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ゴミスキルを活用して頑張る悪魔(レビュー:『ダーク・アンド・ウィケッド』)

オススメ度:★★☆☆☆

> 両親から離れてそれぞれ暮らすルイーズとマイケルの姉弟は、父の病状が悪化したとの報せを聞き、久方ぶりに生家であるテキサスの人里離れた農場を訪れる。父はそこで母に見守られ、ひっそりと最期を迎えようとしていた。ところが母は「来るなと言ったのに-」と彼らを突き放す。やがて彼らは両親の様子がおかしいことに気づく。そしてその夜、母が首を吊って亡くなった。それは彼らを待ち受ける恐怖の幕開けにすぎなかった。

 現代は『THE DARK AND THE WICKED』。wickedはウィキッドと書くことが多いので、邦題のパッと見では意味が取れない人も多いのではないか。そもそもwicked自体、それほど知られた単語でもない。「ダークで邪悪」くらいのニュアンスだろうか。こういう時こそ、いつものあの変な邦訳センスを打ち出して、もう少しキャッチーな放題にすればいいのに……と思うのだが。

 本作はよく言えば上級者向けのホラー作品である。

 冒頭から序盤にかけて、起こっていることはほとんどあらすじの通りだ。あらすじにない描写としては、料理中の母が包丁で自分の指を切り落とすところだろうか。ホラー映画における包丁シーンは、それだけでゾワゾワとする恐怖心を惹起するが、実際に指を切り落とす描写があったのは私の記憶する限りでは『カラー・アウト・オブ・スペース』くらいだ(他にもあるとは思うが、思わせぶりなだけで意外とそうならないことの方が多い印象だ)。

 しかし、本作はちゃんと(?)指を切り落とすし、しかも細切れにもする。

 序盤部分はこのシーンを除いて、ほとんど全くホラーらしい描写がなく、ずっと「何が起こっているのか分からない」「何の映画なのか分からない」時間が続く。この指切断シーンがようやく出てくるのが16分過ぎのことであり、そこから先も「何の映画なのか」分からない時間がしばらく続く。

 本作の問題点(と言ってしまおう)は、この「フックのなさ」に尽きる。「ガイドがない」と言い換えても良いのだが、「どこで怖がるべき映画なのか」「何を見せる映画なのか」がかなり長い間、示されない。そのため視聴者側はどういう気持ちで見ればいいのか心を決めかねるまま、かなり長い時間、画面上で起こる事象のみを追い続け、それに対してどういう感想を抱けば良いのかも分からずに迷い続ける。

 例えば『呪怨』であれば、「家に入った人たちが呪われる」というフックがあるので、それがガイドとしても機能し、「家に入った人たちがどんな怖い目に遭うのか」に注目して見ていれば良い。『リング』であれば、「呪いのビデオを見たら死ぬ」ので、それにどう対処するか、というラインが明確である。

 本作にはそういった分かりやすいガイドがない。「誰もいないのに鳴子が鳴る」「親父の幻覚を見る」などのひたすら地味な怪奇現象が続く。

 そういう意味で、本作は見るのにエネルギーのいる作品であることは間違いない。「だるい」「飽きる」作品でもある。ただ、私も一介のクリエイターとして、「分かりやすく路線を提示する」作り方ばかりでなく、曖昧模糊とした現象の連続の中に浮かび上がる恐怖……のような作り方を志向する作り手側の気持ちが分からないわけではない。

 なので、「フックがない」点をもって一概に否定したくないのだが、しかし、総合的に見て、本作が成功しているかは怪しい

 作中で明確にされない部分が多いので、私の解釈で補って概略を説明するが、まず本作の怪奇現象は悪魔的な存在により引き起こされたものである。ポイントになるのはおそらく「自殺」だ。カトリックにおいて自殺はタブー視されており、そのタブーである自殺を人々に引き起こすことが悪魔の目的と思われる。(近所のおじさん(?)が自殺した娘の幻影を見て自殺したり、過去に娘が自殺した神父の幻影を見せるなど、物語には「自殺」が常につきまとっている)

 そのために、悪魔は非常に迂遠で些細な怪奇現象を通じて、頑張って一家やその親近者を自殺に追い込もうとする。あらすじにある母の自殺は、母が(数々のいやがらせ怪奇現象により)既にSAN値を削られており、あと一歩で自殺に追い込めるぞ!というところで発生した帰結なのだろう。そこから、息子と娘(本作の視点人物たちだ)をも自殺に追い込もうとするところが本作で描かれるメインの描写内容である。

 だから、本作にはフックがなく地味な怪奇現象ばかりが連発するのだが、作中の情報をつなぎ合わせることで、

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