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終わりのない旋律

これは音楽を聴く、そのはじめの物語だ。

遠くの国と人々の・・何を語ろうというのだろうか。
どこからともなく、Bachとつぶやく声が2度聴こえて、物語は始まった。

2年後に訪れることになる「歌の年」の前触れ。
シューマンは旋律の可能性を追求しようとしていた。
そして、メンデルスゾーンの無言歌の形式で、しかし、旋律は容易に前に進まず、同じところを旋回し始めた。
フランツ・リストはこの最初の8小節から抜け出すことが出来ず、まだ3歳の娘ブランディーヌのために「冒頭の繰り返しを20回もしてしまって、まったく前に進まない…」とシューマンに書き送った。

... spiele ich ihr abends die Kinderscenen vor, wobei es sie und, wie Sie sich vorstellen können, fast noch mehr mich entzückt, wenn ich ihr zwanzigmal die erste Reprise wiederhole, ohne fortzufahren.

シューマンはいつも過去に目を向けながら、未来の音楽を紡いでいく。
旋回する旋律は、主題を遠くに運んでいく構造を与えられていた。
ラヴェルはその構造を用いて「洋上の小舟」の冒頭を書いた。

夢をみて、役目を果たしたあと、子供は眠りにつく。
かつてシューベルトが「美しき水車屋の娘」でBachに歌わせた終わりのない子守唄が、形を変えて、いつまでも終わらないまどろみの世界を映していく。

詩人が語りだしたところで、ひとまず世界は沈黙しなくてはならない。
音楽は世界が沈黙するところからはじまる。
そこではじめて、耳をすますことが出来るのだから。


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2022年3月11日(金) 20:00開演
「子供の情景」
ピアノ:仲道祐子

https://www.cafe-montage.com/prg/220311.html

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