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はじめてのラストフライト

飛行機を職場としているCAなら、誰でもいつかその日を迎える最後の乗務、ラストフライト。

私には、思えばラストフライトが2度ありました。

20年2カ月のCA生活最後の締めくくり、航空会社退職時のラストフライト。
そしてもうひとつ・・・
2年間の留学休職が決まり、留学先のイタリアへ発つ前のラストフライト。

8月になるといつも思い出してしまう、単身イタリアへ発つことになったあの夏。
とくに留学前のラストフライトは、退職時のそれよりも、不思議と強く心に残っています。
今後の人生において、それだけ大きなターニングポイントにいたということは間違いありません。

今年の夏も、夜空に咲く打ち上げ花火を眺めていたら、いろんな思い出が蘇ってきました。

愛おしい日々

あの年の春、かつてから希望していた留学休職の枠に選ばれたことを知り、すべてが動き出した。
8月から休職し、勉強のため2年間イタリアに住むことになったのだ。

繁忙期突入で、本来なら仕事に追われているはずの初夏。
有給休暇の消化もあって、6月後半ごろからは仕事もあまり入らなかった。日本で過ごす平穏な日々を、わたしは丁寧に過ごしていた。

いつもと変わらないこの夏も、友人や家族との何気ない会話も、出発までの限りある時間だとわかっていたから、一瞬一瞬の時間がとても愛おしく感じたのを憶えている。

ラストフライトは、いつも人生のターニングポイント

留学休職に入る直前のフライトは、ロサンゼルス便だった。

ロスでは、サンタモニカの海沿いの歩道をひとりで散歩した。心地よい潮風をいっぱいに受け、目の前に広がる海を眺めながらこう思った。
「3週間後、わたしは地中海の海を見ながら暮らしているんだ」と。

海沿いの沿道にあったお気に入りのイタリアンレストランzenzeroがいつのまにか閉店していたのを見つけた。少しショックだったが
「あ、でももうすぐイタリアに住むんだった・・・」と思い直した。

半年前から行くことが決まっていたイタリア長期留学ももう目前だというのに、夢を見ているのかと思うほど、まだ実感のない自分に戸惑った。

日本に帰国し、いつものように空港のオフィスに帰ると、わたしの帰着を上司や同僚たちが花束を手に待ち構えてくれていた。
思いもかけず、いろんな方々から激励の言葉もいただき嬉しく、後ろ髪を引かれる思いと感謝の気持ちでいっぱいになった。
まるで退職前の「本当のラストフライト」のように。

空港からの帰路は、ラストフライトの余韻に浸りながら、車窓に移りゆく都会の夜景をぼんやりと眺めていた。
7月最終週の土曜日。ポーンポーンと、打ち上げ花火が遠くの方に小さく見えた。

旅立ちの朝

ラストフライトは少し感傷的な気持ちになったが、それからイタリア出発までの日々は現実に戻り、ひたすら引っ越しの準備を進めていた。
当然のことながら、ひとり暮らしをしていたマンションも引き上げる。
真夏の暑い中、毎日段ボール箱に荷物を詰める作業に追われていた。

出発日の前日は、母が作業を手伝うため、わざわざ来てくれた。
夕方、母と一緒に駅前のお寿司屋さんへ。
「日本のお寿司もしばらく食べられないだろうから」という心遣いが嬉しかった。
あのときに母と食べたお寿司、おいしかったなぁ。

当時の私は「イタリアへはひとりで発ちたい」と、かたくなに思っていた。
ちょっと長い旅行にでも行くかのように・・・。

「空港へ見送りにいきたい」という、親しい人たちからの申し出も断った。
今思えば、当時は「いつも凛としていたい、颯爽と生きたい」という、美意識にも似た思いがあったのかもしれない。

実際、出発の朝は、いつも空港へ向かうときと同じようにひとりで発った・・・つもりだった。

でも。

今思い返せば、たくさんの人にそれぞれの思いをもらい、陰で助けてもらって、温かく見送っていただいてたんだなぁと、しみじみ思っている。

過去・現在・未来・・・

イタリアの、トスカーナ州の港町へ向け単身出発したのが1998年8月7日。
20世紀末から21世紀初頭にかけて、いちども一時帰国することなくイタリアで過ごしました。

25年前は、今と違いネットもSNSも当然なく・・・。
日本から見たイタリアも、イタリアから見た日本も、今よりずーっと遠い国でした。

あの頃の写真といえば、フィルムを入れたカメラで「はいチーズ」
日本とのやりとりは、外の公衆電話から国際電話をかける、またはファックスを借りるか絵葉書を書くかしかなく…。

机上で解決することなど、なにひとつなかった当時は、何をするにも自分の足で歩いて解決法を探し出していました。

イタリアのいち地方都市での暮らしは、アナログで超シンプル。
あえて不便な場所に身を置く自分を楽しんでいた気さえします。

誰でも、生きていると、忘れられないシーン、人生のたいせつな節目、大きな出逢い、いろいろありますよね。

わたしの中のあの日あの時。
久しぶりに振り返ってみました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました♪

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