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(SF小説)『荒野.jp』第1話 果てなき荒野

 あらすじ
 未来の日本。核戦争で荒野と化した東京を、若いカップルがホバー・タンクでさすらうのだが……。


 見渡す限り、ガレキの荒野だ。3.0大戦でミサイルの雨を浴びてから、東京はずっとこんな光景だった。
 俺はホバー・タンクの砲台の中にいる。タンクの下部で操縦しているのはレノだった。 
 レノはろくにとかしてないロングヘアをピンクに染めた俺の女だ。俺と同じで30歳を過ぎたばかりである。
「敵らしき奴が、いたよ」
 脳に埋めこんだナノフォンに、レノの声が響きわたった。
「ジャベリンで、こっち狙ってる」
 彼女がそう叫ぶが早いか、眼前のホログラムに映った人物は、倒壊したビルの陰からミサイルを撃っている。
 ジャベリンは黄色い炎をそのケツから噴き出しながら、こっちに向かって飛んできた。
 それは俺達の乗るホバー・タンクの上部まで来たが、砲台の上に設置された屋根型の装甲にぶち当たる。
 とてつもない地震のような衝撃が俺達を襲ったが、ミサイルの爆破後もホバー・タンクは攻撃に耐えたのだ。
 ジャベリンがロシア軍の戦車相手に活躍したのは、遥かな昔。
 現代の戦車やホバー・タンクは上からの攻撃に備え屋根型の分厚い装甲を設置しておりちょっとやそっとじゃ破壊されない。
 敵さんもそれはわかってるんだろうけど、他にろくな武器を持ってないのだろう。
 きっと大戦で灰燼と化した米軍基地から横流しされたものに違いない。
「レノ、大丈夫か」
「大丈夫。ドクロ組の連中?」
 ドクロ組は、今や無法の荒野と化した東京を縄張りとするならず者集団の1グループだった。

 最初に大戦を始めたのがどの国なのか今となってはわからない。
 21世紀後半の世界は、火薬庫みたいなものだった。
 世界中の多くの連中が平和より戦争を望み、自国の領土拡大を願い、外国人や異教徒や、違う思想の持ち主を嫌悪しはじめる。
 やがて日本を含めた多くの国が大量の核ミサイルで武装して、ある日それを一瞬にして解き放ったのだ。
 世界中の大半の地域がそれによって大量のミサイルを敵国から浴び、廃墟と化した。
 今世界の本当の状況が、日本の全体情勢がどうなってるのか俺にはわからん。
 議会も警察もマスメディアも法律も道徳も、一挙に壊滅したからだ。

 そんな事より、俺は自分を殺そうとした奴を退治しなけりゃ。
「ジャベリンを撃ってきた奴をやる。主砲を撃つぞ」
 俺は、宣言した。
「あいよ」
 レノが元気よく返事をしながらホバータンクをジャベリン野郎の方へ進める。
 俺は気合いを入れるためネオ・ヒロポンを左腕に注射した。
 やがて噴火のような高揚感が吹き出して、俺は一気にハイになる。
 ハルマゲドン後の永遠の地獄を乗りきるにはこれしかなかった。
 何でも輸入元は中国らしい。
 中国には日本とアメリカと韓国とインドの放った核ミサイルが降り注いだがなにぶん広い大陸なんで、ドラッグを生産・販売できる機能が残された都市がまだあるようなのだ。
 俺は照準を、ジャベリン野郎の乗っているホバー・カーに合わせた。
 轟音が響き渡り、砲弾が発射される。それは見事にぶち当たり……と思いきや、間一髪でホバー・カーは逃げてしまう。
「レーダーに何か映ってる!」
 レノが悲鳴に近い声をあげる。前方から5、バックから5の赤い点が、急速に迫ってくる。
 どうやらドクロ組の連中らしい。俺の額から、汗が流れた。

(SF小説)『荒野.jp』第2話 襲撃|空川億里@SF、ミステリ、ショートショート (note.com)

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