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真・邪道勇者 その7 長編は邪道作家参照


女は凶暴だ。そうじゃないか?

思うに、女ほど生物として凶悪極まる奴はいない。私は諸事情あってそういう女と手を組んだり利用したり利用されたり成果が出なかったりする事が非常に多いのだが、それはそれとして表面上は美人の方が得をするので、裏側など誰も見ない。

適当に美人を立てておく方が、私のような殺人鬼が表に出るより効率が良い。実際私が表に出て上手く行った試しは殆ど無いが、我が家の凶暴犬や黒いツテの女なら読者も金を落とそうというものだ。事実、世間ではそういう女が出るだけで大枚をはたく愚か者が多いらしい••••••何でも、平気で万札を落とすのだとか。

私が必死に真剣に向き合ったところで金にはならないが、美人の顔は金になる。

実際にやった「私」が言うんだ間違いない───必要なのは「要領の良さ」とかであって、物事の本質などクソ以下だ。実際にはそれらを掲げて何十年も費やしても小銭にすらならないし、下半身の欲望に従い金を払われる方が未来がある。

人間とは、そういうものだ。いやこの場合、相対する女は人間ではないのだが。

「それで、どうしてかしら」
と我々を衛兵に引っ張ってこさせた女は言う。ジャンビエッタ、何だったか••••••人の名前を覚えるのは苦手だ。昔、女の名前が分からず適当に並べ立てたところ、号泣され戦犯扱いを受けたことがある。

分からん話だ。非人間の殺人鬼に何を望むのやら。

思った以上にこの町の警備は厳しく、わざわざ服を買い替えまでしたが素性が既に割れていた。どうやら軍事もそれなりの手腕らしく、想定そのものが不味かった。

神として祀られつつある女を攫うとかいう話だったが、冗談じゃない──────この女は軍人だ。赤い髪、赤い眼光、豊満な肉体と淫蕩さだけではない。手玉に取った男に跨り、それを扱う事にも手慣れている。

何故わかるのかって? 会う女が皆そうだったからに決まっている!!

なので、世界の女は大抵そうだと思っている。実体験だ保証しよう。ではなく現状確認だったか。自称「ハイムちゃん」とやらは協力的な筈だと言われていた事前の情報には反し、我々を手錠と鞭で歓迎した。こんな女が神の依代になるなら鉛玉で賽銭を払って撃ち殺した方がマシだと思う。

世も末だ。それは読者も同じか?

かもしれない。どこも表面さえ良ければ、本質的な問題は見逃すものだ。むしろ、そんなものを非人間の私が見ている時点で世も末だろう。人間にしろエルフにしろあまり友好的には見えないその女は、舌舐めずりしつつ私達二人を吟味する。
「面白いわね。ここにたかだか二人で攻め込んでくるだなんて、ある意味脱帽だわ──────貴方たち馬鹿なの?」
失礼な女だ。ここまで苦労してやってきたというのにな。
まあ、博士の依頼は大抵こんなものだ。裏事情を毎回話されないので予想外の危機に陥る事には慣れている。案の定ここの安普請な神になりかけだかの女が軍事力に長けた輩で、自前の兵団や探りを入れる為の隠密兵まで用意しているだなんて教えるどころか匂わせもしなかった。つまり、ここで捕まるのも予定調和という訳だ。

嫌な調和だが、大体依頼とはそういうものだ。まあ金にならなければ何であれ投げ出すのも私なので、その辺の責任感は金次第と言える。今回の依頼にしたって利益にならなければ、まあ、知らん。
貴様ら金にならない読者に、感謝の念を抱くのか?
殺しも同じだ。いやこの場合、自称神の誘拐だったか。

「争う意思は無い。まずは話し合おうじゃないか」

言ってはみた。言っただけだ。何であれ言うだけならタダだからな。金も払わない読者でさえも、評論家のように垂れるだけならやる。であれば、例えその気ならばすぐに手錠を引き千切り殺しにかかれるとしても、それはそれとして平和的解決とやらを百回に一度くらいは試して良かろう。
無論、面倒ならすぐ殺すかもしれないが、依頼は依頼だ。
前にも言ったが、殺害より誘拐の方が金になる••••••なので私にとってこの神だかの女を殺そうとする別勢力は、卑劣な犯罪者という訳だ。であれば狙われているであろうこの女の護衛として、武力を売り込むのもなくはない。
いや無いか? どっちでもいいが。

「知ってるわよ。博士の使いでしょう? 貴方達を待っていたの」

言って、手錠で繋がれた私の値踏みをしつつ、鞭で地面を叩き砕いた。
いや本当に砕いたのだ。魔術だかが盛んな国と聞かされていたのに、こうも原始的極まる野人の国とは。やはり田舎には来るべきではない。
美人はいたが、大人の女というにはまだ若いしな。具体的に言うとチビだ。
やはり、身長のある大人の女がいい••••••発育は良いかもしれんが大人の女の対応というのが足りていない。大体が初対面で鞭と兵隊というのはどうなんだ?
「出来れば、もっと淑やかな待ち方をして欲しかったが」
「あらそう? ごめんなさい。私、育ちも生まれもこの街しか知らないから」
胸を揺らしながら自称ハイムちゃんは答えた。博士とやりとりがあるのは想定していたが、しかし、ここまで街を掌握している女が一体何を望むのだろう?
話を聞く限り、文字通り「全ての栄華」を得ているとの話だ。簡潔にいえばこの街においては身分制度が完成しており、祭祀職が実権を振るい軍事が下につくという分かりやすい構造らしい。

この辺はどこも同じだ。不思議と、軍事より祭司の方が力を持つ。

それが時代の現人神となれば、その力が猛烈なのは、想像に難くない。人間というのは不思議なもので、信仰する神の為ならと頼まれもしないのに殺人を犯し、金にもならないのに人に押し付け金にならないからと金をせびる。

羨ましい話だ。暇そうで。少しは私もあやかりたい。

そんな彼女はというと、一喝して兵を下がらせ我々二人の耳元へと躙り寄る。無論言うまでもないが、隣の犬千代の気分は最悪だ。わざわざ縛られて抵抗せず標的に近づくだなんてと、やり方に呪いの言葉を吐いている。

そんな我々に、彼女は言う。

「依頼を出すわ」
「? 依頼を受けたのは我々だが」
「そうじゃないの。これは博士も承諾済みよ。元々私がお金を払って、博士を通して依頼したから」
どういうことだ••••••そんな回りくどいやり口に、意味があるのか?
と思ったが、状況を見れば想像はつく。何せ、生まれを選べない世の中だからな。

「ええ、そちらの想像通り、私を自由の身にして欲しいのよ」




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