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自立支援型地域ケア会議を全国に普及させた大分県の地域リハビリテーション

 こんにちは。私は大阪府の北摂地域で、作業療法士として約13年間のキャリアを重ねてきました。地域社会に何か意義深い貢献をしたいという思いから、全国の地域リハビリテーション支援体制がどのように成り立っているのかを調査し、各地での工夫について学ぶことに決めました。

 この記事では、大分県における地域リハビリテーションに焦点を当てています。全国的に注目を集める最も著名な事例として、自立支援型地域ケア会議の普及が挙げられます。この自立支援型地域ケア会議は、実は埼玉県和光市が発祥とされていますが、大分県がその普及に大きな役割を果たしていると言われています。これは、大分県独自の「県主導型」の地域リハビリ支援体制によるものです。その歴史や、私が特に素晴らしいと感じているポイントについてお話ししていきます。

 この記事を読んでくださったあなたに、何かひらめきや新しいアイデアが生まれたらいいなと思っています。もしよかったら、ぜひ読んでみてください。


(1)自立支援型地域ケア会議とは

 地域ケア会議とは、要支援とされる高齢者などへの支援を計画するため、医療や福祉の専門家が集まって議論を行う重要な会議です。この会議は、2015年に介護保険法に基づいて制度化され、2017年度からは、「地域ケア会議を推進する事業」を通じて、全市町村での会議開催が義務付けられました。
 会議の主な議題は以下の三点です。

  1. 個別の事例における課題の解決

  2. 多職種間でのネットワークの構築

  3. 地域全体の課題の発見と対応

 さらに、これらの会議から派生して、「地域ケア推進会議」というものも存在します。こちらでは、地域ケア会議で浮き彫りになった各種課題に対し、より広い視点での議論が行われ、具体的には地域づくりや資源開発、さらには政策形成に関して検討を進めています。

(2)埼玉県和光市から始まる

 埼玉県和光市では2001年から、地域のケアを協議する「コミュニティケア会議」を開催しています。この会議には、医師や薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士など、多様な専門職が参加しています。2006年、地域包括支援センターが設置され、そこで勤務する保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が介護予防プランの作成を担当するようになりました。これらの専門員は、コミュニティケア会議からの助言を参考にプランを策定し、多職種からの知見をもとにした人材育成(OJT)の場としても機能しています。

 和光市では、このようなシステムのおかげで、要介護認定率が全国平均や埼玉県平均よりも低いという成果を上げています。コミュニティケア会議の取り組みは全国に知れ渡り、多くの自治体からの視察が行われるようになりました。その流れを受けて、2012年度には千葉県や大分県が、和光市の取り組みを参考にした事業を開始しました。さらに、国も地域ケア会議が地域包括ケアシステム実現の有効な手段であると認識し、運営マニュアルの作成や研修事業など、その定着と普及に向けた取り組みを進めています。

 しかし、和光市で成功を収めたにもかかわらず、埼玉県全域での制度普及は2013年度まで待たなければならなかったのです。

(3)普及する要因

 地域ケア会議に注目した大分県や千葉県の機関は、県から「地域リハビリテーション支援体制整備事業」を実行する中核機関として、「県リハビリテーション支援センター」の指定を受けた機関です。地域リハビリテーション事業とは、何らかの要因によって寝たきりや要介護状態を予防する地域リハビリテーションを普及させる事業で、1999年に国が補助事業として開始しました。7つの都道府県から始まり、2005年には41都道府県まで拡大しました。しかし、翌年に普及事業としての目標を達成したことから、国の補助事業から外れ、各都道府県の一般財源へと移行しました。その結果、事業を継続した都道府県は、2009年までに30都道府県まで減少してしまいました。また、内容や質、連携機関の数には、各都道府県によって大きな差が出ました。

 千葉県や大分県は、全国的にも地域リハビリテーション支援体制整備事業が盛んな県で、多くの関係機関と協力して体制を整えています。
 
 一方で、埼玉県は、2005年に一度終了し、2013年2月に県議会で地域リハビリについて問われ、再開されました。介護保険の運営は、各市町村が中心のため、その取り組みが県全域に広がりにくいです。しかし、医療保険の運営は、県が中心で、地域リハビリテーション支援体制整備事業の中核機関は病院であり、県との連携は取りやすく、良い取り組みは県全域に普及しやすいです。埼玉県内での普及の遅れは、地域リハビリテーション支援体制事業を終了していたことが要因ではないでしょうか。

 ところで、大分県では、事業開始後早期に県全域まで広がっています。会議の質もく、これは国からも評価され、2016年7月に厚生労働省が主催する「第7回医療介護総合確保促進会議」で取り上げられました。そして、2015年から全国の市町村で地域ケア会議の開始が義務付けられたとき、その運営方法を学ぶために、大分県は全国の多くの市町村から視察を受け、さらにリーディングコーディネイターとしての訪問依頼も受けるようになりました。

 それでは、なぜ大分県は普及が早く、全国のコーディネイターになることができたのでしょうか。次に、大分県の地域リハビリテーション支援体制の歩みについてお話しいたします。

(4)大分県の地域リハ支援体制

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