【詩】友

昨年
つくったばかりのLINEグループ

思い出話が行き交う中

なぜか沈黙していたあなたからの
文字が浮かぶ

K子が亡くなり、
土曜日に通夜、
日曜日に告別式の予定、
詳しくは電話してくださいね

スマホを手に
何度もその字面を眺める

あなたのアイコンから吹き出ている
この文字は何なのだろう

何を言っているのか?

晩秋に久しぶりに会ったばかりで
年賀状にも春が楽しみと書いていて
お正月には
スタンプを交換しあって

こんな冗談は大嫌いなあなただから 
誰かが騙っているのではないか
そう思いたかった

詳しくは電話してくださいね

という
ざわりとした字面

だから
あなたの家に電話をしてみた

その誰かが話してくれたのは

クルーズ船のベットの上で
朝、目覚めなかったあなた

医者が看取らない死は
事故死になり
解剖のため
まだ帰ってきていないと

晩秋のことを知っていて
ようやく、わたしたちのLINEグループに
連絡できたと話す

若い声に
あなたのお母さんなのか
わたしは
誰とお話しているのか
現実の実感がもてないまま

それでも
葬儀会場を聞いて
メモをとる

わたしは 
お悔やみすら
言えなかったのだ

あなたのアイコンから吹き出た文字に
続けて
耳から入ったことばを
文字にする

LINEグループには

意味を失ったことばが
手探りのように
並びだし

吹き出されていくのは
疑問符ばかり

しばらくして
クルーズ船の前で微笑む
あなたの写真が送られてくる

わたしたちの混乱は
さらに極まる

電話をくれた友人と話していても
何をどのように
受け止めればよいのかわからず

わたしたちのことばは
重さもなく
浮遊するばかり

電子空間のつかみどころのない文字
点滅する闇の中で宙に浮く声

0と1の世界で
プラスとマイナスの波のはざまで
または
光の点滅を縫って

告げられる
あなたの死を
どうして事実と受け止められるだろうか

そうして
まだ
信じられない思いの次の日

一縷の望みをかけて
葬儀会場に電話する

そんな予定は入っていませんと
言ってほしかったのだ

言葉に詰まるわたしに
電話の向こうの女性は
やや間を置くと
予定は入っております、と
静かに告げた

それは
わたしに有無を言わせない
確信を与えるのに十分すぎる宣告で
そして
そっと
寄り添うかのように
プラスとマイナスの波を縫って
わたしの耳に届いた

あなたの死は事実で
もう
あなたの死を悼む儀式に向けて
時が動いている

まだ
信じられない
受け止められない

明日は、行きたくない

明日は
現実が ある

その現実に
あなたは
どんなふうに
いるのだろう

でも
あなたが待ってるというのなら

そこで
待ってるというのなら

あなたが
本当のことを語ってくれるのなら

明日は、あなたに会いに行こう

あなたが大切にしている人たちと
ともに、いよう

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