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漆塗り職人、保育士をめざす その5

4月末に保育士試験の1次が終わり、自己採点では合格ラインを越えていたので2次試験まで一休み。

そして私は4月の新年度から、それまで勤務していた2〜3歳児の保育補助には入っていない。
今はホームページの運営管理や、外部発信などの取り組みに向けて職員室でパソコンのキーボードをカタカタする日々である。

友人から保育の仕事に誘われたのも、ホームページ制作が出来る事が大きな理由の一つであったのだ。

気持ちとしてはそういった業務の方が楽なのだが、子ども達と接する喜びを感じ始めたタイミングでの職員室ごもりは少し寂しさもあった。

前年度まで3歳児の保育クラスにいた子ども達は、幼稚園の年少クラスに持ち上がっている。
(幼稚園教育に加えて、保育クラスも備えている幼稚園なのだ。)

幼稚園クラスに上がって年月を重ねていくうちに、保育クラスにいた頃の先生を忘れる子も多いというので、ずっと職員室にこもっていたら早々に忘れ去られそうな気がする。

ある日、用事でとあるクラスの前を通った。
子ども達はイスを並べて先生の話を聞いていた。
偉い立場の先生がなにか話をしている。

それを口を開けてボーッとした顔で聞いていた1人の男の子に見覚えがあった。
その子が口を開けたまま顔をこちらに向けて目があった。

「あ、H君やん。」

そのクラスが保育クラスから持ち上がったばかりの年少クラスだという事に気づくと、知っている顔が次々に認識される。

みんな1ヶ月近く見ないうちに以前よりお兄さんお姉さん的な雰囲気を醸し出すようになっていたので、気づくのに少し時間がかかった。

目が合っているH君は、ぽかんと口を開けたまま、「こっち見てんの誰やろ?」といった表情を浮かべている。

「ま、週に1回しか会ってなかったから忘れるのも早くて当然か、、、」

と思ったその時、それまでボーッとしていたH君が、催眠術を解かれた人みたいにハッとした表情に変わり、弾かれるようにイスから立ち上がって

「ちばたちぇんちぇー!(しばたせんせい)」と言ってこっちに走り寄ってきた。

すると他の子もそれに気付いて、元保育クラスの何人かが、
「ちばたちぇんちぇーだ!」
と言いながら椅子から立ち上がりかけよってきた。

私はもう子ども達のかわいさと嬉しさのあまり涙が出そうだったが、明らかにクラス運営を妨害するきっかけを作ってしまったので、

「みんな久しぶりやなぁ!きちんとおイスに座って先生の話聞きや!」

と言い残して、偉い先生に見つからないうちに小走りで逃げてきたが、その口元はゆるゆるに緩んでいた。

そんなわけで、新年度からは週2回の勤務に増えた。
家でダラける時間は減っていないのでモノづくりの時間確保が難しいが、楽しく嬉しい日々を過ごしております。


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