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イタリアのボローニャで、「あなた達は結婚式を挙げられません」と言われた話

2010年の話ですので、もう10年前の事ですね。

私は、当時はまだ婚約者だったイタリア人の夫との結婚準備のために2009年秋に渡伊しました。
挙式は当時夫が就労していたエミリアロマーニャ州の州都・ボローニャ市で、時期は渡伊から約8か月後の2010年5月初旬にと決めていて、結婚式の準備・新生活の準備と壊滅的にダメだったイタリア語の修行のためにちょっと早めに渡伊したわけです。

2009年当時、日伊間に「婚約者ビザ」というものはもうすでに存在しませんでした。
観光目的でイタリア(を含めたシェンゲン圏内)に入国すると、日本国籍所有者は3か月間は合法的に滞在できます。
この3か月の間にイタリア人と挙式し、イタリア国籍所有者の配偶者として合法的に長期滞在できる許可証を取得している人もいましたが、私には3か月という期間ではぜーんぜん時間が足りなかったので、ボローニャ市内の語学学校に通う事にし、2010年5月下旬まで有効の学生ビザを取得し渡伊しました。
約8か月で語学をなんとかしつつ挙式準備もするぜ! と思った私、若かったなぁ(笑

ビザとはイタリアに入国するために必要な物。日本のパスポート所持者は、観光目的で訪伊の際の観光ビザ取得を免除されていますね。
滞在許可証とは、イタリアに合法的に滞在するために必要な物です。

ボローニャ到着後、すぐにクエストゥーラという移民管理局に出向き、イタリア国内に合法的に滞在するための許可証(滞在許可証といいます)の申請を行いました。
私に発行される滞在許可証の期限は、すなわち学生ビザの有効期間と同じで、就学目的の滞在許可証です。(イタリアで働く場合は就労ビザを入手の上入国、就労者用の滞在許可証を申請します。)

ところで。
イタリアは公的機関の続きが非常に、非常に遅いことで有名で、当時は(たぶん今も、ですが)EU内のルールを全く無視した長期の手続き期間が必要でした。
イタリア到着後、所定の日数以内に手続きを開始すると「この人、滞在許可証の申請済です。申請内容の確認と発給はまだだけど」の証明書的な紙きれを貰えました。
俗に半券とかリチェヴータ(Ricevuta)言われている物で、この紙きれさえあれば私は立派な申請済な人。イタリア国内に限っては、滞在・移動などに問題が無い状態でいられました。

さて。
ボローニャ市のクエストゥーラで半券をいただき、たまーに手続きに必要な指紋採取(!)に呼ばれたりしながら、語学修行と式の準備に明け暮れる日々がしばらく続きまして、あっという間に2010年です。さぁ5月に挙式するぞっ~!

ところで、イタリアでは重婚を防ぐために結婚の公示という物をします。
公示ですんで、公に示します。最近までは古式ゆかしく市庁舎の外の専門掲示板へ張り出しが行われていまして、意義としては、

うちの役場で××氏と〇〇さんが結婚すると言っています。
異議のある方いますかっ!?

という伝言(お問い合わせ)掲示板みたいな役割を果たしていました。
個人を特定するため、結婚したい2人の生まれた場所、生年月日なども記載されます。

戸籍の管理がアレだった時代(イタリアも戦争や色々ありましたからね)は、稀ながら異議申し立てもあったようです。
重婚しようとしてたり他に婚約者がいたりと、異議が出るケースは関係各位ご苦労様ですな事が多かったようですが、私が挙式を企てていた当時(笑)は形式的な物でした。(現在では張り出しそのものが個人情報保護の面から禁止になっており、風情が控えめになっているようですね。)

この公示に先駆け、結婚したい2名が公示ができる身分である事を証明する=住所がある市町村の役場から「この人、独身です!」っていう証明と結婚許可をもらわねばなりません。イタリアは色々とメンドウクサイんですよ。
この証明書をNulla osta(ヌッラオスタ)と呼びますが、細かいことは気にせず話を進めます。
(私は日本人なので、日本の戸籍を翻訳したものが該当書類になります。)

当時、夫は仕事の都合でエミリアロマーニャ州ボローニャ市に住んでいましたが、住所(日本でいう所の戸籍に近い物ですかね)は地元に置いたままでした。
2010年1月に結婚許可(ヌッラオスタ)の申請にコセンツァ市庁舎を訪問した際、2009年9月の申請から3か月が経過しているにもかかわらず私の就学用滞在許可証はまだ発行されていませんでした。
半券は持ってたけどね。

イタリアは、滞在許可証の発給手続きの猶予期間として3か月を設けています。要するに、申請が受理されから3か月以内に滞在許可証をあげます、手続き待っててねっていう事ですね。
この期間が過ぎているにもかかわらず私の手元には半券だけ。この状態が、実はEU内では認められていません。
なので、半券所持のまま例えばフランスなどに行くのはちょっとやめた方がいいカンジ、になるわけです。
私の責任では全くないのにね。ヒドイよね。

特に学生ビザで入国した人たちの間では、例えば1年の就学期間中に滞在許可証が出なかった、なんてこともあるぐらい、この手続きの遅さは「普通の」事でした。
ともあれ、結婚許可を貰おうとしていた2010年1月の時点での私の身分は、学生ビザでイタリアに入国し就学用の滞在許可証発給待ちの人、です。

実は、ここに法律の穴があったんです。

2010年の段階で、有効なビザは持ちながらも就学用滞在許可証半券所持者がイタリア国籍者と結婚したい!というケースについての記載が、該当する法律・条例に無かったんです。
ざる。。知ってたけどイタリアの法律、色々ざる。。

照会できる先もなく、先例もなく、参考になる判例も無いケースなので、結婚許可を申請しに行ったらコセンツァ市がちょっと困りました(笑

結果的にコセンツァ市は、え。彼女(=私のこと)滞在許可証まだ無いの? あ、でも学生ビザがあって、半券があるね。なら滞在は合法だね。。。
学生ビザの期限内に結婚する、という条件を公示に付けても良いなら結婚の公示してもOKだよという見解になり、夫は私との結婚許可をもらえることになりました。

まぁ、妥当ですよね。
だって私、学生ビザで入国してるし半券持ってるから違法滞在者じゃないし。申請から3か月過ぎても半券所持者になっているのだって、手続き遅いイタリアのせいだし。

学生ビザの期限内に結婚するという条件。この判断ができたコセンツァ市はエライ。ちゃんと文章読めるし周辺理解で来てて偉かった。

さぁ、今度は結婚の公示をしたい(結婚式を挙げたい)市町村役場で公示の手続きです。確か、この時点で2010年2月になっていたと思います。

ボローニャ市は、我こそは公的サービス向上に余念がない市である!学校給食制度を最初に導入したのも我なり!な、まぁ各方向に自尊心溢れる市でして、確かに色々と設備は整っている地方自治体です。ヨーロッパ最古の大学もあるしね。

もう結婚許可は貰ってるから、後はボローニャ市から公示の許可と式場(市庁舎で結婚証書にサインする日時)を抑えるだけ! ボローニャは公が整ってるし楽勝!と思っていたら。
思っていたら!

ボローニャ市は、ダメって言いました!

法律・条令に記載がないケースだから、ダメって言いましたぁぁ!!

最初に対応してくれた人は「あ。。ちょっと条例にも無いケースですね。私では判断できないので責任者を呼んできます」になりました。
うん、コセンツァ市もそうだったよ。大丈夫大丈夫。

そして、でっぷりとしたいかにも部長です!な責任者(実際は局長さんでした)が登場したと思ったら「条例にも法律にも記載がないケースだからダメ。あなたたちは結婚できません。」とさらっと言いやがりまして。
さらに、
「観光ビザなら挙式OKだから、パスポートに挙式日前3か月以内にイタリア入国が確認できるスタンプあればOKにする。だからちょっとこれからイギリス行ってこい」と。

この人、可哀そうなレベルでバカなのかな?って思いましたね。本気で。

観光ビザはOKだって?? 私のステータスの事コセンツァ市はOKだよって許可証出してんのに、あんたらダメってどーいう事? 裁判しちゃうよ? ハーン?? ってなりましたよ。
私、普段は温和な人なのに。

該当法や周辺条令、ついでに似たケースの判例をプリントアウトしてこちらの正当性を訴えても「確かに彼女(=私のこと)は正しくイタリアに滞在している。ただ、あなたたちに該当するケースが法律・条令に記載がない。記載がない以上、私では責任取れませんので結婚の公示はNoです。イギリスへバカンスへ行ってきてください」
でしたからね。
コセンツァ市はビザの期間内ならOKって判断してんのに、あなたどんな権限があってコセンツァの判断を尊重しないの? ボローニャ市はバカなの? ねぇ、脳みそ筋肉なの? ってなりましたよね。(今でも思ってるけど)

この後、仕方がないので財力に物を言わせてイギリスにちょろっと行って来ました!(ここで号泣! ちなみに一番近い外国・サンマリノはスタンプ貰えないからダメだよ。)
で、イタリア入国時にパスポートにスタンプ貰いましたよ!
それを持ってまた結婚の公示をお願いに行きましたよ!
最初に担当してくれた方が、最初から我々が希望してた日時をえんぴつ書きで予約してくれていて、涙が出ましたよ! ありがとう!
でもあの局長は許さん!

2010年2月ごろにボローニャ市にNoと言われ、挙式は5月初旬に予定していたため、時間的なゆとりが無くてこの事件を裁判にしませんでした。
ただこの直後、確か2010年秋頃に同様のケースが発生し、彼らは金銭的にイギリス行っている余裕がなかったけれど時間はたっぷりあったので裁判にし、報道機関にも事情をタレコミました。グッジョブ!

男性がイタリア人、女性が南米出身者で、彼女も学生ビザで入国・半券所持の状態で結婚したかったケースだったと記憶しています。
彼らは裁判をしたので結婚できるまでに少し時間かかったけど、報道の後押しもあってあっさり勝訴→担当大臣からの公式な謝罪と、該当条例の整理が行われましたよ!
よかったね!

そんなこんなで、2月のさっむいイギリス旅行後の結婚の公示を経て、私たちは2010年5月初旬に無事に挙式いたしました。
挙式にあたって、イタリアは北が凄いぞ南はダメだぞな価値観はガラガラと崩れ去るという不思議な経験をさせていただき、まぁその後のイタリア生活がだいぶスムーズに感じるような有益な事件であった、とは申せそうです。

イタリアではそりゃもうびっくりな出来事が多々発生しますが、ココまでビックリしたのは記憶にない。
最初の最初でびっくりな国・イタリアの洗礼を浴びておいて、実は良かったのかもしれません。

ついでに、2011年になってからうちの弁護士より「今回、こんな判決が出ております。ところで、お宅に相当残念な局長している部署がありましてこんなに迷惑しました(意訳)」と内容証明的な物を各方面に送らせていただき、その次の年の人事で該当部署から外されたという報告は得ていることも申し添えます。

おそまつ。

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