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映画「青春18x2 君へと続く道」

お盆休み中のテレビ番組で、台湾料理が紹介されていた。
それを見ていた夫から思いがけない言葉。

「台湾に行ってみたいんだよね。」
わりと本気っぽい。

「え、そうなの?でも暑いよねー」なんて言いながら、
最近Netflixで配信が始まった映画のことを思い出した。
劇場公開されていた5月に観た「青春18x2 君へと続く道」
映画館へ行くために映画を観ることもある私は、この作品を映画館で観ることに決めたときも、そんな理由が大きかった。が、思いがけず美しい映像に心が浄化され、その感想をnoteに残そうと思いながら、時が流れ。。
ひとりで勝手にNetflix綾野剛まつりを開催していた頃、この作品の配信を知ったのだった。

翌日、夫がNetflixで視聴する作品を探していたので「台湾に興味あるなら、これいいかも~」と薦め、なかば強引に一緒に観ることに。

日台合作であるこの作品。
ある理由から日本を旅している台湾人の主人公が、18年前の台湾での記憶をたどっていく。そこに映し出されていた台湾(主に台南)の街並みや風景はどこかノスタルジックであたたかい。

監督・脚本は「新聞記者」「余命10年」の藤井道人。

藤井監督と言えば、私は綾野剛さんがらみで作品を知ることが多く、どちらかと言うと社会派というイメージが強かったのだが、「余命10年」のようなラブストーリーも評価されている。「最後まで行く」のような韓国映画のリメイクなども手掛けていたりと、ここ数年の作品数を見るだけでもその注目度がわかる。11月には「正体」の公開も控えている。

原作はジミー・ライの紀行エッセイ「青春18×2 日本漫車流浪記」で、著者のジミーさんが青春18きっぷを使って日本を旅した時のブログである。 映画化には脚色が加わっているにしても、そもそも実話がもとになっていることに驚く。

【あらすじ】

始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生・ジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)と出会う。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案する。

時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを再び手に取る。初恋の記憶がよみがえり、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意するジミー。東京から鎌倉・長野・新潟・そしてアミの故郷・福島へと向かう。

「青春18x2 君へと続く道」公式サイトより


とにかく主演二人の自然な演技が素晴らしい。
清原果耶ちゃんについてはここで言うまでもなく、ジミーを演じたシュー・グァンハンさん、台湾にこんなに素敵な俳優さんがいたとは。
18歳と36歳のジミー、違う俳優さんかと思っていた。それくらい、演じ分けが見事だ。実年齢は33歳と知って、さらに驚き。
見た目っていうより、あの表情やしぐさ。ピュアな18歳、まったく違和感ない。

それから、これからこの作品を観る予定の方は、映画『Love Letter』(監督:岩井俊二)を先に観ておくといいと思う。公開当時は日本でも岩井俊二ブームがあったので観ている方も多いと思うが、ずっと気になりながらも観ていなかった。でも、「青春18x2 君へと続く道」を観たら、絶対『Love Letter』観たくなっちゃうから。

私もすぐに配信で観て、やっと『Love Letter』の世界を知ることができたのも良かったなと。そして、トヨエツ若いな~とか、これまた時の流れを感じたりして。そう言えば柏原崇って最近見ないなって検索してみたら、なんと、今は内田有紀のマネージャーなの?ビックリなんだけど。って、話それましたが。

おそらく『Love Letter』についての描写は、原作でも重要なポイントとなっていたと思われる(原作を読んではいないけど)。台湾や韓国でも岩井俊二は人気があるとのこと。そういったところをあえて狙っているとも思えるほど、今作はオマージュ的要素が大きいと感じた。

ちなみに、この映画の核となることについて、藤井監督はこう言っている。

僕にとってこの映画の主軸は、全てを失った36歳のジミーが旅を経て何を得て、何を思い出して何と向き合うのか。だからこそ誰かにとっては恋愛映画で、また別の誰かにとってはロードムービーであり、成長物語でもあると思います

「青春18x2 君へと続く道」公式サイトより

タイトルに「青春」ってあるし、チラシから受ける印象も青春ラブストーリーなんだろうと勝手に思っていたけど、実はロードムービーであることが、私がこの映画を観て良かったと思わせてくれる理由になっている。

劇場で観た後に、映画『Love Letter』を観て、Netflixの配信で再度視聴し、その後プロデューサーのウォッチパーティーのコメントやインタビュー記事などから情報を得てから、さらにもう一度観なおしたりしている。そうすると、細かい伏線のようなものも見つけられたりして、けっこう楽しい。

ここからはストーリーについてにも触れていきながら、感じたこと、気づいたことを。

※以下ネタバレあります。

まず、「青春18x2 君へと続く道」というタイトルから受ける印象。
この「青春18」というワードが、観る人の幅を狭めてしまっている気がする。青春のキラキラした若者向けのラブストーリーなんじゃないかって思うよね。実際私も観る前はそんな印象だったから。
そう思っていたらやっぱり、最初はメインタイトルが「君へと続く道」の予定だったと、プロデューサーからの言葉にあった。「青春18×2」がタイトルとなったのは、台湾側の希望もあったようで。原作のタイトルはそのまま残したかったってことかな。原作では「青春18きっぷ」の意味も含まれていたと思うし。
でも鑑賞後なら、このタイトルにも納得できてしまう。36歳のジミーが18歳の頃の思い出を辿っていく旅。そして、18年間走ってきた自分と向き合う旅。

日本での旅でジミーが出会う、美しい景色。そして人のあたたかさ。
そこに、18年前の台湾での思い出がリンクする。
心の奥にしまっていた記憶が、青春の色として浮き上がる。

日本での青春の色といえば「青」というイメージだが、台湾では「オレンジ」なのだそう。
18年前の台湾での青春は確かに「オレンジ」のイメージで表現されている。ジミーがよく着ている服も「オレンジ」だった。
気候による暖かさだけではなく、人の温かさと、どこか湿気を帯びたような空気感が、映像から自然と伝わってくるから不思議。

18年前の台湾が「オレンジ」で表現されていることに対し、36歳のジミーが旅している日本は「白」のイメージだ。それは「雪」に象徴されるように冬の寒さでもある。

暖かい台湾と寒い日本という対比は、「青春色の18歳」と「すべてを失った36歳」という時間軸での対比でもある。

ランタンに願いを書いて上げると、その願いが叶うといわれているランタンまつり。台湾でジミーがアミと一緒に上げたランタンはオレンジだったが、新潟のランタンまつりでは白のランタンが使われていた。まぁ、これは偶然なんだろうけど。

ランタンまつりの映像はどこか幻想的で、とても美しく、私もいつか体験してみたいと思うほどだった。

アミが台湾でランタンに書いた願い。

「ずっと旅が続きますように」

アミ自身の旅は終わってしまったけど、日本のランタンに同じ願いを込めたジミーの旅は続いていく。

ジミーの日本旅の終着点は、福島にあるアミの家。
でも、もうアミに会うことはできない。
アミはもう亡くなっているんだろうなぁということは、中盤ぐらいから感じてはいた。観る前はそんな話だって知らなかったから、ちょっと裏切られた感じはある。

いわゆる余命ものって実は苦手。自分から進んで観たいと思わない。「余命10年」だって、そのタイトル自体が邪魔をして、ずいぶんと遅れて配信で観たくらい。

でも、原作の中でもアミは亡くなっているわけで、無理やり主人公を難病にしてお涙頂戴ストーリー作ったというわけでもないし、まだ受け入れられるかなと。
という私も、やっぱり泣いてしまったし。アミのジミーへの本当の想い、台湾での思い出がアミ目線で描かれたとき、前半の二人のシーンがすべて切なく蘇ってくる。

この結末を知ってしまった後に2回目にNetflixで観たときは、アミとジミーが最初に会話するシーンからもう泣いていて。一緒に観ていた夫に、軽くネタバレしてしまっているという。

確かに、これは泣かせにきているし、この手法にも既視感がある。
ただ、それも心地よいと思ってしまう。美しい景色や思い出も、まるで自分が体験したことのように、ジミーと一緒に旅していたからかもしれない。

2回観て気付いたのだけど、この映画ではジミーの横顔のシーンが多い。そして、18歳のジミーは画面の左から右へ向いていて、36歳のジミーはその逆である。それは朝ベッドで目覚める時のシーンが象徴的。単純に私は差別化しただけなのかなぁと思っていたら、撮影の今村さんのインタビュー記事には「2人が向き合っているのをわかりやすく表現した」とあった。なるほど、そう言われてみれば。

シュー・グァンハンさんの横顔が右と左で印象が変わるから、18歳と36歳での違いを出すのに横顔を撮ったとも、何かのインタビューで見たような。
彼の横顔はどちらも魅力的ではある。

台湾の俳優さんをこれまでまったく見てこなかったけれど、今後も注目してみたいと思った。そして、もちろん台湾にも行ってみたくなった。

甘酸っぱい初恋。
美しい日本の風景。
一期一会の出会い。

どのシーンも、あざといぐらい美しく、そしてわかりやすく描かれている。
そこがこの作品の良いところでもある。

バイクの二人乗り、ベタだけど、やっぱり青春ってこれなんだよな。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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