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世界でいちばん素敵な色は?

車を運転する際、最も効果的な安全装置は、ミラーに映るパトカーである

イギリスにはこんなジョークがあるそうです。

確かに、ごく普通に走っていても、あのツートンカラーになぜあれほどどきりとするのか、不思議に思えるくらいです。



それだけでなく、つい先日は、坂道を下った先に一台のパトカーが、車道の半分を塞ぐ形で停まっていました。
かたわらに立つ警察官の指示で停車すると、検問を行っている旨を告げられます。

「この機械に息を吹きかけてください」

というアルコールチェックのあとは、お決まりの

「免許証を拝見」

で、私が差し出した免許証を目にした途端、警察官の眉が上がりました。


けれどそれは、まさか私が指名手配中の容疑者だから、などではなく、別の理由によるものです。

「ピンクですね。初めて見ました」
「そうなんですか。珍しい方ですか?この色って」
「ほとんどの方が青ですからね」

私たちが話しているのは、免許証の写真についてです。
私のそれは、背景が青ではなく薄ピンク色であり、周囲に他の車の影もないためか、警察官はじっと私の免許証に見入っています。


「これ、高かったですか?」
「いえ、普通のボックスで撮ったし、確か1000円くらいだったような」
「へえ、スタジオとかじゃないんですね。このあたりの人は、たぶん撮らないだろうけど。500円の激安ボックスがあって、みんなそこへ行くんですよ」
「ああ、その値段ならわかります」

窓越しに話しているうち他の車が近づいて来、私たちは挨拶を交わして、それ以上の話は打ち切りになりました。


それにしてもつくづく意外だったのが、写真の色についてです。

いま現在、免許証の写真の背景色に規定はほとんどありません。特にピンクなど、柔らかく見えて人気色かと思っていたのですが、皆そこまで色へのこだわりはないようです。
何せ、現職の警察官が、珍しいと驚くくらいですから。



私が最近もっとも驚いた色の話は、“アフリカの人は何色を涼しく感じるか”というものです。

人間の色彩感覚は生まれ育ちや風土で異なるとはいえ、大枠はそれほど変わらないはず。
暖色や寒色という言葉もあるし、誰でも赤系の色を暖かく、青系を冷たく感じるに違いない。
きっとアフリカの人だって、夏は青色が涼しげで良いと答えるだろう。

そう思い込んでいたのは見当違いで、実際は「赤は冷たく、青は暖かい」と答えるアフリカ人が多いそうです。


その理由は、現地の自然環境が大きく関わっています。

アフリカで青といえば、連想されるのはよく晴れた青空であり、同時に、強い陽射しと灼けるような暑さのイメージです。

ところが日影に入ると、湿気がないので冷んやり涼しく、足元に目を落とせば地面は赤土でしっとりと暗い。

そのため、アフリカにいると青よりも赤の方が、涼しさ、冷たさを連想させやすいといいます。


これは私にとっては驚嘆の事実でしたが、よくよく思い起こしてみると、アフリカの街やマーケットの写真などでも、赤い服の人たちが目立っていた気がします。
反対に、青っぽい民族衣装を身につけた人の姿は、ほぼ記憶にないような。

アフリカはともかく多様なため、大陸すべてをカバーする価値観だとは言い切れないにしても、本当に、世界は広い、の一語に尽きます。



他に色で印象深い話といえば、デザイナーのガブリエル・シャネルの名が思い浮かびます。

ファッションの枠を超え、革命的なスタイルで世界に衝撃を与えた彼女は、白と黒をことさら愛し、それ以外の色は不要とすら言い切りました。

黒には全てがある。白もしかり。その美しさは絶対で、完璧なハーモニーを奏でている。白か黒のドレスを着た女の前で、他の色のドレスの女は霞んで消えてしまうだろう

けれども、その基準を大幅に和らげ、シャネルは後にこうも語りました。

世界最高の色とは、あなたを最も引き立たせてくれる色だ


私はどちらかといえば、後年のシャネルの考えに賛成です。

人それぞれに似合う色があり、それぞれに好みがあります。
それは季節や気分で変わりもし、私たちは色のもたらす愉しさ、美しさを存分に享受しながら生きるのが最良だと感じます。


ピンク色の背景や、夏の赤色を取り入れ難く感じても、また違った局面で、何かわくわくするような色の使い方が見つかるかもしれません。

たとえば、私は最近、孔雀の羽根のような鮮やかなピーコックグリーンのチェコビーズを使い、ネックレスを作りました。

夏は幸いにも無節操な色づかいが大目に見られ、魅力的に映るシーズンです。
まずは小さなワンポイントから、色の冒険に乗り出してみるのはいかがですか?



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