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ヘビの飼い方③ボールニシキヘビ

ボールニシキヘビPython regiusは、ペットとして流通している最もポピュラーな種のヘビの1つだと言えるでしょう。
比較的気性が穏やかな個体が多く、また最大体長が1.5mほどとあまり大きくならない点も愛玩動物として人気の高い理由かもしれません。

原産地は西アフリカから中央アフリカにかけて、熱帯気候で年間を通して気温の変動は比較的少ない地域に暮らしています。
ただし湿度に関しては雨季と乾季の差が激しく、変化への対応には強い傾向があるようですが、飼育下においては他のヘビと同じく乾燥傾向に寄せた方が体調は良い傾向があります。

ボールニシキヘビはオス、メスで餌の嗜好や活動傾向が異なることが知られています。
餌の嗜好でいえばオスはげっ歯類を好み、メスは鳥類を好む。活動域でいうとオスが樹上や樹冠を好み、メスは使われなくなったげっ歯類の穴などの半地下生活を好む傾向があります。

活動時間帯は主に夜間が多いですが、これは原産地の日中における高温を避ける目的があるようです。
飼育下では日中に活動する姿も見られますが、本来の活動傾向を考えれば給餌の時間は夜間に寄せた方が消化器系への負荷は少なくなるでしょう。

ここまで大まかなボールニシキヘビの ”傾向” についてご紹介しました。以下に具体的な数字などを挙げて理想的な飼育環境を考えてみたいと思います。

ケージサイズとケージ内環境

ボールニシキヘビは他のボアやニシキヘビ類と同様、運動量の多い ”活動的な” ヘビではありません。
しかし、では狭いケージでもよいのか、というそういうわけではありません。夜間はケージの壁面や天面(上蓋の裏側)などを這いまわっている姿もしばしば見かけられますので、肥満防止に運動を促す意味でもある程度の広さがあるケージを利用した方が良いでしょう。
一応の目安としてのケージサイズは、

横幅:頭胴長の1.5倍から2倍以上
奥行き:頭胴長と同以上
高さ:頭胴長と同じか1.5倍以上

になります。

床材は上記の通り、特にメスは半地下を好みますし、オスについても樹上や樹冠を好むとはいえ、半地下の空間に依存する傾向は変わりません。
したがってナミヘビの多くと同様、柔らかい素材、具体的には各種用土やチモシーなどが適しています(床材の考え方|cobra_thief (note.com))。

また、自然下において彼らが使われなくなったげっ歯類の巣穴などを好む傾向を考えると、床材にシェルターを斜めにあるいは半分埋める形とし、"防空壕スタイル" のシェルターを作ってあげるとより理想的です(ヘビにとってシェルターとはどんな場所か|cobra_thief (note.com))。
なお、冬の加温器具を使用する際にはシェルターに直接あたらない位置とし、内部の温度が高くなりすぎないようにする配慮が必要です。

ケージ内の ”湿地” については、ボールニシキヘビは特に水に依存したヘビではありませんので(遊泳等を好むわけではない)、飲用のトレー状のプールが1つないし2つ程度あればよいでしょう。(複数設置するのは水が排せつ物などで汚れた際の対策として)
プールの中に麦飯石や溶岩石を入れるなど、水質への配慮は必要ですが、ボールニシキヘビの飼育において、とりわけ湿地の管理に気を使う必要はないように思います。

温度と湿度の設定

他種のヘビと同様、乾燥傾向に保つほうがストレス負荷が少ないことは先の通りです。
また、これはボアやニシキヘビ全般に言えることですが、彼らは比較的皮膚組織が脆弱な傾向があり、ストレス負荷が高い状態で高湿が続くと皮膚疾患を起こす可能性が一気に高まります。
この傾向はボールニシキヘビでは特に顕著で、劣悪な環境の飼育下において水疱がみられるケースも多々あります。

理想はケージの仕様として常に空気が動いている状態ですが("理想のケージ" とはどんなものか|cobra_thief (note.com))、このように万全な環境を支えるカスタムケージを用意できない場合でも、ボールニシキヘビが特に高湿がNGな種のヘビである、という旨を常に念頭に置いた湿度管理を行うことが重要です。
以下は ”一応の目安” としての理想的な温度と湿度設定です。 

・温度
気温の低い時期:摂氏23,4℃~27,8℃
気温の高い時期:摂氏25,6℃~32,3℃

・湿度
乾燥した時期:30%~50%
湿潤な時期:50%~70%

餌の種類と給餌間隔

ボールニシキヘビは自然下ではさまざまなげっ歯類や鳥類を食べています。Cricetomys gambianusなどサイズの大きくなるネズミ類も常食しているようで、消化器系は比較的タフなヘビであると言えるでしょう。

飼育下でも市販のネズミ類で問題なく飼育することができますが、自然下と比較して相対的に運動量が少ない傾向を考えると、給餌間隔には注意が必要です。

元々、ボアやニシキヘビのような身体のサイズが大きくなるヘビでは、時期(気温が低い)や体調(脱皮の前後や産卵前など)によってかなり長い期間にわたって餌を食べないことが少なくありません。
そのような時に無理に餌を食べさせるようなことは、長期的に見た場合のストレス負荷となるだけでなく、直接的な消化器系へのダメージとなることもありますので、絶対に避ける必要があります。

一応の目安としての理想的な(成蛇の)給餌間隔は以下の通りです。

気温の低い時期:1カ月半~2カ月に1度
気温の高い時期:1カ月に1度
*餌のサイズはバイト(アタック)から嚥下までにかかる時間が2分以内のものを、ヘビのサイズに合わせて4-5匹程度

繁殖:交尾の促進と卵の扱い

気性の穏やかなボールニシキヘビにおいては、1つのケージでの多頭飼育を問題なくできます。(個体同士の著しいサイズの違いがないか、という点にだけは配慮した方がよいでしょう)

ほかのヘビにおいてもそうですが、彼らには明確に「パートナーの選り好み」があり、ただ交尾の時期になったらオスとメスを同じケージに入れておけばよいというものではありません。
普段から同じケージ内で飼育し、お互いが安心できると悟った上ではじめて交尾に至るという点に配慮してあげる必要があります。

主に交尾は10月~11月頃に行われ、およそ2カ月~3カ月の期間を経て産卵に至ります。1度の産卵で産み落とされる卵の数は、親の健康状態が正常であれば10-12個くらいのことが多いようです。
産卵から孵化までの期間はさらに2~3カ月を要します。

孵化までの卵の保存方法は、他のヘビと変わりません。卵のサイズに合わせたタッパーに濡れた枯葉を敷き、さらに濡れた枯葉で卵を覆います。
その際、卵の上部に油性マジックで印をつけて卵が転倒していないかの目印とすることを忘れないようにします。

孵化間もない仔ヘビは、健康な個体の場合30-40㎝程度のサイズであることが多いようです。

孵化後は1週間から10日ほどは餌を与えずに様子をみます。また、孵化後半年程度はそれぞれの幼蛇は1つのケージに単数で飼育したほうがよいでしょう。これは摂餌の際に誤って咬みあってしまうアクシデントを予防するためです。(ときに言われるように餌を2頭以上のヘビが取り合って相手を誤って呑んでしまうというような事故は、ボアやニシキヘビでは特にほぼ起きようがないと思われます)

孵化後半年以上経過すれば、サイズ、ケージ内環境に問題さえなければ、特にボールニシキヘビでは2頭以上の個体を同じケージで飼育しても、問題が起こるというようなことはほとんど考えられません。
累代飼育を狙うのであれば、むしろ複数個体を同じケージで飼育する方が良いでしょう。

今回はペットスネークとして最もポピュラーな種の1つ、ボールニシキヘビの飼育について、その基本と注意すべき点についてご紹介しました。

性格が穏やかで生態に癖もなく、入門種として人気があるのもうなずけます。
寿命にしても、特におかしな飼育をしなければ30年以上生きる個体も多く、そうした点では文字通り ”家族” としてイヌやネコのように生涯の一部を彩ってくれる動物でもあります。

”初めての1個体” として自信をもってお勧めできる素晴らしいヘビ
だと言えるでしょう。


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