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メトネル「忘れられた調べ」― 秋元孝介さんに聞く


1910年代のラフマニノフとスクリアビンに並ぶロシアの作曲家として、ニコライ・メトネルの名前を目にすることは少なくないけれど、その作品を聴くことの出来る機会は本当に少ないと感じていました。
7月1日に、カフェ・モンタージュで初めてとなるオール・メトネル作品の公演が実現します。秋元孝介さんが、ずっと温めてこられたプログラムを聴かせていただくにあたって、秋元さんからメッセージをいただくことが出来ればと思い、インタビューをさせていただきました。
はじめは少しだけとお願いしたインタビューは、秋元さんの理路整然としながらも、大変な熱を帯びたお話を聞くうちに1時間を超えてしまいました。
秋元さんからしか聞くことの出来なかった、作曲家メトネルのお話。
皆さま、是非お読みください!

・・・・・


秋元:こんばんは。

高田:こんばんは。遅い時間に申し訳ございません。

秋元:いえいえ。よろしくお願いします。

高田:よろしくお願いします。早速ですが、作曲家メトネルのことです。

秋元:はい。

高田:今回の公演 (7/1開催) に向けて、メトネルについて色々と調べていて…

秋元:ああー

高田:そのことも後ほど触れたいとは思うんですが、まずは秋元さんとメトネルの出会いとか、そういったものをお伺いしたくなったんです。

秋元:なるほど。出会いといえば、浜松の国際ピアノアカデミーを受けていて、自分は当時まだ高校3年…だったと思うのですが、トロップというロシアのピアニストが講師でいらしていて。

高田:ウラジーミル・トロップ!巨匠ですね。

秋元:はい。そこであった講師コンサートでトロップ先生が演奏しているのを聴いたのが最初でした。なにかこう、これまで聴いたことの無いような響きというか、そういうものを感じたんですね。

高田:聴いたことがない…。

秋元:ええ。もともとその時までに自分がついていた先生がモスクワの伝統的な流派を受け継いだ方でしたので、ラフマニノフとかスクリアビンとかかなりしっかりとしたレッスンを受けていたわけですが、ロシアの音楽というと歌の要素が大きかったり、宗教色が強かったりというところが、メトネルはちょっとタイプが違う作曲家だな……とその時はシンプルにそういう印象でした。

高田:調べたところ、メトネル家はロシアにすでに100年ほど定住してはいたけれど、もともとドイツの家系で、そのルーツを大切にしていたとか。

秋元:はい。今回の作品は違いますけれど、ベートーヴェン作品の構成を意識したような曲も書いていますし、ピアニストとしても、よくベートーヴェンを演奏していたという事ですね。

高田:家庭内では、ドイツの観念論などの話題がよく出て、その点でラフマニノフとはあまり話が合わなかったとか。

秋元:ああー。(笑)

高田:でも、ラフマニノフがロシアから亡命する1917年までの5年ほどは本当に2人は仲良しで、いろいろある中でお互いに影響しあったりということが、かなりあったように書かれています。
今回演奏される「忘れられた調べ」という曲集は、そのすぐ後(1918年)に書かれた作品ということですが。この作品について、少しお伺いできますか?

秋元:メトネルは楽想が思い浮かぶとメモにとるということをずっとやっていて、それをあとで曲に発展させるということをしていたという面があります。この「忘れられた調べ」もそのメモ帳を土台にして、テーマ性のある曲集として仕上げられたものです。今回演奏するのはその第1集とされるもので、初演時には"自然"という副題が置かれていました。その第1曲の「回想のソナタ」の中にでてくる「回想」のモチーフが、あとに続く6つの歌と踊りの中にも繰り返し登場します。形式としての歌と踊りというのは、メトネル作品の大きな要素で、人類の営みの中で昔から根底にあるその二つに焦点を当てた作品をメトネルは他にもたくさん書いています。

高田:歌と踊りが形式として根底にあるということは、当時の新古典といいますか、実際にメトネルの作品を少し聴いても感じることなのですが、バロック音楽のような装飾などに通じるものがあって… そう考えると「忘れられた調べ」(1918年)はラヴェルの「クープランの墓」(1917年)とまさに同時代の作品なんですね。

秋元:そうですね。メトネルの作品は四小節がフレーズの基本単位である場合がとても多くて、その意味でもバロックや古典に通じるものがあると思います。―― それで、メトネルは何かモチーフを思いついたらそれを書き留めるということを長年やっていて、長くずっと書いている中で、書いたモチーフがずっと以前にも書いたことがあるものと同じだったりすることがたまにあって、そういう幾度もの繰り返しの中で残っていくものというか、それを発想の本質的なものとして捉えていたようです。「忘れられた調べ」にもそのエッセンスが組み込まれています。

高田:そのような積み重ねを経て書かれた作品が、結果としてその時代を反映している。メトネルはあまり現代的な作曲家であるという評価が見当たらないのですが、実際に聴いてみると、例えばパリの6人組などと並べて聴いても違和感がないような洗練された響きがとても印象的なのですが。

秋元:メトネルは、例えばプロコフィエフのことについて「あれが音楽なら、私は音楽家ではない」と言ったとか、自分の作品はそのように新しいものとは違うとは思っていたみたいです。プロコフィエフについては、不協和音やリズムの激しい部分が耳に残るという意味でのその時代の評価もあったかも知れませんが、今となっては、抒情的な美しさも同じだけ評価されていますね。まさにあの美しく抒情的な旋律や新鮮な響きの中には、メトネルにも共通したものがあると感じます。プロコフィエフはピアニストとしてメトネルの作品を演奏していて、その洗練されたピアノの書法などを評価していたようです。

高田:今となっては、というところが今回の公演のひとつキーワードになる気がしています。メトネルってなんといいますか、少し以前はフォーレの後期作品なんかもそうだったんですが、好きな人は好きというイメージがあって、なんというかマニア向きというか。

秋元:フォーレってそうだったのですか?

高田:10年前くらいは、まだそうだったように思います。初期の一部の作品は今も昔もよく演奏されていますが… でも、今となっては後期の作品まで普通に聴かれるようになっていて、メトネルもいずれそうなるのではないかという気がしています。

秋元:メトネルは一度聴くだけでは掴み切れないというか、メロディが途中で声部をまたいであっちに行ってしまったり、どこで終わってるかわからないとか……、はっきりと耳に残らないというところがあるかも知れません。

高田:まさにそういった部分が、フォーレの後期作品や6人組の作品を聴くときに感じる儚さとか、響きのうつろいの美しさに通じていると感じるのかも知れません。これは自分の嗜好というか、あくまで個人的なことにすぎないのかもしれませんが……。
ところで、秋元さんはこのメトネルを大学院の修士課題にされたとか。それはどういった理由からでしょうか。

秋元:大学院の時に研究テーマを決めるにあたって、自分の感覚に一番近い作曲家を選びたいと思って、色々な作曲家の作品を聴いたり、演奏してみたりする中で最終的に選んだのがメトネルでした。

高田:自分の感覚に一番近い。というのは、演奏家として、例えば弾きやすいとかそういうことではなくて?

秋元:音楽に対する考え方であったり、その理想というか、そういったものに対して自分と同じような角度で音楽をみているのではないかなと一番感じたのが、メトネルでした。例えば、世の中ではどうしても分かりやすいものが商業的に評価されるとか、でもそういうことは音楽の本質ではないということをメトネル自身が書き残しているんですが、そういうことも含めて100年前も今も同じだなと共感するところもあって。

高田:誰にでもわかりやすいのではない、もっとパーソナルな見方とかその角度や表現ということでしょうか。

秋元:演奏家として、エゴイストになり過ぎてしまうのはやっぱりいけなくて、パフォーマンスとして聴衆と音楽を共有することは必要です。でも何というか、自分の中から湧き上がってきたもの、内面に何回も何回も語りかけてくるもの、メトネルはそういうものに対する感性を音楽家として大事にしたいと考えていた人だと感じていて、そういう部分に自分はすごく惹かれたというか、賛同出来るということだと思います。

高田:わかりやすい宣伝文句とかそういうものを頼りにするのではなく、何か自分にとって本質的なもの。それは、音楽を聴く側も求めていることだと思います。例えば、宣伝文句の大きな展覧会にはたくさんの注目が集まりますが、よりパーソナルな体験ができる場所を美術館に求める人もいて、どんな作品が置いてあるか知らずに常設展を訪れて、その時の自分の気分に合わせて楽しむとか、受け取り方をするというのは素敵なことだと思います。

秋元:それはいい例えですね。自分が演奏家としてのポリシーを貫く中で、それに対して聴く人のみんなが同じ印象を持つのではなくて、ひとりひとりが違う聴き方をするというか。その時の気分に合うものを、それぞれにメトネルの作品の中から受け取ってもらえるのではないかと思います。そういう意味では、とても聴いていただきやすい作品ではないでしょうか。

高田:それぞれの人が生きる中で繰り返されている本質的なものが、それぞれの方法で美しさを求める中にメトネルの音楽が響く。それが何なのかは自分以外にはわからない、それでもいい。そんなコンサートがあるのは素敵ですね。

秋元:そのようにお聴きいただけるととても嬉しいです。

高田:メトネルのコンサートはいよいよ今週7月1日(木)、大変に楽しみです。本日は、遅い時間までありがとうございました!

秋元:ありがとうございました!

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2021年7月1日(木)20時開演
「メトネル作品集」- 秋元孝介 piano
https://www.cafe-montage.com/prg/210701.html

1時間ほどの公演です。皆様のご来場を、こころよりお待ちしております!

🎁ボーナス動画🎁
メトネルの作品をカフェ・モンタージュで聴くのは今回が初めての事です。
ショパンがそうだったように、メトネルも生涯にわたって書いた作品の全てがピアノのためのもの、もしくは歌曲や室内楽でも必ずピアノが関係する作品だったと秋元さんは言います。
古典的で緻密な手法、そして類まれな抒情性の面でも、メトネルはショパンともつながるのかも知れません。

公演に先立って、少しイメージを膨らませていただくために、2020年9月22日の秋元孝介さんの演奏による公演から、短い動画をご用意いたしました。
ショパンの3つの新練習曲より 第2番 変イ長調です。
こちらもとても抒情的な作品です。是非お聴きください!


インタビューはテレビ電話で行いました。
秋元さん、ありがとうございました!!

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京都・御所南のあるカフェの形をした劇場です。 https://www.cafe-montage.com