見出し画像

教育現場に広がるシン自己責任社会

愛知県の高校入試について書いていく。現高2世代が受験の時に大きな改革があった。主な変更点を記すと以下のようになる。

・従来からあった複合選抜という2校を受験する形は変わらないが、学力試験は1回になりその結果を2校に提出する形になった。また翌日にあった面接試験は廃止された。

・学力試験が記述式からマークシートに変更された。

・実施時期が3月10日頃だったのが2月22日頃になった。それに伴い3月22日頃だった合格発表が3月8日頃になった。

・高校入試に使用する内申点が中3の3学期末に出されるものから、2学期末に出されるものに変更になった。

大枠で考えると受験生やそのご家庭の負担が小さくなる方向への変更といえる。愛知県の教育委員会は「合格発表から入学までの期間が短いことが負担になっていたので変更した」と発表している。

このルールに変わってから中学3年生を2世代指導したが相当の変化を感じている。従来と今の受験生の秋以降の日程を比較してみる。

【従来(~令和3年度)】
・11月30日頃 2学期期末テスト(9科)
・12月10日頃 面談により私立高校の受験校を決定
・12月22日 2学期の通知表を渡される 学年末テストの範囲発表
・1月7日 始業式
・1月15日頃 学年末テスト(9科)
・1月25日頃 面接により公立高校の受験校を決定(内申はほぼ決定済み)
・2月5日頃 私立高校一般入試
・2月10日頃 私立高校合格発表
・3月5日頃 卒業式
・3月8日,9日 公立高校Aグループ一般入試 学力試験&面接試験
・3月11日,12日 公立高校Bグループ一般入試 学力試験&面接試験
・3月22日頃 公立高校合格発表

【変更後(令和4年度~)】
・11月20日頃 2学期期末テスト(9科)
・12月1日頃 面談により私立高校の受験校を決定
・12月23日 2学期の通知表を渡される
・1月7日 始業式
・1月23日頃 私立高校一般入試
・1月27日頃 私立高校合格発表
・2月22日 公立高校一般入試 学力試験
・3月7日頃 卒業式
・3月8日頃 公立高校合格発表

こうやって日程だけ並べても分かりにくいので解説していく。従来は公立高校を受験する場合、3学期の内申点が重要であったために1月15日頃の学年末テストまでは志願者のほとんどが懸命に勉強した。それが終わってからはすぐに私立入試の勉強、それから1カ月は公立入試の勉強といった形で3月の半ばまで勉強が中心の子がほとんどであった。

しかし現在は11月20日頃の学年末テストが内申点を付ける実質の締め日である。せめてこれを12月10日前後に行って本当の「期末」にすれば効果的だと思うが、ここに思いもよらない理由が立ちはだかることになった。それは昨年から県が肝いりで始めた「愛知県民の日&ウィーク」である。

愛知県民の日 学校ホリデーの案内

画像の文言にあるように昨年から始まった制度である。学校ホリデーの期間にテストが重なるのは好ましくないのであろう。ほとんどの県内の中学の期末テストは11月20日までに完了する。私の塾の近くでは11月15日に終了する中学さえある。この日程には2つの問題があるように感じる。

まず1つ目はこのnoteの要旨であるが「受験生が真剣に勉強する期間が大幅に短くなること」である。「内申が決定しても真剣に勉強するだろ!」と多くの人から突っ込まれるかもしれないが、愛知県郊外では定員割れの高校が4割程度になっている。またそうではなくても10年前より倍率が下がっている高校がほとんどである。ある程度の内申点を確保していればよっぽど下手をこかない限り合格が手中にある生徒は多い。トップ校を目指す1~2割だけが2月まで懸命に勉強する印象である。
2つ目は中学3年の後半の単元の理解度が格段に落ちてしまう問題が挙げられる。11月半ばのテストになった場合に、英語では関係代名詞や仮定法、数学では相似や円周角や三平方の定理、社会では公民の経済分野が未習のケースが多い。一般的な中学生は「定期テスト」があるからこそ、そこに向けて勉強し理解度を高める。しかし中3の終盤の難解な重要単元に限って定期テストが存在しない。それでも入試があるではないかとなるが、ここにマーク式に変わった弊害が邪魔をする。「何となく選択肢の中から選べる理解」で構わないのである。どうも現高2から近隣高校の模試の結果が怪しい。また以前よりも定期テストの順位を容易に取れる傾向がみられる。その最大の理由がこの入試制度の変更にあると考えている。

まとめると、今の教育現場や入試制度では「とことん楽をすること」が可能になった。またそれを咎めたり改善を図ろうとする行為は「ハラスメント」になることは過去のnoteでも何度も書いてきた通りである。
ルールは甘く周囲は優しく接してくれるので「自分で律して能力を向上させること」をしないと、信じられないような低能力で十代後半を迎えてしまう。これは新しい形の自己責任社会である。私は従来のそれと比べても質が悪いものだと思う。従来の自己責任社会は小泉純一郎や竹中平蔵といった特別な人たちが牽引して行った改革であった。したがって改革当初からその副作用については様々な場所で述べられていた。しかし令和の自己責任社会はこの小泉改革に反対するリベラルな方たちが世論調整をして、大衆が望んでいる構図がある。イチローなど一部の人はその恐ろしさに気付いているが、まだ一般にはシン自己責任社会の危険性が共有されているとは感じられない。しかしその弊害が表面化する頃には子どもたちの学力を筆頭とした能力の平均値の著しい低下が生じているのは間違いないだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?