないし、国民もそれを知らないのだ。

以下はSNSで何度か拡散されてコメントが多数つく動画である。6,7年前のテレビ番組であろう。フィンランドの校長がマラソン大会を行い順位を付ける日本の小学校の校長に説教をする場面だ。
「順位を付けることが駄目な烙印を付けてしまう。順位が良くなったからってそれが何なのだ。これでスポーツが嫌いになるのではないですか?」と、尤もらしいことを言う。スタジオも「なるほど、その通りですね」のムードである。

はっきり言ってやればいい。
「元々の身体能力に恵まれない私たちはこうやって競って鍛錬してきたからこそ、短距離走でアメリカに次ぐ2番目に多いトップ選手を輩出したのです。マラソンのサブ3もこの30年で3.5倍に人数を増やしました。人数的なピークは45歳~50歳で、部活動を最も長く厳しく、運動会やマラソン大会も今よりももっと競争原理を働かせて行っていた世代の人たちです。フィンランドにそういう実績はあるんですか?」

そもそもフィンランドの校長の態度は、
「人権後進国であるジャパニーズモンキーに我々白人様が正しいあり方を啓蒙してやろう」という態度がありありと見える。
これは昨日大炎上したMrs. GREEN APPLEのMusic Video「コロンブス」の態度と全く同じではないか。結果を残していない上に自己管理できていない体型の人間が偉そうに語り、それをありがたがるのだからとんでもない話である。

今の日本は大人の事情で子どもたちから活躍の場や思い出作りの場を奪うのに躊躇が無い。しかもそれが結果を残していた領域なのである。この風潮を私は非常に憂いている。

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