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ヘビの餌:拒食についての考え方

拒食時の確認事項1:ヘビに餌をやりすぎていないか?

飼育における悩みとして最も多く相談を寄せられるのが ”拒食” 、つまり餌を食べないということに関するものです。

こうしたご相談をいただく方に対して私は ” ヘビの餌についての意識を一度リセットしていただきたい" とお伝えしています。

先にも記しましたが、ヘビは摂取したカロリーを非常に効率よくエネルギーへと変えるシステムを備えています。
これを考えたとき、彼らが飼育下において必要とする餌の量は、書籍やオンラインで現在伝えられている ”ヘビに与えるべき餌の量” と比較してはるかに下回ると考えられます。

(ケージが狭いことからくる)運動量が足りてなければ、空腹になりませんし、そうなれば餌を食べることもありません。

この点についてはヘビも人も違いはありません。身体を動かしてたくさんのカロリーを消費すれば早く空腹になりますし、カロリー消費量が少なければお腹がすくのに時間がかかることでしょう。
ヘビにおいても同じであり、なおかつ飼育下では自然下と比較すると相対的に運動量は少なくなりますので、必然的に餌の要求量も減るのは自然なことというわけです。

適切な給餌間隔や餌の量の目安はこちらの記事("適切な給餌間隔" の考え方|cobra_thief (note.com))にご紹介していますのであえて再記はいたしませんが、ケージのサイズによってはこの目安よりさらに餌の量を減らす必要がある場合もあります。

ヘビが餌を食べない場合の理由で最も多いことの1つはケージサイズ、およびそれに伴う運動量と比較した際、 "必要充分な量" を超えた量の餌が日常的に与えられている、ということが挙げられます。 

拒食時の確認事項2:ヘビが餌を安心して食べられる環境か?

ヘビが餌を食べないでいる期間、彼らの代謝量は餌をコンスタントに食べているときと比較して最大で70%近く低下するとしている記録があります。
また、臓器の大きさも小さくなり、同じく平常時の半分程度にまで縮むことがあるようです。
そのような "休眠” の状態から、いざ餌を食べるとなれば元の状態に戻るまでに大きなエネルギーが必要となります。
もちろん餌によってはよりその傾向が顕著となり、場合によっては消化に長い期間がかかることもあります。
この間、ほとんど動くことができないなどということも多く、そうなるといわば外敵からほとんど "無防備" に近い状態にさらされます。

*ちなみに飼育下における摂餌から排泄までの期間は正常な温湿度設定、餌のメニュー、およびストレス負荷が少ない環境が整えば4日~1週間程度、ボアやニシキヘビなどに”丸” の状態の鳥類を与えた場合にはもう少しかかって1週間から10日前後が平均的な数字のようです。
ヘビの種によっては糞を体内に大量に溜め込むため(自然下でも同様で便秘がストレスによるものではない場合も多い)、排泄までの期間と ”餌の種による消化器系への負担の大きさ” に必ずしも相関関係があるとは限りません。

このように考えると、”餌を食べる” という行動は彼らにとって非常に危険を伴うものであることがわかります。
ヘビの中にはそのようなリスクを本能的に把握していると考えられる個体もおり、人が見ている状態ではかたくなに餌を食べない、ということも少なくありません。

またケージ内の環境にストレスが多い場合には同じように摂餌よりも警戒心が勝り、餌を食べないということはしばしば見られます。
もっともこうした理由からくる拒食対策は実にシンプルで、ケージ内外のストレス要素を減らせばよい、ということになります。

具体的にはケージそのものの仕様や温湿度設定("理想のケージ" とはどんなものか|cobra_thief (note.com))、床材の変更(床材の考え方|cobra_thief (note.com))などです。

また、ヘビをできるだけ構わないこともストレス負荷の軽減につながります。
ヘビが安心して餌を食べられる環境の設定。特に神経質な種や個体に対しては、こうした配慮が拒食予防・対策に何よりも重要なことです。

拒食時の確認事項3:生理現象によるもの

交尾のスイッチが入った、あるいは抱卵や妊娠期間中、そして脱皮の前後などにはヘビが餌を食べないことがあります。

これらの生理現象もヘビにとってはある意味で ”危険を伴う” 状態となることから、あるいは身体をできるだけ動きやすくするのではないかと推測しています。

ただし、すべての個体がこうした生理現象とともに餌を食べなくなるというわけではありません。
例えば、私がこれまでに飼育してきたヘビでは、脱皮中にもそれまでと何も変わることなくモリモリと餌を食べる個体も少なくありません。印象としては食べる×食べないの割合は半々くらいでしょうか。

むしろこれらの普段と違う健康状態の際には、より多くのカロリーを消費するはずですから、安心できるなら多くの餌を食べたくなると考える個体がいても不思議ではありません。

なお、生理現象による拒食・絶食については脱皮日時の記録や交尾行動・体型などを確認することによって把握できることから、原因の判明は難しくないものと考えられます。

拒食時の確認事項4:部屋、およびケージ内の温度や窓からの光量

とくに南半球、あるいは赤道付近の熱帯・亜熱帯地域を原産とするヘビの場合には、毎年10月後半ないし11月頃から翌年3月頃までにかけて、まったく餌を食べないということも珍しいことではありません。

これは気温の低下に加え、窓から射す光の量・質などによってヘビが季節の変化を感じているものと考えられます。
熱帯・亜熱帯産のヘビは、原産地においてはいわゆる "冬眠(生理現象の意図的な著しい低下)" をしない種ということになります。
それでも "寒い、あるいは陽の量や質が変わった場合には生理サイクルを変化させる" という本能が備わっているのか、と思うと毎年非常に興味深くその様子を観察しています。

餌を食べなくなる日、そして再び食べだす日の記録は毎年つけていますが、いずれも "室内で最も寒い場所の温度が摂氏22-23℃" というのが概ねの目安となる数字のようです。

冬場、スポット的に暖かい日には餌を求めてはい出てくることもありますが、多くの場合で数日後には再び気温が低下するため、消化不良を考えて餌を与えてはいけません。
体型やウロコ、皮膚の艶などを見ても健康状態が悪化しているなどということは全くありませんので、拒食期間中彼らがいかに代謝量を減らしているのか、ということが実感できます。

また温度だけではなく、太陽光の質や量によっても彼らが季節を感じているようなのですが、こうした”太陽光” のヘビへの影響についてはまた項目を改めてご紹介することにしましょう。

ここまで "ヘビが餌を食べない" という場合の確認事項についてご紹介してまいりました。
拒食の原因の多くはこれらの何れかによるものだと考えられます。

それまで食べていたヘビが、原因不明に突然餌を食べなくなったということは私のこれまでの飼育経験では1度もありません。
ただし、購入したヘビをケージに納入してから一度も餌を食べずに死んでしまったということは2回だけありました。

それらは購入前のお店での管理がかなり劣悪で、ケージに納入した時点でかなり痩せておりました。
うちに引き取って何とかしてあげたい、と思いましたがかわいそうなことをしてしまいました。こうした事例を見ても、やはり ”どこからヘビを購入するか” は非常に重要なポイントとなります。

逆に言えば、購入時の状態に著しい問題がなければ、上記いずれかの懸念点を解消することで拒食は決して "怖いもの" などではありません。

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