特技は魔法とありますが? はい、魔法です(第3話)
乱雑にまとめたマガジンはこちら
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第5話 第6話 第7話 第8話
第9話 第10話(制作中)
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駅ホームから追い出され改札を逆送すると、外の様子は一変して非情に静かだった。
さきほどまで激しかった争いの現場を見ていたのとは一転して妙に静かというか、殺伐とし過ぎているというか。
たまに通り過ぎる通行人の姿を見ながら宗士は走ったが、通行人の様子はまるで普段見ていた朝の通勤の風景をそこだけ切り取ったように不自然。だが後ろの方、ホーム側で再度爆発が起こると、その通行人の姿はまるで『処理落ちしたゲームの背景』みたいになってカクカクと止まりだした。
一部色が剥げたり、浮いたりしている駅もある。頭だけとか胴体だけが再現されている人もあれば、今朝見た少女の姿と同様に立ち止まった平面姿の連続が無数に流れ始める人もある。
「こ、これって……ボク、夢見てるのかな」
周りの風景に戸惑いながら何歩かあるくと、突然頬に雨粒が触れる。
天気は相変わらずの晴れ。駅の向こう側では背の高い黒雲がわき上がり、ごろごろという音と白い稲光、灰色の竜巻が渦巻いている。
突然の天変地異としか言えない状況に宗士は目を丸くしながら、振り返って宗士は空を仰ぎ見ていた。
黒雲の下では相変わらず爆発と発砲の音が聞こえている。宗士はよろよろとしながら後ろへ歩いていると、そのままどすんと誰かの背中にぶつかった。
「あっスイマセン!」
慌てて飛び退き振り返ると、そこには黒いサングラスにラフな上着と金の首飾り巻いた大男が立っていた。
男は宗士を振り返ると、強面な顔を表情ひとつ変えずに宗士を見下ろし後ろに立っていた。
男は顎が四角く頑丈そうで、目は小さく、肩幅も大きく、宗士の背ほどの高さには胸があり、やや猫背の姿勢で両手をコートのポケットに入れている。
「目標がいたぞ」
無骨、という言葉がそのまま当てはまりそうなほど太い両腕が左右のポケットから抜かれ、宗士の肩をがっちりつかみこむ。
男の猫背がさらにかがみ込んで宗士を全体的に包み込む形になったので、宗士からしてみれば男に抱え込まれたのは一瞬だった。
「あら早い」
「えっもう任務完了しちゃったんですか?」
突然捕まえられて言葉が出ないのをいいことに、大男の後ろから男女一組のペアが現れた。
いや、正確には宗士を掴んでいる巨漢を合わせて、男と男と女の三人組だ。女は何かトランシーバーを耳に当てて誰かの指示を仰いでおり、男は細目でまじまじと宗士の顔をのぞき込んでいる。
「ウィザーズの先鋭だって聞いてたから、てっきりもっとすごい男かと思ってたのに意外と普通ですね」
「ハッ、しょせん欠陥品共のプロテクトはこの程度だったんだろう。なあ、ボウズ?」
男は大きな口を歪ませ卑屈そうに笑うと、大きな両腕で宗士を掴んだまま空に持ち上げた。
男のの様子を細目の男性がびっくりして見つめる。その後ろでトランシーバーを持った女性の方が、宗士を持ち上げる男に対して厳しい表情で腕を向けた。
「やめろグレゴリ! 手荒なことはするな!」
「へへ、反抗的な対象は無力化して持ち運ぶ労力を最小限にする。祖国が唱える合理的な判断じゃないか、アグラーヤ隊長?」
「いやっやめろ! はなしてください! 僕が何をしたって言うんですか!!」
「へへ、そう派手に暴れるなよ。今動けなくしてやるからな」
「やっやめ! やめろ! やめてください!」
「もう終わった」
「!? ぎ、ぎゃああああー!」
両腕が根本から真下へ、根本的にあり得ない形になって抜け落ちている。激痛が宗士の脳内に走り、ぶらぶらと動く両腕が、今だけは自分の意思とは別に存在する丸太か何かのように感じた。
グレゴリと呼ばれる浅黒い巨漢はへへへと小さく笑うと、激痛で動けなくなった宗士をまるで生き物ではない「物」のように扱って、上へ振ったり横にしたりひっくり返したりして乱暴に品定めを始める。
乱暴に宗士を品定めする様の巨漢を、アグラーヤと呼ばれる目つきの鋭い長身の女性が止めた。
「それくらいにしておけグレゴリ。第一目標は達成した、このまま拠点に持ち帰って尋問をするぞ」
「いいじゃねえかアグラーヤ、少しくらい遊ばせろよ」
「その男にはしゃべってもらわないといけない任務がある。キサマの性癖吐露もそれくらいにしておけ」
「……ケッ、プロトタイプの癖に生意気な」
そう毒づくとグレゴリと呼ばれる巨漢は、脇に立っている金髪男に宗士を放り投げた。
「ほらよヴァシーリー、今日のオカズだ」
「おおっと!? そんなに乱暴にしないでくださいよ、チームの中で僕が一番デリケートなんですよ?」
「ケッ、チームチームってうざってえな」
男は後ろに立つ慎重そうな目をしたアグラーヤ、対照的になんとなくのほほんとした男ヴァシーリーを振り返り大きな右腕をぐるぐると回した。
「戦士は、敵を殺すか殺されるか、血を求める闘争心がすべてだ。それ以外にオレは興味がねえなあ」
「グレゴリさんそれじゃあただの殺人鬼ですよ」
「闘争心など必要ない、大事なのは任務と祖国への忠誠心だ」
グレゴリと、グレゴリの巨大さに比べれば背が小さいヴァシーリーの言い合いに、長髪を後ろで束ね全体的に中性的な印象のアグラーヤが割ってはいる。
肩を脱臼し激痛が脳に走る宗士にとっては、三人の言い合いなどどうでもいいことだったがそれも含めて、地面が揺れて、建物が揺れ大きく崩れているのが目に映る。
まるでこの世界が壊れかけているような錯覚に陥ったが、それも間違ってはいないらしい。
崩れたビルの破片がアスファルトを打ち、一角周辺に埃が舞ってあたりが真っ白になる。
その中に、人一人分の黒い影が入り込んだ。
「ん?」
巨漢のグレゴリが身構え、女のアグラーヤが影の方を向いてどこからか拳銃を取り出す。
「やれやれ」
アグラーヤとグレゴリの様子を見て、ヴァシーリーも困ったように首を振って拳銃を取り出し、宗士のこめかみにあてた。
「僕はどちらかというと、戦いは嫌いなんだけどなあ」
よく見れば三人の持つ拳銃はみな同じ形、手のひらには収まらない大きさの使い込まれたオートマチック拳銃で安全装置がない。
こんな状況でなぜそんなところを見ているのか。そもそも宗士は拳銃だって見たことも触ったこともない。
激痛はまだ体中に残っている。なのになぜこんなに冷静でいられるのか、宗士はとても奇妙な気持ちだった。
まるで前にもこんな目にあったことがあるとか、体が痛みに慣れているような気分だ。
巨漢のグレゴリの手に収まった自動拳銃、アグラーヤと名乗るすらりとした背の女性の目、やさしそうな顔のヴァシーリーそれぞれがもやの中を見ている中、影はぬらりとした様子でゆっくり動くと、腰元からすらりと長い何かを取り出して構える。
「敵か。排除しろ」
「今すぐぶっ殺してやる!」
アグラーヤの言葉にややかぶってグレゴリが叫び、白いもやの中に向かって拳銃の弾丸をフルオートで連射する。
もやの中の影は、打ち込まれた銃弾を素早い横移動ですべて避けきり、手に持って構えた長物を一つ、二つと縦横に振って足下の瓦礫を前方に飛ばす。
飛ばされ瓦礫が長身のグレゴリの射線を遮り、男が向ける銃口がわずかに横にそれた。その隙を突いてふたたび刃先が一閃、グレゴリの持つ拳銃のバレルとトリガーガードを真っ二つにした。
「ッ!?」
驚いて身をそらすグレゴリに、少女は不敵に笑って日本刀の歯を返し振り上げの姿勢をとった。
刹那、少女の握る日本刀の柄にアグラーヤ持った拳銃の最後の銃弾が当たり少女の返し刃を食い止めた。
銃弾で弾かれた日本刀がガラガラと音を立てて地面を転がり、反動で少女の方が飛び退く。不敵に笑う大男のグレゴリが少女に銃口を向けるが弾は出なかった。グレゴリの拳銃はすでに破壊されている。
アグラーヤの方も弾切れしているらしく予備のマガジンに切り替えようとしていたが、マガジンをスライドし地面に落としたタイミングで少女の異変に気がつき顔を上げた。
少女はやや高くなった瓦礫の山に立って、三人と宗士を静かに見下ろしている。
その目は冷たかったが、宗士を見るとにっこり微笑んだ。
「お久しぶりですわ、カトウソウジ隊長。それにロシアのクズ共も」
微笑む少女の顔に小さな体。それとは似つかわしくない大きさの対戦車ロケットランチャーを片手だけで抱え込み、腰や背中にもそれぞれ別の武器をつけている。
「相変わらずわたくしたちの庭を荒らしてまわっているみたいじゃない。それにさっき、気になる言葉が聞こえたわね。血を求める闘争心がすべてみたいな」
少女は長い黒髪を綺麗に掻き上げ、胸元をアピールするようゆっくりと体をねじらせた。
白くて小さな耳飾り。先ほど駅ホームで出会ったあの二人と違って清楚そうな感じがする。
着込んだアーマーは機械的、腰の部分が大きく横に広がり腰のくびれが強調されている。そこは別の二人とほとんど同じだ。背中のジェットパックも大差はない。
アグラーヤと呼ばれる女性兵士の方が一歩退いて、拳銃を構え直しマガジンを装填する。
「どうも、いちばん頭のやっかいな奴に捕まったみたいね」
「お下品ですわ、そんな殺すとか殺されるなんて。血とか戦いとか。でもそうね、だいたいあってる気もするわ」
人の話をまったく聞いていなといった様子で、少女はすこし困ったような顔をして肩に担いだ対戦車ランチャーを掴み上げた。
巨漢のグレゴリ、隊長格らしいアグラーヤ、ヴァシーリー三人が少女を見上げている。その隙を突いて、何かが宗士の体に何かが巻き付いてヴァシーリーから引き抜いた。
「隊長ッ!!」
器用に投げられた投げ縄のような何かが宗士巻き付き、軽くはない宗士の体を空中に飛ばす。
それは先ほど見かけた地雷付きの投げムチだった。けど起動していない様子。
投げたのは先ほど宗士たちに銃やロケット砲を打ち込んできた二人組少女の片方で、丁寧な口ぶりとは別にやたら攻撃的だった、たしか……誰だっけ?
「ああんっ私の愛しい宗士隊長様ァーっ」
投げ縄で腰を縛られて、自分の意思ではないが空を飛び、宗士は世界を上から眺める。
下では空飛ぶ宗士を受け止めるべく口調のおかしい少女が腕を広げ、隣では仏頂面の、完全武装した小さい少女が少女と宗士を見比べていた。
宗士は多すぎる展開にいろいろ脱力し諦めた感じになりながら、眼下に流れるいつもの世界をゆっくりと眺めた。
いつもと代わり映えしないと思っていた毎日が、まるで悪い夢でも見ているみたいに次々と変化していく。
それも突拍子もないような、まるで非現実的な様子で。
今朝見た夢だってそうだ。自分がまるで、何かの特殊部隊の誰かみたいに言われていたけれど。そう夢の中では。
自分は。
雨の中で、誰かを捜そうとしていた。
何かを得ようとして、何かを探し出そうとしていたあの頃の記憶。
ふと頬に冷たい何かが触れる。
雨の中で。
「……雨?」
頬に触れたのは、水だった。
目の前に広がる日常世界にヒビが入り、激しくノイズを立ててまた元に戻る。
その拍子に脱臼していた肩の関節が音を立てて元に戻り、自然と腕が振り上げられた。
気づけば真下に、腕を広げて宗士を受け止めようとしていた満面の笑みの少女の顔があった。
「あ」
「べふーっ?!」
宗士は目の前の少女の顔を思い切り張り手で突き飛ばしてしまい、その反動で勢いよく転がって大地に立った。
自分でも驚くけど、自分がこんなに動けるとは思えない。
「あ、ありがとうございますぅ……」
瓦礫に頭を突っ込んだ少女は涙を流しながらも幸せそうな笑顔でそう言い残し、がくりと力尽きた。
「ボクは、誰だ?」
「隊長?」
もう一人、宗士の跳躍と張り手、今までの言動を腕を組んでみていた背の低い少女が怪訝そうな顔で宗士に近づく。
「ち、近づかないで!」
「隊長!? 隊長、わたしだよ! 萌ちゃんだよ! 桜庭萌!」
「知らないよ! ボクはキミを知らない!」
宗士の言葉に目の前の少女は愕然とし、瓦礫に埋もれていたもう一人の少女もむくりと起き上がって振り返る。
「嘘でしょう?」
崩れたビル街に人気のいなくなった駅前。町は完全に焼け野原になっている。
その中心に立つバトルスーツを着込んだ謎の少女達は、宗士の知る町の中では完全に浮いていた。
背後で爆発がして、熱線が宗士の背中をなぞる。振り返ると先ほどみた剣を持つ少女が三人の敵に斬撃を仕掛け、その流れで背後のビルが内側から爆発……爆発して、元通りに戻っていく様子が見えた。
「はあ?!」
何かの動画を逆再生しているみたいだ。大きなコンクリート片が宙に浮き、元の場所まで飛んでいって綺麗におさまり爆発して、煙が空中から徐々に消えていく。
その様子が駅前全体で次々に起こっていき焼け野原は綺麗ないつもの、ただの日常に戻っていく。
「どうなってるの!?」
「むう、もう活動限界がきたの。理香ァ!」
コンクリート片や石の塊が宙を逆に飛び交う中、敵の攻撃を避けながら剣を振るう少女もまた空を飛ぶ。その様子はどこかの魔法使いが空を飛ぶのに似ていたが、背中には他の少女と同じようにジェットパックがある。
「理香! 世界の再構築がはじまった! デリートされる前に引き上げるわよ!」
「チィッ! どいつもこいつも、わたくしの邪魔をして!」
少女は剣を縦に構えると同じく銃を持って戦っている男女三人組からの包囲一斉銃撃をすべて僅差で弾き返し、その反動を駆使して一気に宗士との距離をつめる。
長い黒髪が空になびき、黒のスーツが太陽の光を反射させる。
腕が伸び、白く鋭い指と、白い耳飾りがとても目に映った。
少女の突撃に、宗士は「やられる」と反射的に思って目をつぶる。
だが体の方がかってに反応し、飛び込んできた黒髪の少女の腕をはねあげ、逆に飛び込んできた勢いを利用しねじまげるような動作をとってしまう。
すんでのところで、宗士は少女の腕を手放す。
飛び込んできた理香と呼ばれた少女はすれ違ってから急停止し、宗士を振り返って腕をさすりながら驚愕の表情を浮かべていた。
宗士にねじられた腕は、無事らしい。
「なに? 何がおこったの?」
「理香、引き上げるわよ! 宗士隊長はダメだったみたい」
「隊長が?」
三人の少女は互いに互いの顔を見て、一斉に宗士の顔を振り返る。その表情は不安だとか、心配そうなとか、一人だけちょっと冷たそうな目つきをしていたがだいたいは宗士を見て距離を置こうとしている様子だった。
宗士には、彼女たち三人が何を言っているのか分からなかった。
ただ夢の中では、今朝みたあの謎の夢の中では、自分がこれから夢を見ると言われていたのを思い出す。
それが誰に言われていたのかは分からないが。ただ、鮮明に覚えているのは「これから仲間が迎えにくる」と言うこと。
「美月! 理香! 撤退するわよ!」
「ちょっとまって。君たちはもしかして」
宗士の引き留めに、この場を去ろうとしていた三人組が動きを止める。
三人の表情は様々だ。一人は戸惑いの顔。もう一人は冷たい無表情。
もう一人は、どことなく悲しそうな顔。萌と呼ばれる紅いパーソナルラインを施した背の低い少女だ。
「なに」
「君たちは、その、ウィザーズっていうの?」
「そう。そう、そうね。わたしは、ウィザーズの副隊長。この二人はわたしの部下! ある任務でこの世界に来たの!」
そこまで少女はハツラツと嬉しそうに言ったと思ったら、また悲しそうな顔をして後ろを向く。
「今は、まだぜんぶ説明しきれないから。またあとで迎えに行くからね、宗士隊長」
「すべては神が我に与えてくださったもの。この試練も、私の頬の痛みも、報われる日が必ず来る」
ジェットパックを噴射させ、風になびく黒髪と二筋の粉塵が天使の翼のようになって周囲に散らされる。
神が云々、迎えに来るという話はよく分からなかった。
三人はそれぞれ名残惜しそうに宗士を見ながら帰っていき、一番最後まで残った黒髪の少女も、宗士を見るだけで何も言わずそのまま飛んでいってしまう。
後には粉塵と煙たい風だけが残り、彼女たちが破壊していった町並みは高速逆再生のようにしてどんどん再構成されていく。
残された宗士ははっとして後ろを振り返った。そこには、先に自分をさらおうと企んだ目つきの鋭い女、顔に傷を負ったスキンヘッドの巨漢、目が細くずる賢そうな細身の男たちが立っていた。
三人は宗士を見ながらなんとも残念そうな顔をして立っているが、そのうち白いもやにまぎれて見えなくなる。
もやが消え、周囲の建物がふたたびいつもの日常に戻ったとき三人の姿はどこにもなかった。
それになにやら今まで気づかなかったが、周りには人があふれ、まるで今朝みたいつもの日常世界のようにそれぞれが勝手に、ごく普通の日常生活を営んでいる。
先ほどの騒動や爆発も、何ごともなかったかのように。
宗士は、自分が夢を見ているのか、それとも夢を見ていたのか分からずただ唖然として空を見上げた。
煙たい風を浴びたからなのか目が染みて、自然と涙が出てくる。頬の冷たさは、夢の中で見た雨と同じように感じた。
いつもと何も変わらない日常。
空を割り、世界を覆うようにしていた雷雲は気づけばまるで何事もなかったかのよう。世界は青々としている。すべてが嘘か、本当に何もなかったことにするような。
いつも通りの日常を送る群衆を見て、宗士はふと自分が口を滑らせた言葉を思い出す。
「あなたたちはウィザーズなのか」。宗士の問いかけに、少女ははっきりと首を頷かせた。
ウィザーズとはいったい何者なのか。
思えば宗士が今朝見ていた夢の中でも、自分自身がウィザーズだと思っていたこと。それ以外口に出したことは一度もない。
夢の中で、自分は何かをしに行くと言っていた。これから自分は夢を見るとも。
宗士は自分の手のひら、傷一つ無く年相応に綺麗な形の左手のひらを見つめた。
「僕は、ウィザーズなのか?」
そうしてくるっと手のひらを返す。
いつもならすでに学園についている午前十時を、時計は示していた。
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