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猫なんて飼うんじゃなかった

2019年7月24日、生後3ヶ月の1匹の猫が我が家にやってきた。

知り合いの知り合いが保護していた猫が子猫を産んでその里親を探しており、ちょうどその頃、妻と猫を飼いたいねなんて話しをしていたので、そのタイミングで引き取ることにした。僕は猫を飼うのは初めてで、小さい頃からずっと飼ってみたいと思っていたので念願といえば念願だった。

猫どころか、ペット自体が飼えなかった幼少時代。祖母が特に大の猫嫌いで、庭で猫を見かける度に、「しっしっ!!あっち行きな!!」と猫を追っ払う姿を何度も目撃していた。

幼い僕は、何であんなに可愛いのに嫌うのだろうと不思議に思っていた。

あれから20年以上の歳月が流れて、ようやくこの時がやってきたのだ。

妻もずっと家で猫を飼ってきたということもあり、ある程度の猫に対する知識があったので全く不安はなかった。


名前は「たるほ」に決定。

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僕の好きな作家「稲垣足穂」から命名した。

猫を飼う前からなんて名前にしようかとワクワクしながら妻と話し合い決めた。

漢字にしようか、平仮名にしようか、カタカナにしようか、まるで子供の名前を考えるように姓名判断をしながら一番字画がよかった平仮名で「たるほ」に決まった。

たるほは寂しがりやで甘えん坊。飼った当初から夜中僕たちが寝ている時間帯もにゃーにゃー鳴きながら僕の足を噛んだり引っ掻いたりして起こしに来て、まともに眠ることのできない日が続くこともあった。

でも可愛いじゃないか。

睡眠時間を犠牲にしても、“かわいいな!この野郎!”なんて気持ちが勝るのがもう猫の魅力にはまっている証拠ではなかろうか。

しかし、あまりにも深夜に起こされるので、どうしたものかと頭を悩ませていると、ある人から2匹飼うと良いよという話を聞かされた。

昼間は僕も妻も家にいないので、たるほ1匹だけで過ごす時間が多く、寂しがりやのたるほに輪をかけて寂しい思いをさせているのだろうと知った。だから夜中甘えてくるのだと。

2匹飼うとずっと1匹でいることが無くなるから、寂しさは軽減されるのだろう。


そんな話を聞かされて数日後、何と妻が1匹の子猫を抱えてやってきた。

あまりにも唐突な出来事にびっくりした。

聞くところによると、散歩していたら「たるほ」と同じ年齢ぐらいの1匹の子猫が近寄ってきて、その場でゴロゴロ寝転がり甘えてきたという。その場を離れようとしてもずっとついてくるというので、連れて帰ってきてみたという。何百メートルも初めて会った人間に嫌がる素振りも見せず抱き抱えられながら歩いてきたのだから、よっぽど人間に慣れているのだろう。

首輪はしてなかったのだが、野良猫にしては綺麗な毛並み。もしかしたら飼い主がいるかもしれないと近所の人に聞いて回ったが、みんなの話からどうやら野良猫だろうという話になった。

もう1匹飼いたいねと話していた矢先にこのタイミングの出来事。もうこれは運命だと思い飼うしかないだろうということで、この野良猫を引き取り飼うことにした。その年の9月のことだった。


グレーと白のハチワレの模様。手足の先が白く手袋を付けているみたいで可愛い。


名前を「ほたる」と命名した。

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「そめかわたるほ」の字画が良いので、そのまま文字を並び変えるだけで良いんじゃない?という一見手抜きな名前の付け方になってしまったが、かわいい名前じゃないかということですんなり決定した。

ただ、「たるほ」と「ほたる」という似た名前なのでよく呼び間違える。

年齢は動物病院の先生に見てもらったらやっぱりいま飼っている「たるほ」と同じぐらいの年齢だろうと言われたので、同じ年齢の同じ誕生日ということにした。

知らない人間についていくぐらいだから、ほたるもさぞかし甘えん坊なのだろうと予想していたが、飼ってみると一人でいるのが好きな何ともクールな猫だった。甘えるのは餌が欲しい時と撫でて欲しい時だけだった。

たるほとの相性は良く、子供の頃はよく一緒にじゃれ合う感じで噛み合ったりして、かと思うと急に寂しがりやで甘えん坊の「たるほ」は「ほたる」にぺろぺろと毛づくろいをしてあげたりする。


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2匹飼ったおかげで、話に聞いたとおり夜中寝ている時に僕の足を噛んだりして起こしに来ることは無くなった。これにて不眠問題は一件落着したのであった。


***


今現在、1歳半になった2匹の猫。日に日に愛おしくなっていく。

その愛くるしい仕草を見ているだけで、心の中で「何なのだ、この生き物は・・・」とHUNTER×HUNTERのメルエムのセリフを言ってしまう。

ただ、そんな感情だけでは済まなくなっていた。

テレビやネットなどで病気になった猫のエピソードや怪我をした猫、亡くなった猫の写真を見ただけでも、うちの子たちに重ね合わせてしまい、涙がこぼれそうになる。


死んじゃったらどうしよう。


外に飛び出して車に轢かれて死んじゃったらどうしよう。


病気になって死んじゃったらどうしよう。


この子たちの最後の日を想像してしまって涙ぐむ。



苦しくて、寂しくて、怖くて、そして、こんなに愛おしい思いをするなんて思ってもみなかったから。


何なのだろう、この気持ち…。何かに似ている、この抑えられないような、どうしようもないようなこの気持ちの感じ。


そう、恋だ。恋した時に似ている。


本当に恋したことがある人にはわかると思うけど、四六時中その人のことを思い、その人のことしか考えられず、今この瞬間をその人の為だけに捧げたい。将来のことなんか考えることもなく、とにかくずっと側にいたい、一緒にいるだけでいい、ギュッと心が締め付けられるこの感じが似ているのだ。

ただ“好き”というだけの感情では説明のしようがない感覚が恋と似ているのだ。

猫たちのことを思うと、苦しくなるのだ。

本当に何かあった時のことを想像してしまうと胸が苦しくなり目頭が熱くなってしまう。

もうそんな愛くるしい姿を見せないで!そんなかわいい声で鳴かないで!どんどん別れる時が辛くなるじゃないか!


そして思う。



“猫なんて飼わなければよかった…”



でも大丈夫。



君たちは僕が最後の日まで必ず守ってあげるからね。



静かに心の中でそう誓った。



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