私がインストラクターに向かない理由
自分でも忘れがちなのですが、そういえば私はヨガの先生でもあるのだった、ということに時々思い至ります。
専門の学校で学んで国際資格も持っていますし、レッスンを担当した経験ももちろんあります。
けれどここしばらくは決まったクラスも持たないために、自分でも記憶が遠くなるのは当然かもしれません。
それでも時々であれ思い出すのは、ヨガのインストラクターだから、という前提で誰かから話を振られることがあるからです。
「ヨガマットを買いたいんだけど、種類が多すぎて迷ってて」
「教室を選ぶならホットと常温、どっちがいい?」
「ヨギー二って、何?」
たとえばこんな質問で、私なりに答えるならば上から順に
「予算が許すなら"マンドゥカ"がおすすめ。使いやすいし劣化しないから」
「とにかく汗をかきたいならホットだけど、基本的には常温で呼吸やアライメントを学ぶのがいいと思う」
「ヨガを実践する女性のことだよ。男性ならヨギー」
その他の機会で、そういえば私はヨガの…となったのは、先週末に本棚のノートをめくった時です。
そこには『身体に痛みが出た場合』というフローチャートが記されており、書いた時の私は相当に暇だったに違いなく、内容がとにかく細かいのです。
まず最初の分岐点《今すぐ医療的措置が必要?》のイエスなら【病院】、ノーなら《内観》から始まり、痛みの種類と強さを見極め、《静的》と《動的》措置に進みます。
《静的》だけでもかなりの分類があり、例えば【休養】【温熱】【リンパマッサージ】【プラーナヤーマ】【カラー】【オイル】【リストラティブ】【クレイ】【アロマ】【アーユルヴェーダ】など。
あまり一般的ではないものについて説明すると、プラーナヤーマは呼吸法、カラーは色彩療法、オイルは抗炎症作用のあるオイルを用いた療法、リストラティブは休養を目的としたヨガ、クレイはフランスの医療現場でも使われるモンモリロナイトなどのクレイパウダーによる療法、アーユルヴェーダはインド医学。
身体を休め、動かずに出来る手当てが主です。
一方《動的》の方はというと【ピラティス】【ストレッチ】【野口整体】【ロルフィング】【古武術】【三軸修正法】【ヒモトレ】【骨ストレッチ】など。
こちらも説明すると、ロルフィングは身体の使い方を再教育するボディーワーク、古武術はその理論を応用した体術、三軸修正法は池上六朗博士によるバランス修正法、ヒモトレは小関勲さん、骨ストレッチは松村卓さん提唱の身体調整法。
《内観》を続けながらどの選択が最適かを探り、そこから必要な方法を組み合わせられるよう作られたチャートですが、一覧を見ていて感心したのは、この人は何としてでも自力で解決するんだという意欲にあふれているな、というところです。
緊急度が高い場合の選択肢【病院】を除き、その他は人の手を借りることなく、ありとあらゆる手立てでもって自己治癒プロセスを稼働させよう、という意気込みがうかがえます。
その半分ほどはヨガを学ぶ過程で知り得た知識や療法のため、ああ、そういえば私はヨガの…となったのですが、考えてみればもう半分はヨガとは全く関わりがありません。
そしてその事実は、私がどこかのヨガスタジオに所属できない理由と結びついていることにも気づきます。
インストラクターとしてヨガのレッスンを行う際、そこには参加者やクラスのレベルに応じた、決まったカリキュラムが存在します。
大抵はスタジオによってその方針が決定され、それこそ全てがマニュアル化されて指導の言葉も一言一句決まっている、という場合から、インストラクターがかなりの部分を自己裁量で行える、という場合まで様々です。
それでも"純粋にヨガだけを教える"のは大前提で、問題なのは、私がどうしてもそこから逸脱してしまうことです。
たとえば、"舞踊王のポーズ"がうまくできない人がいれば、これはバレエの"アラベスク"のポーズを練習してもらったら応用できそう、とか
"山のポーズ"はフラメンコの"サパテアード"特に"ゴルペ(足全体で床を打つ)"を試してみれば、腰を境に分離する上下感覚がすんなり掴めるはず、立ち方は古武術かロルフィングの"薄紙感覚"で伝えたい、などと思いつき、それを取り入れたくなるのです。
それが"純粋なヨガ"とはかけ離れていることは百も承知で、実際にそんな指導をすれば受講者さんが戸惑ったり、外からお叱りの声が飛んでくるのは目に見えています。
また、どれほど良い方法論があるにせよ、ヨガの世界の範囲内でまかなえないのは、私の力不足かもしれません。
だから自分がどこかのスタジオに所属に出来ると考えたこともありませんし、ある程度そういった前提を理解している人でないと、レッスンを受けてもらうこともはばかられます。
それでも、自由でとにかく楽しかった、初めて自分のアーサナに満足がいった、などと喜ばしい声を聞かせてくれる方たちとのレッスンは、至福の時間そのものなのですが。
とはいえ、いくらヨガの伝統的な部分には深い敬意を払っています、基本は押さえ、安全性への心配りもしています、と言ったところで、こんな変わり者に需要などないだろう、と考えていたところ、最近になって医師の友人から
「同期の漢方医が自分の講座でヨガのレッスンをしてくれる人を探している。漢方とヨガで何かできないだろうか」
という話を持ちかけられました。
中医学とヨガの組み合わせとなると、少し頭を巡らせただけで色んな可能性が思い浮かびます。
経絡とチャクラを対応させ、その部位を活性化するアーサナをとるとか、季節の養生に役立つ話の後で、アーユルヴェーダも用い、不足しがちなドーシャを補うシークエンスを実践するとか。
考えただけで楽しそうで、実現すればますます私のヨガは収拾のつかないことになりそうです。
しまいには、生きること全てがヨガにつながっていくかも、などとヨギー二的な願望も抱きつつ、賑やかな迷走はまだまだ続きます。
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