見出し画像

『女の勲章』山崎豊子 著

カフェ店主おすすめの一冊と、個人的に気に入っているツボをご紹介します。

今回は、過去に何度も映画・ドラマ化されている山崎豊子の小説『女の勲章』です。
以前、長い長い船旅の際に持参して、船内で読み切りました。
早々に船酔いでまったく動かなくなった夫の横で、じっくりと読んだ記憶があります。
船内の売店やレストランが閉鎖されるほどの揺れでも、乗り物酔いをしたことのないわたしは食欲も読書欲も失せることがありませんでした。

さて、『女の勲章』は、大阪船場生まれのヒロイン式子が、商才に長けた年下のパートナー銀四郎の手腕によって、欲望うずまく煌びやかなファッション界をのしあがっていく、というストーリー。
ドロドロの欲にまみれた世界の中で翻弄されながらも、懸命に生きる一人の女性の生き様が描かれているのですが、銀四郎の敏腕にしてなかなかのクズっぷりがスゴイです。
けれどもこの作品のわたしのツボは、中盤から救世主のように式子の前に登場するもう一人の男性=大学教授の白石が、堅実で思慮深い紳士のようでいて実は一番クズ、ということろ。

いかにも軽薄で胡散臭くて計算高い人物が本当にその通りの人物である場合と、聖人君主然として社会的信頼を得ながら実は自分自身を守ることに一生懸命な臆病者である場合と、どちらが真のクズかといえば、わたしは圧倒的に後者だと思うのです。
被害者気分で自らの安全をキープしたまま、大事な決断を相手任せにして逃げるのは卑怯者です。
読み返すたびに実際知っているある人物を思い出して腹が立つため、つい言葉が強めになってしまいました。
人間なんて多かれ少なかれ汚い要素は持ち合わせているので、清廉潔白感を醸し出して善人を装っている方が、よほど罪というもの。

ちなみにドラマ化で一番最近放送されたのは2017年で、ヒロイン式子は松嶋菜々子、銀四郎に玉木宏、白石教授は長塚京三でした。
玉木宏の演技に文句はないのですが、あまりに声も体格も顔も良すぎてもう少しゲス感が欲しかったけれど(たとえば伊勢谷友介くらいに)、長塚京三の白石はピッタリでした。
長塚京三、知的で上品で大好きなのですが、その雰囲気が功を奏して白石の致命的な狡さとダメさが見事に伝わってきました。

「装う」という虚飾の世界を舞台にしているだけに、外側に被った美しく立派な鎧の中身が完全に腐っている白石の存在がツボです。
人生、様々な「装い」には要注意。

読み手のツボは人それぞれ。
あなたが読めばまた違う解釈があるのかも。
夏のはじめに、めくるめく装いの世界、『女の勲章』はいかがでしょうか。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?