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2024年の正月三が日に飛び交った陰謀論・怪情報たち

2024年の正月三が日は、1月1日の能登半島地震に始まり、2日のJAL516便炎上事故、3日の小倉北区飲食店街の大規模火災と様々な事件が発生したことから、同時に陰謀論や怪情報も出回った。今年最初の記事として、これらを振り返っておきたい。

本題に入る前に、能登半島地震被災地への支援方法にかんする情報をリンクしておく。

人工地震・DEW陰謀論など

波形に違和感がある、人工地震なのではないか

1月1日に起きた能登半島地震では、その直後から人工地震説が発生していた。地震直後に典型的に見られる陰謀論であり、その多くは過去に見られた主張の流用である。

例えば上記のように、波形の違和感を指摘するものは以前から見られる典型的なもので、下記ページで解説されている通り、時間軸を細工してそれらしく見せているに過ぎない。

また、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削ポイントを持ち出す(ここで爆弾を仕掛けたと言いたいのである)のも東日本大震災の時と変わらない。

このような人工地震説では、わざわざ気象庁に電話した旨投稿しているアカウントも存在した。本当なら傍迷惑な話である。

「石川県の変電所で3回爆発音」のニュースが削除されていた、怪しいのではないか

こちらは今回の地震に特有のケースで、12月31日に配信されていた「石川県能登町の変電所で3回爆発音が起き、停電が発生したというニュースが削除されている、人工地震なのではないか」という陰謀論である。

この情報は完全に嘘でもなく、実際にニュースは配信され、後に削除されていた。その後の取材で、記事削除の原因は「停電は発生したものの、原因が倒木であり変電所のトラブルではなかった」という回答が得られている。人工地震云々ではなく、こちらの理由のほうが妥当と考えられる(人工地震を起こせるほどの強大な勢力が存在し、日夜隠蔽に励んでいるのだとすれば、何故わざわざそれを台無しにしてしまいそうなニュースを配信してしまうのだろうか)。

この陰謀論で言及されているのは宇出津変電所だが、ここで人工地震を起こせるほどの強大なエネルギーを扱えるのだろうか。勿論このような指摘を行ったところで、「真実が隠蔽されている」「未知の超兵器が存在するので大丈夫(大丈夫ではない)」などという無敵論法で返されるのが日常風景である。

独自の計算を行うと獣の数字が表れるため人工地震である

この手の計算を行うものもまた事件や災害の都度発生する典型パターンである。好んで使われる数字としては「369」「666」「17(アルファベットの17番目がQのため)」「18」などがある。

地震後の火災はレーザー兵器(指向性エネルギー兵器)によるものである

昨今の陰謀論者は単なる放火説では満足しない。火災が発生した際には「何者かが指向性エネルギー兵器(DEW)で攻撃したことによるもの」という説が出回る。直近で有名な例はマウイ島火災時の陰謀論で、今回のそれもマウイ島の火災が強く意識されている。「青色が残る」と指摘する点も同じだが、画像を見れば分かる通り、青色以外の家屋も残っているので全く意味のない説明である。

レーザー攻撃陰謀論はマウイ島の火災以前から存在しており、陰謀論研究者のマイク・ロスチャイルド氏は「ユダヤのスペースレーザー」というタイトルの陰謀論研究書を発行している(筆者も日本に関する部分で少しお手伝いしている)。

また、輪島市の火災範囲が直線状になっていることからレーザー兵器での攻撃を疑う投稿もあるが、道路に沿っていることを考えれば不自然ではない(むしろ、どのような形状であれば満足するのだろうか)。

震災と津波はノストラダムスによって予言されていた

令和になってノストラダムスか、と思う人が多いだろうが、何とこの説はYahoo!ニュースで堂々と配信されていた。執筆者は飯塚真紀子氏である。海外ニュースを翻訳したものとはいえ、震災直後にこのような記事を配信したことからオカルト界からも「馬鹿な記事を配信するな」と批判の声が上がっていた。ムーやTOCANAといった大手オカルトメディアでもこんな酷い記事は配信されておらず、これではYahoo!ニュースはオカルトの扱いが全く分かっていない、ムー・TOCANA・東スポに劣るメディア(注:念のため記載するが筆者はこれらのメディアをリスペクトしている)と言われても文句は言えないだろう。この記事は批判が多かったためか既に削除されている。しれっと消すなと言いたい。

地震後の不安を煽る陰謀論・怪情報

支援物資に有毒物質が混ぜられているのではないか

これも災害のたびに発生する陰謀論である。今回は「避難所で感染症が拡大している」というニュースに言及して「水に何か混ぜられているのではないか」と疑う説が飛び交った。

また、同種の説としては、「山崎製パンが、人口削減のために添加物入りのパンを被災地に運んでいる」という説も飛び出していたが、人口を削減したいのならそもそも何も送らないのではないだろうか。

外国人窃盗団が能登半島に集結している

これも災害直後にはよく発生するものである。

今回は復旧作業のために訪れていた車が「県外ナンバーの不審なハイエース」として拡散されていた例があり、一歩間違えば暴行沙汰になっていた可能性がある。災害直後の情報拡散にはくれぐれも慎重になってもらいたい。

能登半島は龍の頭であり、次はその尾である伊豆が動き出す

陰謀論界にはスピリチュアルを信奉している人も多いため、このようなスピリチュアル寄りの説も拡散する。それにしてもフォッサマグナくらいは知っておいてもらいたいものである。

JAL516便炎上事故陰謀論

JAL516便炎上のライブ中継ページが「1月4日」表示になっている、元々は4日に予定されていたのではないか

これは偽画像ではなく、検索すると確かに1月4日と表示されてしまっている記事が存在したため拡散した陰謀論である。TBS NEWS DIGのページがそれだが、恐らくは単なる入力ミスではないだろうか。この説も人工地震と同じく、「そんな万能組織が、何故こんな基礎的なミスをしてしまうのか」疑問である。

JAL516便に衝突したのは海保機ではなく、デルタ航空の機体なのではないか

航空機の位置を追跡するアプリのflightradar24に、該当のものと思われる海保機が表示されていなかったために言われている誤情報で、この説では「アプリに表示されるDAL276が衝突した」とされる。

陰謀論界では万能のように扱われているFlightradar24だが、これは国際機関が運営しているアプリではなく、ボランティアのネットワークで維持されているサービスである。さらに、所有者や航空会社からの依頼で表示がブロックされている機体も存在し、全ての位置情報が表示されているわけではない。

今回の事故についてはflightradar24が記事を発表しており、そこでは「JA722A(海保機)の場合、地上の航空機の位置を計算するのに十分な数の信号を、Flightradar24受信機が受信していなかった。」と説明されている。

また、海保機とDAL276便では誘導路が異なっており、衝突したとは考えられない。

3つの出来事を結び付ける陰謀論・怪情報

北九州市の火災が他の2つの後に起こったため、単体というよりは3つを結び付ける陰謀論・怪情報が多く見られた。

加賀市も北九州市もスマートシティの候補地であり、何者かによって仕組まれているのではないか

北九州市がスマートシティだったことから発生した、スマートシティ陰謀論とでも言うべき陰謀論である。その理由としては、「破壊した土地を強奪するため」とされることが多いが、「これから利用する土地を奪うため、指向性エネルギー兵器で攻撃する」とは、いくら何でもワイルドすぎではないだろうか。

都市計画に関する陰謀論としては、海外では15分都市陰謀論が大流行していることが知られるが、日本では目立った取り組みが行われているわけではないのであまり流行ってはいなかった。スマートシティ陰謀論は、日本版の都市計画陰謀論としてこれから流行していく可能性がある。

能登、羽田、北九州を結ぶと「三角形のようなもの」ができる。4日は大阪で何か起きるのではないか

こちらはTiktokで観測されたもので、そもそも3点を繋げば三角形になるのは当然な上に、「のようなもの」という形で無理やり大阪を入れ込んでいたため失笑を買った。さらにはこの情報を発信していたアカウントが「2067年の男」という、未来人を思わせるものだったため「未来人ならそんなことをしなくても知っているはずではないか」という当然の指摘も行われていた。

このように、事件の場所を使って図形を作る説は他でも見られる典型パターンである。例えば安倍晋三銃撃事件の際も、「周囲の神社を繋ぐと五芒星ができる」という怪情報が流れていた。

失笑を買ったことにショックを受けたのか、この説を発信していたアカウントは現在非公開設定になっている。

3つの事件で「16」という数字が共通しており、何者かが仕組んでいる証拠である

これは主に都市伝説系Youtuberが発信している説であり、この手の数字遊びコンテンツは再生回数が伸びる(しかもいくらでもこじつけられるので作りやすい)ためか、事件・災害後によく出てくる。外部からすれば正直「だからどうした」以上の感想がないのだが、コメント欄を見ると本気で信じているように見えたり、不謹慎にも盛り上がっている人が見えて心配になる。

総評

一通り目に付いた陰謀論・怪情報を挙げてきた。陰謀論に馴染みのない人からすると突拍子のない説ばかりに見えるかもしれないが、普段から見ている側からすればほとんどの話に既視感があり、事前に予想できるレベルである。これは、陰謀論を発信している人達の脳内に共通の物語フレームがあり、それをニュースに応じて組み合わせているためだと考えられる。今年はこのフレームについて考えていきたい。

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1月21日(日)昼:黒猫ドラネコさんとトークライブを開催します

1/21昼、横浜ネイキッドロフトにて2023年の陰謀論やスピリチュアルを振り返り、2024年を展望するトークライブを黒猫ドラネコさんとやります。配信もあります。

取材協力・1巻表紙原案協力を行った『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』第一巻が発売されています

『チ。』『ひゃくえむ。』の魚豊氏が描く、「恋と陰謀論」をテーマにしたマンガ『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』の第一巻が発売されています。この作品では取材協力と第一巻の表紙原案協力を行いました。私としては主人公の渡辺君を応援する気持ちで読んでいます。




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