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豊穣のイラン映画史をにぎやかに描いた巨匠マフマルバフ

東京・お茶の水のアテネ・フランセ文化センターで2月1から始まった「モフセン・マフマルバフ監督作品セレクション」。初日は、「サラーム・シネマ」と「ワンス・アポン・ア・タイム、シネマ」を鑑賞した。
前者は初めて、後者は鑑賞2回目だった。現代イラン映画のもう一人の巨匠監督、アッバス・キアロスタミをはじめ、演技の素人を作品の中心に置くのはある意味イラン映画では常道ともいえるが、映画オーディションに集まった人々に次から次へと演技をさせるという設定には、ちょっと驚かされる。監督本人が監督役で、これは現実を撮影したドキュメンタリーなんだろうと思ってしまうが、冷静に考えると、本当にそうだろうか、と思い直す。時として志望者に厳しい言葉を投げかけるマフマルバフ監督は、実はそうした役柄を俳優として演じていたのではないか、とも思う。
「ワンス・アポン」については、やはりイラン映画史をある程度知っていないと、十分に楽しめない作品。その意味では、上映後に、映画研究者の四方田犬彦さんのトークを聞けたのはとてもよかった。
イラン最初のトーキー映画で当時テヘランで空前のヒットとなった「ロレスタンの娘」が展開の軸になって話は進む。フランスからもたらされた映画に夢中になる王様役を演じるのは、イラン映画史不朽の名作「牛」で主人公を演じた役者、エンテザミだった。四方田さんは、イスラム革命後にキアロスタミやマフマルバフなどが国際舞台で活躍したのは、革命前の「王政時代の映画作りが腐葉土になった」と指摘。「牛」と並ぶ王政時代の傑作として、詩人フォルーグ・ファッロフザードが監督した「あの家は黒い」を挙げていた。
ドタバタ喜劇風でせわしない感じの映画ではあるのだが、イラン映画の豊穣な歴史を世界に伝えようとした真面目な作品だといえるのだろう。

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