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アホしかいないゾンビ・パンデミック(レビュー:『YAMMY/ヤミー』)

オススメ度:★★★★★

ようこそ…東欧一の形成外科病院へ 恋人アリソンのために東ヨーロッパへ車を走らせるミカエル。彼女には、子どもの頃から大きすぎる胸へのコンプレックスがあり、今回は“乳房縮小手術”を受けるために、彼女の母親も同行して東洋で評判の高い美容整形病院へ向かっていた。豊胸手術を希望する女性はもちろんナニを増大させる男性など、人里離れたクリニックにお忍びでやってくる人で溢れかえっていた。「Bカップにしてもいいよね?」と告げる彼女に「キミが何カップだろうと構わない」と想いを伝えるマイケル。彼は手術後に彼女へプロポーズする予定だった。いよいよ手術開始。しかし、この病院で若返り治療の実験に失敗してゾンビになった女性が拘束具を外して大暴れ。次々と噛まれ、患者もスタッフにもパンデミック!! 逃走中に離れ離れになったミカエルとアリソンは果たしてこの地獄を生き抜くことができるのか!?

 最近、ホラー映画を履修し始めた友人がこう言っていた。

「登場人物が最適手を打たないのがイライラする」

 確かにそうかもしれない。最近の私はホラー映画の見過ぎでそのへんが麻痺しているが、他のジャンル、例えばアクションなどではそれは普通に感じはする。

 ホラーということで自分の中でのハードルが下がっているのか(Z級サメ映画などは最適手とかそういう次元の話ではない)、それとも昨今のホラーは意外とそのへんに配慮していて、みんな真面目に最適手を打っているから気にならないのだろうか(『残穢』とか『貞子vs伽椰子』とか『来る』とかみんな最適手打ててると思う)。

 ところで、この問題に関しては特殊な解法が存在している。「全員の頭の悪さを限界突破させる」という手法だ。生死の懸った重要な状況において登場人物が愚かな振る舞いをすることに対する嫌悪感は、おそらくはご都合主義的な展開への嫌悪だ。だが、最初から最後まで全員が徹頭徹尾頭が悪ければ、それはそれで作品としての一貫性が保たれるのでOKなのである

 そこで今回ご紹介するのは、アホしかいないゾンビ・パンデミック映画『YAMMY』だ。YAMMYは日本語では「おいちー!」くらいの意味だが、最後まで見終わってもタイトルの意味はよく分からない。

 さて、今作の主人公であるミカエルだが、ヘモフォビア(血液恐怖症)である。「おま……それでゾンビ映画で生き残れると思ってんのか?」と言いたくなるような強烈なデバフ持ちだ。ゾンビ映画なんてどれだけ血を噴き出させるかを競い合ってるようなジャンルであり、そして、本作は『死霊のはらわた』路線の演出である。つまり、大量の血液が登場人物の顔面を中心として全身にブッかかるアレだ。とうていヘモフォビアが生き残れるような環境ではない

 しかし、問題はヘモフォビアだけではない。そういうレベルではなく本作の主人公はすごい。ミカエルは一応、アリソンを守るナイトのポジションではある。ゾンビとの初遭遇時、彼はアリソンを庇い必死にゾンビと戦う。武器を持ち、慣れない手つきでゾンビを殴打するがどんどん追い詰められる。いよいよヤバくなり、彼が武器を振り上げた時、頭上の照明器具へと当たった。私は思った。

「なるほど、照明器具が落下し、それが運良くゾンビに当たって撃退に成功するんだな!」

 違った。落下した照明器具はミカエルの後頭部に直撃し、大量出血。その上、感電してブッ倒れ、アリソンは一人で逃げていった……。


 主人公補正とかねえんだな、これ。


 マジで死んだと思っていたミカエルだが、実は生きており、後半でヒロインの一行と合流する。だが、その後も何ら良いところはない。

 開かない扉に遭遇した一行。どれだけ押しても開かない! ミカエルは機転を利かせて、その場にあった薬品を組み合わせて即席の時限爆弾をこしらえる。これで扉を破壊しようとしたが、扉は引き戸だったので引いたら開いた。

 無駄に作った爆弾を持て余すミカエル。爆弾を作る際に巻き付けていたダクトテープが自分の手に引っかかる。必死になって取ろうとしているうちにゾンビに襲われて死にかける。

 さらにその後、特に何もない通路を歩いている主人公。パイプに頭をぶつけて悶絶する。そこをゾンビに噛まれて感染してしまう。


 もはや主人公補正とかいう次元の話ではない。モブですらそんな不毛な感染はしない。



 ヘモフォビアという「いや、それは死ぬだろう」という特性と共にゾンビパンデミックに投げ込まれた主人公だが、やっぱり当然死ぬのである。まあ、彼はヘモフォビアでなくても死んだと思うが……。逆にどうやったら生き残れたのか、全く想像がつかないくらいだ。神からチート能力を2つや3つ与えられたくらいでは余裕で死にそうである。

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