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人形師(SFショートショート)

 あらすじ
 時は未来。大富豪のジム・ドールは事業から引退し、今は人形師として活躍していたが……。


 ジム・ドールは、太陽系中にその名を知られた人形師だ。
 彼の手がけた等身大の美女を模した人形はまるで本当の人間のように見え、多くの者がその腕前を絶賛していた。
 元々ジムは趣味として始めたがネットでそれを公開して、広く世に知られたのである。
 彼は会社の経営で成功をおさめた大富豪だ。22世紀のビル・ゲイツと呼ぶ人もいる。現在彼は企業経営は息子に任せてスペース・コロニーの1つを買い取り、そこに1人で居住している。そのコロニーに人形の展示館があった。
 スペース・コロニーは巨大な円筒形の植民都市である。回転することにより、内部に0.9Gの重力を作りだしていた。地球と月の間にある、ラグランジュ・ポイントと呼ばれる宇宙空間に浮かんでいる。地球と月の重力がつりあう場所だ。月面から必要な資材を調達し、そのコロニーは建設された。
 かつては大勢の人間が住んでいたが、事故でたくさんの住民が死に放棄されていた物を、ジムが安く買いとったのだ。通常そのコロニーに、彼以外の人物が来る事はなかった。現在のジムはほとんどの人間関係を絶っており、1人コロニーの屋敷の中で、製作に没頭している。
 料理や掃除は全てロボットがやっていた。妻とはすでに離婚しており、今は独身だ。愛人達とも手を切っていた。そんな彼だが、不定期に展示品の観覧客を募集している。ジムは久々に募集をかけた。ちなみにネットの募集欄には氏名と年齢と職業を書くスペースがある。
 それに加えて応募者には自分の画像を載せるよう募集要項に書いてあった。理由として、身元の不確かな人物からの応募を断りたいためと、説明がされている。応募が始まると、早速大量のメールが量子テレポート通信で太陽系から送信されてきた。
 大富豪はその中で、デミ・ハリスという女の画像が気になったのだ。ロサンゼルスに住んでいる金髪の美しい白人女性で、年齢は24歳。職業はモデル兼女優であった。ネットで検索すると、名前と画像がヒットする。売れっ子というほどでもないが結構活躍してるようだ。
 端役だが、映画やドラマにも出演していた。ジムは女を気に入り、スペース・コロニーにある自分の屋敷に招待すると決めたのだ。表向きは抽選で招待客を決めてると説明していたが、実際はこうやって自らの好みで選択していた。彼は、締め切り後1週間経過してから返信を出す。
「この度は、ご応募ありがとうございます。厳正な抽選の結果招待客の中の1人は、ハリス様に決定しました。早速ですが、ハリス様のご都合をお聞きしたいのですが」
 その後地球のロサンゼルスにいるデミから量子テレポート通信で返信が来た。
「大変光栄です。以前からドールさんの大ファンで、貴殿のお創りになった人形を実際にこの目で観たいと願ってました。すぐにでも、宇宙船でスペース・コロニーまで地球から飛んでいきたいぐらいです。こちらの都合の良い日をお知らせしますね」
 その後通信のやりとりがあり、デミが訪問する日が決まる。彼女は、ジムが迎えに出した宇宙船で、彼の住むスペース・コロニーまでやってきた。船は人工知能がコントロールしている。
 宇宙船には金属探知センサーが設置されていたが、アクセサリー類以外の金属を、デミは身につけていなかった。拳銃等の武器の所有は厳禁だと事前に説明しておいたが、約束は守ってくれたのだ。やがてスターシップがコロニーのドッキング・ベイに到着し、ジムは彼女を出迎える。
「はじめまして。ハリスさん。ようこそ私の人形屋敷へいらっしゃい」
 大富豪は、とびきりの笑顔を用意して、来客を出迎えた。経済的な成功の秘訣の1つだと彼が自負しているスマイルだ。
「はじめまして。こんな大きなコロニーに1人で住んでらっしゃるんですね。今回はお招きいただきありがとうございます。光栄です」
 太陽のような笑顔である。輝くようなブロンドが、まるで陽光のように思える。実際に会ってみると、期待以上の上玉だ。 
「1人の方がいいんです。人形の製作がはかどりますから。元々は大勢の人が住んでいたんですが、思わぬアクシデントで残念ながら住人が大勢死んでしまいましてね……いわゆる事故物件です。そこで私が安く買いとったわけですよ」
「そうでしたか。亡くなった方々は、お気の毒ですね」
「全くです。天国に行かれた人達のためにも、よい作品をこしらえたいと日々精進しています」
 ジムは、デミを展示館まで連れて行く。そこには白人や黒人や黄色人種など、様々な民族の若い女の姿をした人形が並んでいた。デミはその一体一体を、ついばむように鑑賞してゆく。
「やはり人形じゃないわね」
 さっきまでとはうって変わった冷淡な口調になってデミが言葉を投げすてた。
「どれも剥製じゃない。特殊な加工のせいで一見人形に見えるけど、よく眺めれば、そうでないと判断できる。皆あなたが拉致して剥製にしたわけね。失踪した人達の剥製もある」
 デミが、ジムの方を見た。矢のように鋭い視線だ。
「あたしも剥製にする気だったんでしょう? 残念ね。あたしは太陽系警察の捜査官です」
 バレてしまったなら仕方ない。ビルは上着のポケットから拳銃を取り出そうとしたが、その前にデミがハンドバッグから自分の拳銃を取り出して、こっちに銃口を向ける。
「強化プラスチック製の銃よ。金属探知機に引っかからなくて残念ね。手をあげて。あなたは、もう終わり」

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