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フランスで大ヒットの映画「最高の花婿 ファイナル」

ひとことで言ってしまうと、フランス映画らしい映画だった。ハリウッドのものとも違う、独特のタッチのドタバタコメディ。そして、もっとフランスらしいのは、さまざまな文化背景を持つ登場人物が現れる点だ。

多民族社会のフランスでは、こうした文化の違いにより引き起こされる問題は、もはや日常的で、映画のテーマにすらならないのでは、とも思っていたが、そんなこともないらしい。この作品の前作を含めた3部作が、フランス国内でも大ヒットしていることが、それを表している。

人種差別といった意味で、結構際どいセリフもあるのだが、コメディであれば、特に問題があるにされないのは、フランスの表現の自由の懐の広さだろうか。

父親が、中国系シャオと結婚した娘に、「異文化結婚はすばらしい。目新しさが落ち着くと、すべてがすれ違いの原因になる」と語る、シリアスなシーンに説得力を感じた。

世界のさまざまな料理が登場する点もこの映画の人気の理由だろう。実際の料理の映像が次々と出てくる感じではないが、辛口餃子、北アフリカ料理のクスクスなど、味を想像してしまう言葉はぽんぽん出てくる。お菓子がらみでいうと、中国系夫がアルジェリア(アラブ)系夫に「君らのデザートは砂糖のかたまりだ」というセリフもある。アルジェリアでお菓子を食べたことがある身としては、「そんなことはない!」と叫んでしまった。

家族の相関図

この映画の舞台はフランス・ロワール地方。ロワール城が登場したりもして、全体的にハイソな舞台設定だ。だが、もちろん、フランスの多国籍社会のすべてがそうした場所に存在する訳ではない。

この映画と合わせて鑑賞したらいいのでは、と感じる他のフランス映画としては、2月に東京・渋谷で開催された「イスラーム映画祭」で上映された「ファーティマの詩」をあげたい。アルジェリアからの移民をめぐる状況を、2人の娘を育てる女性を中心に描いた作品だ。フランス生まれの娘たちに比べて、フランス語が得意ではない母の娘や社会とのコミュニケーションの苦労が描かれる。フランスの多文化社会の大きな問題だろう。映画の舞台は、フランスでバンリューと呼ばれる郊外。バンリューは、元々「締め出された者」という意味らしく、まさに疎外された人々が暮らすエリアだ。

「最高の花婿 ファイナル」と「ファーティマの詩」。この2作品が描いた多文化社会の様相はどちらも、すでに大規模な移民社会がある日本にも無関係なものではない。映画を通じて、笑いとシリアスさの両方をかみしめたい。

作品は、4月8日から、東京・新宿のK's cinemaや、名古屋のミリオン座などで公開が始まる。

日本だけというわけではないが、イスラム教徒や外国人に対する差別はなかなかなくならない。
特にSNS上には、ヘイトツイートがそのまま公共空間にさらされた状態になっているものも多い。

その一例をあげたのがこれだ。こうしたヘイトスピーチを撒き散らすアカウントを封じ込めるためにも、移民をめぐる問題を、ひとりひとりが我が事して考えることが重要だ。この映画は、そのきっかけになりうるのではないかと思う。

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