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他の人よりも美しくなるための努力は報われるのか


底見えぬ美容沼

 古来より、美しいことは大変な価値である。それに加えて、最近では美しさに個人解釈が生まれるようになり、自分の容姿を完璧にコントロールすることを多くの人が求めている。
 そのための手段は多岐に渡り、さまざまなものが流行り、廃れていく。それらを敏感に察知し、流れを乗りこなすことができればカリスマとして一目置かれること間違い無い。しかし、ほとんどの人は波を読みきれずに、溺れていく。美容とは、沼である。沼であるのに波ができる不思議な構造だ。一体誰が波を起こしているのか。今、思いついたその集団がそのまま答えだろう。

正しい波は一体どれ?

 沼の中に起きている波でときたま、正しい波がある。本当に顔を綺麗にするための賢い手段を謳っているものだ。しかい、それらは小さな波に過ぎず、すぐく大きな波が隠してしまう。
 どうすればその波を見つけることができるのか。その答えは美容沼では無いところにある。体の仕組みを解る必要があるのだ。
 例え話をしよう。私は陰謀論を聞くのが好きだ。その中でも代表的なのはフラットアース、つまり地球平面説だろう。この説の最も尊敬すべきところは、おおよその人が学んだであろう知識をハックすることで、なんとなく信じてみようと思う人を作り出している点である。フラットアースを否定するのは簡単だ。小学校理科が分かればできる。しかし、彼らはその知識を体感覚をもって壊し、フラットアースの妥当性を主張する。その熱量と着眼点は素晴らしい。
 話を戻すと、美容沼に現れる波はフラットアースのようなものだ。科学的に正しいことに対して、体感覚でハックする。つまり、本当に美しくなれるかではなく、美しくなれそうな予感をさせることで波が起こっている。そして、我々はよほどの勉強好きか渇望をもっている人でない限り、自分の体について知識を蓄えない。だから、美容業界は常に新しい手段とアイテムを発信し、信じ込ませることに成功しているのである。

体はそんなもの欲していない

 コスメ商品の流行は非常に激しい。新しい化粧水・美容液はさまざまなものを配合して進化してきた(進化なのかはわからないが)。
 結論として、体はそんな高尚なものを欲しがっていないのである。その理由を説明していく。
 最近では、アンチエイジングを掲げ、針コスメやナノ化粧水などが出てきている。どちらも肌の奥深くまで潤いをもたらすことを目的とした商品だ。
 では、肌の奥とはどこまで浸透するのだろうか。答えは、角質層(角層)までである。そしてこれは、今後どのような商品が出てきてもほとんど変わらない。その理由は、角質層は肌を守るために必要な防御壁だからである。その中身は死んだ細胞だ。死んだ細胞をせっせと傷つけたり、保湿したりして若さを作り出そうとしていることになる。
 ここで1つ疑問があると思う、角質層が潤って何が悪いんだ、と。その質問に答える前に、肌の構造の話をしないといけない。あなたは、紙で指を切ったことがあるだろうか。もしくは転んで傷を作ったことがあるだろうか。(なければ今からでも体験してみてほしい。)我々の皮膚は積層構造になっている。表面の薄い皮、その奥に血管が通ったどろりとした部分、そして脂肪を含む部分だ。
 薄い皮のことを、表皮と呼ぶ。表皮もさらに細かく層を成している。0.2ミリメートルの中のほんの表面の部分が角質層、その下に三層ほど生きた細胞が控えている。生きた細胞を守るために、死んだ細胞を壁にしているのだ。この角質層がなければ、肌は脆く傷つきやすくなってしまう。そしてその角質層を支えるのはその下の層である顆粒層だ。顆粒層では体自らが保湿成分を作り、潤いの膜を作ることでさらに堅牢な守りを敷いているのだ。
 この説明を聞いて、「ならば角質層に潤いを与えるのは大切だ」と思うことだろう。たしかに、潤いとバリア機能は密接な関係がある。しかし、大事なのは肌が作りたがっている潤いの度合いを守っているか、ということだ。
 つまり、過度に保湿や潤いを与えると、角質層が欲しがっている乾燥度合いや、守りやすさが阻害されるということになる。それどころか、たっぷり水分を含むことで、逆に角質層が脆くなっていくのである。角質層が脆くなれば当然、防御は薄くなり、肌は荒れていく。荒れた肌を取り戻すためにまた化粧品を頑張って使うハメになるのである。
 我々の体は、我々の考えよりも上手く出来ている。顆粒層として頑張っていた細胞は死ぬと角質層になる。もっと下層の細胞も徐々に老いていくと上層に上がり、死んでいく。そのサイクルを上手に使いながら、肌は健康さを保っているのである。新しい細胞と死にゆく細胞。そのすべてに役割があり、自浄作用をもっている。その仕組みに関与できる隙は本当に少ない。

肌との距離感について

 では、肌にとっていい化粧品とはなんなのか。潤いが一番ではなければ何になるのか。大事なのは「肌機能を邪魔しない」ことである。肌が乾燥するときは、浸透させるのではなく、表面を少し守ってあげるために保湿することが大切だ。油脂は、皮脂とも近く表面を代わりにバリアするのに向いている。前述した細胞の入れ替わり(ターンオーバー)は6週間程度で行われるので、今乾燥している表面の細胞は6週間後に新しくなる。その間、健やかに育っていくのを待っていれば我々の体がよくしてくれる。過度な干渉は成長を妨げるのだ。

老いたらどうする

 そうは言っても、我々の体は老いる。老いると当然、肌の調子は良く無いし、くすみもできるし、顔もたるむ。大事なのはそれぞれがなぜ起こるのか、把握することだ。
 ここでは、くすみとたるみについて話をしよう。
 くすみ、とは表皮で作られたメラニン色素がうまくターンオーバーで入れ替われずに、残ってしまうことで発生する。紫外線によって過度にメラニンが作られると、自浄作用が追いつかずに残ってしまうのである。注意したいのは、くすみに効くクリームを塗って頑張ろう、と思うとこれまた逆効果であることだ。くすみに効くクリームもまた、肌機能の邪魔になる。このくすみを改善しながら、肌の邪魔もしないにはどうすればいいのか。この答えに最近では、DPLという技術が現れた。DPLとは強い光を当てることでくすみに作用しながら、肌自体には影響を与えないというものである。大事なのは光の波長と強さである。DPLは緑色に近い光を、フラッシュ撮影の要領で与えることで効果を発揮している。近しいものでLEDを浴びることで美容効果を謳うものもあるが、その場合パワーが足りず長時間浴びなければ効果はないだろう。こういった光によるアプローチは今後注目をしていきたい技術だ。
 次に、たるみとは筋肉の衰えによってできる。筋肉とは皮膚のどこにあるのだろうか。答えは、上で述べてきた皮膚のさらに下である。脂肪の下に筋肉はある。よく、たるみを解消するための顔のマッサージや美顔ローラーなどあるが、あれは肌をただ刺激しているだけに過ぎない。効きそうな気がするが、肌を揉み込むことで、肌本来が持っているハリが壊され、さらにたるみを作ることになる。
 ここで大切なのが、筋肉をしっかり動かすことである。「じゃあ筋トレだ」と思うだろうが、話はそう簡単ではない。我々は体にある筋肉の全てを動かすことはできないのである。顔に絞ってみても、顔の筋肉全てを動かすことはできず、顔トレーニングと言われるものは完璧な効果を生み出さない。筋肉を動かすにはどうすればいいか。それには電気が有効である。EMS(電気筋肉刺激)と呼ばれる技術が、肌の奥にある筋肉を動かすことを可能とした。指圧でも自力でも動かせない筋肉を、電気によって動かすことで、たるみを改善できるようになったのである。

飽くなき美への渇望を抱くものへ

 さまざま述べてきたが、美容常識の歴史はマーケティングによって様々な改変が行われてきた。現在、流行っているものの多くもそういった潮流を受けて、人々を躍らせている。一度、美しさに魅せられてしまった我々は、美への渇望を諦めることはできないし、その欲望を見逃すほど世界は甘く無い。自分の欲望を本当に叶えるために必要なことは、自分の体への理解である。体は声を持っていない。体の仕組みを知った上で、何が必要なのかを考えてあげなければならない。多くの情報を処理した上で、あなたの体にとって真に必要な美容ケアをできるようになることを願う。


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