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歯科

後悔

院長の顎の話にもどるわね。二週間内科医で出された薬を飲んだけどいっこうに顎のしびれは改善しなかった。そういえば院長は二年前に右下の親知らずを抜いて一本前の奥歯をインプラントしてもっらていたのだ。どうやらその部分が腫れているのではないかということになって、インプラント施術した歯医者さんに行くことになった。
次回は一見したところインプラントには問題はなさそうだがと首をひねっていたが、確かに周辺が腫れているようだということで念のため歯科CTをとることになった。

右下顎骨に穴が

右の下顎骨に穴が開いたような部分が見られた。院長は素人ではないのでこの骨が亡くなっている様子からただ事ではないことはすぐにわかった。腫瘍の可能性も十分にある。そこで歯科医に聞いてみた、「これは腫瘍性の病変ではないのか?」と。歯科医は「腫瘍はこんな写り方はしない。絶対に腫瘍ではない。」と言い切った。「これは口腔外科に見てもらったほうがいいのでは?」と聞くと、歯科医は「なにかはわからないけど、しばらくうちで見させてほしい。インプラントもやり直さないといけないようならこちらで費用も持つから」というので、なかなか動物病院を休むことのできない院長は、仕事終わりや昼の休み時間に通いやすいこの歯科医院で治療することにした。院長は今この時のやり取りを鮮明に覚えているためかなり後悔しているようだ。この時もっと強く口腔外科への紹介を歯科医に訴えていたら、顎が今のように腫れたりしなかったのではないか?肝臓の腫瘍ももっと早くに発見でき今よりもやれることがあったのではないか?と。実は院長にはもう一つの大きな後悔がある。それは今年の2月に夫婦で健康診断を受けに行き、腹部CT検査で肝嚢胞と肝腫瘤という病変の報告がされていたのだ。夫婦で健康診断を受けるにあたって、院長はPET検査も入れるか入れないか実はものすごく悩んだのだ。というのもPET検査は高額なため二人分となると高額な健康診断になるからだ。それに院長には癌に対する警戒心が低くむしろ急性心不全や脳梗塞などの急死型の病気に対する恐怖心があった。そのため健診メニューを選ぶとき脳ドックを優先しPET検査をはずしたのだ。あの時PET検査をしていれば肝臓の腫瘍(肝臓というより胆管癌であるが)が早期に発見できたかもしれない。これは大きな後悔となり今に至っている。さらに言うと、この時の診断結果はかかりつけのN先生にも報告し、肝臓のエコーも見てもらっていたのだ。院長も犬猫の肝臓のエコー検査をする立場なので、エコー検査だけでは肝臓の腫瘤が何かまでは診断できないことは知ってる。N先生が「様子見ていきましょう」としか言わなかったこともあり、肝臓に関してそれほど気にしなかったのだ。ほかの数値や腫瘍マーカーにも異常はみられていなかったことも楽観視させた理由かもしれない。今から思えばこの時ももっと強く精密検査を要求していたら早期発見につながったと思うと大きな後悔として暗澹たる思いに駆られる。院長が今、周囲の人に健康診断を受けるなら必ずPET検査つきのものを選ぶように勧めている理由はこうしたことからである。

歯科での治療

今から思うと歯科医はインプラント施術の失策を疑っていたようだ。院長には骨の穴の位置はインプラントより前のほうと説明していたが、腫れているのはどう見てもインプラントの部位であった。歯科医は腫瘍は完全否定していたので、院長はなぜこういうことが起こるのか尋ねると「下顎空洞症かもしれない。最近顎を強打しませんでしたか?」と聞いてきた。覚えはなかった。どうも何かごまかしているような言い草であった。院長は同じ患者(院長の場合は患犬、患猫であるが)を見るものとして、歯科医は自分の施術のせいでこうなったということをごまかそうとしているのだろうと感づいていた。おそらく歯科医はインプラント後骨髄炎を一番疑っていたのではないだろうか。
初日の施術としては、局所麻酔後下顎の骨欠損部に横穴を開けて血様の内容物を20mlほど吸引し、ガーゼドレーンを装着した。今思えばその内容物をきちんと病理検査すべきであったのだと悔しい思いもしている。次回、インプラントをはずしてインプラントの根部から下顎の空洞部にペンローズドレーン(液状物を外に出すための管)を装着するという。抗菌剤と抗炎症剤を処方され初日は終わった。
一週間後局所麻酔をして、インプラントを除去しペンローズドレーンを装着した。このころから腫れがだんだん大きくなってきたように感じられていた。結局装着したペンローズドレーンは一週間もしない間に外れてしまい。しばらく様子を見ることになった。そのころから歯科医は歯切れの悪い言い方しかしなくなり、治療に対して明確に自信があるようには思えなくなってきていた。院長も段々腫れてくる顎に不安を覚え始めていた。

歯科初診から約一か月後

ドレーン入れて排液し、下顎の腫れが引いてきたら顎のしびれもなくなるだろうという説明だったが、痺れは一向に改善せず、下顎の腫れそのものも大きくなってきていた。ここに至ってはこの歯科医に任せていては埒が明かない。院長は「医大の口腔外科に行きたいから紹介状を書いてくれ!」と訴えた。歯科医も事ここに至っては自分ではどうすることもできないと自覚したのか素直に今日中に紹介状書きます、と観念したようだ。
結局この歯科での一か月の治療が無駄な時間となり、後々院長を苦しめることになったことはそばで見ていた私も悔しい思いがする。ただ、一般の歯科医にとってこの下顎の骨欠損を腫瘍と見抜く技量があるのかどうかはわからないが、少なくても自分の手に負えないような症例は素直に口腔外科に紹介すべきだったと思う。非常に残念な歯科医での治療経過であった。

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