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80歳夫婦イタリア絵画旅行記 (13)


【イタリア・あの愛しい人達に】
カスティリオーネ・オローナ

(4)マソリーノのフレスコ画技法とアセッコ

[作品制作などで忙殺されてちょっと間が開きましたが、やっとイタリア旅行記に戻って来ました!]

 さて、このカスティリオーネ・オローナのマソリーノの魅力とは?  (11) に照会したマソリーノの初期の「聖母子」 (ドイツ・ブレーメン美術館蔵)と同質の彼本来の持つ優しさや艶やかさや穏やかな暖かさであり、また個々の人物もたいへん印象的で魅力があり、それらによって静かに語られるいずれの名場面も親しみ易く心地良く見ることが出来ます。そしてまた、仰々しくなく雑多でない衣装の平面的表現に私は大きな魅力を感じます。ただ、以外なことに、ここに見られる衣装の平面的表現は、良く見ると偶然の産物かなとも思われます。(*専門の研究者に正してみないと分かりませんが…。)
 この平面化に至った各所の様子には、描き手として大変興味深いものがあります。絵画的にはマチェールとか絵肌とか言い表しますが、ここにおいては、これらがフレスコ画技法に対して非合理な処理がなされた故に、思わぬ結果が生まれたのではないでしょうか。  

 「フレスコ画」の技法は、下地の上に漆喰を塗り、半乾きの濡れている間に水で溶いた顔料で描いて行くもので、接着剤は必要とせず、石灰の化学反応の結晶によって顔料が閉じ込められ堅牢な描かれた壁となる技法で、その強度は数千年保つ技法と言われています。
 が、壁自体は湿気には弱いため、水分を含んで壁自体が変形したり壊れて、壁画を失って行くこともあるようです。
 一方、中世中頃から取り入れられた「アセッコ」と言う技法では、フレスコ画技法で描いたものが一旦乾いた後に、その上に顔料で描き足す手法で、いろいろな利点もあるようですが、大変な欠点のある結果を招いているように思われます。         
 マソリーノのこの洗礼堂の絵の場合、このアセッコの技法が使われているのか? それがこの剥落の要因かと思われますが…。描かれた当時は今に見るものとは少し違って、年月の経過や様々な要因による劣化、即ち随所に生じた”剥落”が明確に見られます。単に"剥落”と言ってしまうと壁自体が剥がれたように思われがちですが、この洗礼堂のマソリーノの場合は壁自体はむしろ無事なことも多く、主として、アセッコによって描かれたものが剥落劣化してしまった所が沢山目に付きます。そしてその結果、図らずも魅力的な平面化したマチェールとして残って行ったと考えています。

説教するヨハネ (洗礼堂)

《透明人間現る!》 上の図では、前列中央の人物の身体部分が完全に消えています。顔と片方の足だけが残っていて、身体部は消えてしまっています。フレスコ技法で先立って描かれた岩山がむしろキレイに見てとれ、後描きの身体部分は剥落して思いがけない透明人間状態です。

投獄されたヨハネ(洗礼堂)

《脱獄可能な牢》 上の図の牢獄の絵では、手法としては投獄されたヨハネ像を描いた後に、牢の鉄格子を描き足したようで、その格子はなんとか部分的に残っている状態で、脱獄可能な様子です。
 鉄格子を同時に描くとなるとヨハネ像の描写が大変難しいことになるため、アセッコによる後描きの手法が取られたのかと…。
 日本画では、本来なら縁蓋(または面蓋とも言います)で必要な形をマスキングする手法をとることも出来るかと。現在はいろいろ簡便なマスキング材料や技法があり、意外と容易そうに思えますが。


*拙い文をお読み頂きありがとうございます。

 ひとつひとつの絵画や時々に感じたことを取り上げて書くことで、今更ながら、改めてそれぞれを再発見したり、深く再認識したりの機会となっています。私勝手な私感ですが、よろしかったらまたお読み下さい。






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