アマビエと津波を結びつける人々
先日のことだ。強くなり始めた朝日で早起きしてしまった筆者は、何気なくTwitterを開いた。眠い目を擦りながらTLを眺めた筆者の目に飛び込んできたのは、「アマビエが津波を呼ぶという話が出回っている」という情報だった。アマビエといえば新型コロナ禍で人気になった疫病封じの妖怪(厳密には疫病予言と絵の配布を告げただけで、封じるとまでは言っていないがここでは置いておく)であり、津波を呼ぶというのは初耳である。気になった筆者は一体誰が言い出したのか調べてみることにした。
2020年5月のwithnews記事:「津波を呼ぶ」とは言っていない
アマビエと津波について調べていてまず出てきたのが、2020年5月にwithnewsで配信されていたこの記事である。
この記事ではアマビエの他にも存在する「災難を予言する妖怪」が紹介されると共に、元々アマビエが「疫病が収まる」とまでは言っていないことを指摘し、「この『物言う魚』は、疫病の原因だったかもしれないのだ。」と締めている。
このwithnewsの記事ではアマビエこそが疫病の原因だったかもしれない、とは書かれているものの、「津波を呼ぶ」とは書かれていない。
「アマビエが津波を呼ぶ」という言説の裏には、より直接的にアマビエと津波を結び付けたサイキックヒーラーの姿があった。
2020年4月にサイキックヒーラーが結び付けた「アマビエと津波」
アマビエが津波を呼ぶという説でより多く引用されているのは下記のブログ記事群である。
この記事群の中で「アマビエは津波を呼ぶ」とされている理屈は下記のようなものである。
アマビエは髪の長い人魚である。
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ハヤアキツヒメという海辺の女神がおり、この髪も長髪で描かれ、疫病を黄泉の国へ送る。
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髪が長く、疫病を祓うという性質から、アマビエはすなわちハヤアキツヒメである。
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ハヤアキツヒメには地震や津波を呼ぶ性質があり、また公開初日に地震が発生したポニョ、公開年にカリフォルニア大震災(注:ロマ・プリータ地震か)が発生したリトルマーメイドのように、人魚が流行ることと地震には関係がある。
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従って、人々が人魚かつハヤアキツヒメであるアマビエを流行させることは津波と地震を引き寄せる行為である。
見ての通り、端々に飛躍が見られる説明である。要は人々の意識が災害を引き寄せると言っており、スピリチュアルな引き寄せ理論を神道や妖怪に結び付けている。
さらに、主張の柱となっている「ハヤアキツヒメは災害を呼ぶ」という性質も、この女神について説明されている「大祓詞」には見られない。ここに書かれているのは「罪を付けた祓えの品を飲み込んでしまう」ことだけで、外見すら定かではない。
なぜ、ハヤアキツヒメが災害と結び付けられてしまったのか。その答えもまた同じブログの記事にあった。下記がその記事である。
スピリチュアルブログを読み慣れていない人には読み辛い文章が続くので要約すると、一言で言えばこういうことだ。
「見えちゃったからそう思える」
本当にこれだけである。この記事の中で言われているのは、東日本大震災の前に行っていたスピリチュアルセッションで人魚のビジョンが現れ、クライアントの話を聞く中でハヤアキツヒメに辿り着いたということなのである。
つまり、神道の神を持ち出しているから何となく古事記や日本書紀に書かれていそうに思えてしまうが全くそんなことはない。サイキックヒーラーが、セッションで「見えてしまった」ものに神道や地震を結びつけているだけである。スピリチュアルとはそういうものであり、それで全く問題はないのだ。その一方で、あたかも神道で言われているかのように主張してしまう行為が神道関係者から反発を招くのもまた当然だろう。
このように2020年には存在していた「アマビエが津波を呼ぶ」説だが、5月17日に、とあるアカウントが行なったツイートが一部で話題になったようだ(該当アカウントは現在鍵アカウントになっている)。
噂や陰謀論で人を集めるビジネス
さて、上記のAmeba記事群には共通した特徴がある。
記事を読んでいくと、有料メルマガに誘導されるのだ。
このブログ主はスピリチュアル界でそれなりに名が通っているようで、そのウェブサイトを見るとサイキックリーディングに前世セラピー、エネルギー断捨離にダウジング講座、パワーストーン販売からオンラインサロン運営と、手広くビジネスを展開している。
また昨今のスピリチュアルでよく見られる現象(コンスピリチュアリティ=スピリチュアルと陰謀論との合体)だが、この人物は陰謀論についての記事も執筆していた。
そしてこの記事もまた、有料メルマガや超能力セッションへの導線となっている。
ここから分かるのは、結局のところはこうした行為がビジネスの一環ということだ。世の中には、それらしい噂や陰謀論を生成して流す→それを流行させることによって人を集める→オンラインサロンや超能力セッションでマネタイズするというビジネスで生計を立てている人々もいるのである。フィクションとしてではなく、「現実に起こりうること」として流布させるのが非常に危うい。
怪しい噂を流す相手もプロ。こちらも彼ら/彼女らが何をやっているのか今後も追求していきたい所存である。
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