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特技は魔法とありますが? はい、魔法です(第2話)

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第5話      第6話      第7話    第8話
第9話      第10話(制作中)

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 薄ぼんやりとした意識の片隅で、ぴぴぴっぴぴぴっと甲高い音が聞こえてきた。
 宗士は反射的にその場で顔を上げ、眠そうな顔のまま、「さっき起きたばかりじゃないか」と誰にも言わない愚痴を心の中でつぶやいた。
 音の方向を見るといつもの目覚まし時計がベッドの脇に立っていて、光沢のあるガラス面にはあかるい光の筋が映り込んでいる。
 時計の面には、いつもの数字。
 目覚ましの電子音を鳴らす時計の面を宗士はぼんやり見ていたが、この目覚ましの電子音はなんだったろう。
 どこかで聞いたことがある気がするなと思いはしたが、まあいいかと思うと宗士は勢いよく時計のスイッチを切った。
 自分が寝起きする小さな自室。両親も、妹も、宗士以外は誰もいない家。
 それよりも大事な物があって宗士は家族の海外転勤に着いていかずこの町に残ったというのに、最近はなぜ自分がこの町に残ったのか忘れてしまった。
 ただあの頃の思い出の品がいくつか、部屋の飾り棚の上にひっそりと置いてある。
 何を忘れたのかとか、最近何か忘れていると言ったことを考えることがあるが、この部屋で寝起きして、いつもの生活を繰り返している内によくわからなくなってくる。
 例えばさっき聞いた目覚ましの音とか。どこかで聞いたことがあるような気がするなとふと思うこともたまにあるが、それよりも今は朝のシャワーを浴びたい。
 最近多い事なのだけど、起きると全身が汗だらけになっていた。

 誰もいない朝。いつもの朝。何度も繰り返してきた朝。
 ちょっと遅め。
 今朝見た夢とか家がいつもより静かだとかもあんまり気にしないようにして、いつも通りの朝を満喫するべく宗士は家から出た。
 これでどこかに不思議な転校生とかがいて、どこかで食パンくわえながら走ってきてぶつかったりしたらなんだか楽しそうだなーとか思いながら、いつもの駅前商店街を抜けていく。
 朝から人通りが多いし、みんな同じ方向へ歩いている感じで人の数は多いけどそこまで苦じゃない。
 ただし、家に両親がいないことや高校生で一人暮らしをしていることが近所の人にばれているので、朝はもちろん夕方以降もあんまり気が抜けない。
 特に線路を渡る手前にある駅前交番は特に避けるように心がけている。別に悪いことをしているわけではないけれど、なぜかお巡りさんに目を付けられているような気がしてならなかった。なんで目を付けられているのか考えてみたけれど、そう言えば出張前に母さんが「交番の人にもお願いしておいたからね!」とか笑顔で言っていた気がする。
 困ったなあと思いながら宗士は駅前広場をすり抜ける裏道を通って、いつもの駅の改札までやってきた。ここまでは、遅刻ぎりぎり回避圏内。
 交番前広場はいつも通り人が多くて、いつものお巡りさんが立って広場を見守っている。どうもばれていないみたいだ。
 安心安心と心の中でつぶやいてもう一度前を見ると、改札脇のスペースに変な格好をしたおじさんが立っていた。
 白塗りの顔をした変なおじさんは、宗士と目が合うとぎこちなくもゆっくりとした動きで手を振ってきた。
 あと、鼻が真っ赤。変なとんがり帽子。ふわっふわのかざり。ピエロだ。
 ふと後ろが気になって振り向くと、たまたま交番に立っていたお巡りさんと目があった。
 そのいかつくて濃い眉毛のお巡りさんを見て、宗士はぎょっとしながら目をそらす。でもお巡りさんの方が、宗士を見てあっと口をあけた。
 ピエロの方を見ると相変わらずな格好で立っていたが、宗士が目を離している隙に少しだけ顔を動かしていた。
 その顔は、けばけばしいほどに派手な化粧がしてあって素の顔がどんななのかわからないほどだった。
 目の周りは銀の星形のペイントで彩られ、口と鼻の周りは真っ赤に塗りたくられている。
 素の顔は分からないし、服装も全体的に大きめなので体つきもよく分からない。
 でもなぜ朝からそこに立っているのかもよく分からない。でもその目が、宗士の方をはっきり見ているのは分かった。
 というか、宗士は学校に遅刻しつつあった。ピエロの脇をすり抜けて、駅の改札に向かっていく。定期券をカバンから出すついでに後ろを振り向くとピエロの顔も振り返っていて宗士を見ていた。
「はは。どーも」
 宗士は引きつった顔でそう言うとピエロの方は無言のままゆっくり手を振った。
 その向こう側で、濃い眉毛のお巡りさんも手を振っている。
 宗士は慌てて顔を背けると、いつもの駅の中に入っていった。

 改札を過ぎ、いつもの駅ホームのだいたい真ん中くらいへ。
 今日もいつも通りの場所に陣取って、いつもの白枠に収まる。
 いつも通りの日常の始まり。今日まで、なんの疑問も感じてこないまま今日に至った、今日この日。
 いつもの特急がホームを通り過ぎ、風が宗士の髪をなびかせる。
 いつもこの時間は向かいホームに別の学校に通う人がいる。名前も知らない女の子で、白いセーラー服がよく似合うなあと思って目の隅に入れるのが宗士の日課だった。
 ああ今日は本を読んでるなとか。テストが近いから教科書読んでるなとかその程度の思いだけで彼女を見ている。いつも見慣れているからか、その顔まで分かるようになってしまった。
 今日の彼女は、宗士と同じようにすこし遅刻しているのか駆け足でホームに入ってきていた。
 横目で見ながら、彼女にも日常があるんだなあと思って目だけで追いかける。
 それから急行列車がやってきて、宗士の目の前を通過していった。彼女の姿は一瞬見えなくなったが、急行が通過した後の彼女は別の誰かと仲良さそうに話していた。
「んー?」
 さっきまで走っていた彼女が、急に別の動きをしているのに目がとまったけどまあそんなものかと思うことにする。
 次いで別の通過列車が、宗士の視界を通り過ぎていった。轟音と共に列車が通過していった後、向かいのホームには誰もいなくなっていた。
「ん?」
 いや誰もいなくなっていた、というより最初から誰もいないようなホームだけが目の前に広がっている。
 そのうちいつものあの彼女がホームにやってきたかと思うと、何か不自然な格好でその場で立ち止まった。
 その後はコマ送りのように、彼女は白いセーラー服と共にホーム上に点在して残り始める。
 明らかに現実離れしたような風景。よく見るとどの彼女もいつか見た姿そのままで、目の前で固まっている。
 まるで何かのバグみたいだな? と宗士は心の中で思ったがまさにそのままの図だった。
「えっ」
 宗士は戸惑いの表情で彼女を凝視する。よく見ると背景にはいつもの雑踏と見知らぬ通行人達も見えるが、彼らはとてつもなく平らな映像に見えた。
 そして振り返るとどこかで見たような少女が、ベンチに座って本を読んでいる。
 その姿は、まるで古ぼけた写真の中から切り出した、茶色がかって日焼けしている彼女自身。少女がふと顔を上げ、宗士は彼女と目があった。
 その目は黒くてはっきりと開き、セピア色の向こう側には、透き通る白さを感じさせるもの。目鼻の筋は細く、こんなに綺麗な人は一度見れば忘れられないはずなのにでもなぜか宗士は見たことがない。
 胸とか足の細さ、体つきも綺麗としか言いようがなく、ただただ繊細で、ガラス細工のように、儚くも脆そうに思えた。
 だがふとした瞬間に目の前を誰かが通り過ぎ、いつもの雑踏が戻ってくる。
 ホームには通勤途中のサラリーマンや疲れたOLたちが並んでおり、ベンチに座って電車を待つおじさんや、おじさんの周りに集まるハト、名も知らぬ黒い群衆たちが目の前を覆い尽くしている。
 ホームの向こうを見ると、いつもの少女が電車を待っていた。
「は? 今の、なに?」
 宗士は声をあげて今見たものを知ろうとしたが、周りの大人達が宗士を変な目で見てきたところで、先ほどみた少女の白昼夢が何だったのか考えることをやめた。

「……はァッ!?」
 朝。なんだかよく分からない悪夢を見て全身汗びっしょりになったところで目が覚めた。
 飛び起きたのは良いけれども妙にリアルな夢を見た。学校に行く前いつもの電車に乗るまでの夢を見ていたような気がする。
「……また変な夢見てた?」
 誰に言うでもなく眉間にしわを寄せ、周りを見る。そこは当然、いつもの自室。
 壁には時計が掛かっているし、ベッドの脇には電子式の目覚まし時計が置かれている。
 時計の針がいつも通り小さく秒針を切っているが、その針の指している時間はいつもよりだいぶ遅い。
「ひゃあ! ち、遅刻してるかも!」
 急いでベッドから飛び起き床に立つと、また部屋全体の雰囲気が歪む。そうしてパッと風景が入れ替わっていくと、またいつもの駅ホームの中。
 いつもの風景。いつもの時間。けれどいつも過ごしていた毎日の風景が少しずつ違った形で、全部いっぺんに映し出されたバグのようになっている。
「な、なにこれ……」
 宗士はおそるおそると言ったように、さきほど見たセピア色の少女のいたイスを振り返る。
 けれど当然ながらそこに少女は座っていないし、そもそもイスすら置かれていなかった。
 いつもの風景。いつもの時間。いつもの日常が少しずつ違った形で、繰り返される。何の変哲もない毎日が、なぜか目の前ですべて崩れ始めていた。
 ホームに、いつもの電車がゆっくりとやってきた。行き先は何も表示されていない。ドアも開かない。たくさん人は乗っているけど、まるで絵のように動いていない。
 突然、どこかで何かが爆発した。
 結構遠くだったのか音はかなり小さく、振動も駅のホーム全体を小さく揺さぶる程度の物だった。衝撃で電車が小さく動き、ドアが開く。
 たくさんの人たちが一斉に降りだし、ホームの人たちも一緒になって突然動き出した。
 しばらく呆気にとられて駅の様子を見ていたが、再びどこかで何かが爆発。それもかなり大きいし、だんだん近づいてきている。
 空を見ると、遠くを飛行機のようなものが飛んでいた。けどよく見るとそれには手足がついているし、空を見上げた宗士を見て指をさしているような仕草も見えた。
 なんだか嫌な予感がする。
「嫌な予感……」
「…………!!!」
 空飛ぶそれが、何か叫んでこちらに手を振った。宗士はどきっとしてそれを見つめ、ふたたび周囲の大人達を見る。だが大人達は空の彼らに気づいていないような雰囲気だった。
 空のそれが大きく手を振って、また何か叫んでいる。
「…………ぃちょー…………!!」
「なんかしゃべってる!?」
「……ぁ……ぁいち……ぉーーー!!!!!」
 それがさらに何か叫んで、宗士に向かって何かを突きつけた。
 数秒後、またどこかで爆発が起こる。爆発はだんだん宗士の駅に近づいているようだったが、爆発が起こると周りの大人が一瞬止まり、背景にもノイズが走った。
「……ーいちょーーー!!!!!!」
 空のそれがさらに叫んで、こちらに狙いを定めている。宗士は一歩足を退き、これから起こるであろう嫌な予感に身構えた。
「たぁぁぁいちょー!!!!!!!!!!!」
 空飛ぶそれがはっきり叫ぶと、宗士に向かって弾を撃った。

 突然、空が曇りだした。
 さきほどまで町の空は青一色だったのが、空を謎の少女が飛び始めたのを狙い澄ましたかのようにどんどん渦を巻いて灰色になっていく。
 まるで超常現象のように思ったが、その疑問も突然の突風と嵐によってかき消される。
 少女が撃った何かの弾が、尾を引いて宗士の立つ駅に向かって発射された。打ち出された弾道を、風が押しのけたのだ。
 宗士のすぐ近くに弾が落ちて駅ホームを粉砕する。あちこちから悲鳴が聞こえ、駅の人たちが慌てた様子で避難誘導を始めた。
 だが宗士は、空飛ぶ少女を呆気になりながら見ていた。彼女は突然の暴風に飛ばされそうになりながら、手を振り懸命に宗士の近くに寄ろうと試みているようだった。
 だが宗士は彼女の顔に見覚えがない。そもそも顔すら見えない空の向こう側を飛んでいるようだったし、彼女が女だと分かったのは風にのって聞こえてくる幼さそうな声が聞こえたからだ。
 宗士は体を引き寄せ、破片と駅を揺らす振動にあわせてゆっくりと後退した。
 だが、空飛ぶ少女の方は相変わらず宗士に追いつこうと背中につけたバックパックと、青白い噴射剤のようなものを懸命に飛ばしていた。
「なにあれ……」
「たあああああいちょぉぉぉおお!!!! たああああいっ、ッちょォォォォォ!!」
 渦巻く風に煽られながら、空飛ぶ少女は明らかに宗士を見て指さしていた。もう片方の手には持てあますほど大きなバズーカのようなもの。
 それが何なのか宗士には分からなかったし彼女がなぜ宗士を見て隊長? と叫ぶのか分からなかったが、明らかに彼女はヤバイと感じた。
 すると誰かが宗士の肩を掴み後ろへと引きずる。見ると知らない男の駅員さんや他の乗客だった人たちが、必死になって宗士を守ろうとしていた。
「はやく駅の向こうへ!!」
「は!? は、はうう!」
 状況がよく分からないところで変な声を出しながら、宗士は言われたとおりホームの向こう側へと逃げ出す。
 突風としか言えない強い風が渦を巻き、少女を巻き込んで強く吹きだす。
「ふにゃあぁぁぁぁぁんッ」
 空を飛ぶ少女は変な声を出すと、風に煽られながらどこかに飛ばされていってしまう。するとその後ろでまた何かが爆発し、別の誰かが飛びだして空を勢いよく登りはじめた。
 彼女も、空を飛ぶ少女だった。
「隊長! そいつらから離れて!」
 青白い噴射剤を二筋、勢いよく空で吹かしながら空高く舞い上がった彼女はいったん急停止すると、今度は宗士の方に向かって姿勢を変えて勢いよく宗士の方に突っ込んできた。
「止まれ! 止まれ! 止まれェ!!」
「私は神を信じ、神は私に奇跡を与えたもう」
 警察官が拳銃を抜き、宗士の前に立ちはだかって空の少女に銃口を構える。
 空飛ぶ彼女はそれでも構わず宗士の方向へ突っ込んでくるが、彼女は最初の少女と違ってバズーカではなく、ムチのようなものを手にしていた。
 先端には大量の地雷が繋がれている。
「撃て!」
 パンパンパン! と軽い破裂音が聞こえ、警察官が空に向かって拳銃を撃つ。それにあわせて空を渦巻く突風が姿勢を曲げ、竜巻が二本、三本と増えていき空飛ぶ少女を捕まえようとする。
 少女は突撃をやめていったん空中に停止するが、その勢いで、手に持っていた地雷付きのムチのようなものを宗士に向かって投げ込んだ。
 警察官が一瞬悩んだような間を置き、とっさに一発だけ拳銃を撃った。
 撃たれた銃弾が空に向かって薄い煙を引き、銃弾の筋が、少女の肩をかすめる。
「神は私の盾……ッ」
 少女は空中で止まり、投げた地雷付きのムチを見て不敵に微笑んだ。
「神は私の剣……! 神は私の全て、私は神の導きに従い、神は全ての悩む者たちの魂を救うッ!」
 先ほど撃った銃弾が、ムチと地雷をかすめていた。
 地雷が分解し、発光を繰り返しながらそこら中に散らばる。
「生に苦しむ者たちに救済を……アーメン!」
 少女が胸元で十字を切り不敵に笑う。すると、発光を繰り返していた小さな地雷がぴぴっと小さく音を出し、宗士の周りで一斉に起爆した。
「ぎゃあっ!」
「隊長様! 今助けに行きますから、絶対にそこから動かないくださいね!!」
 爆風でホームの壁や屋根が吹き飛ばされ、砕けたコンクリートが粉のようになって舞っている。渦巻く炎と風によって渦が巻かれ、その上空で名前も知らない少女がふたたびミサイルのような物をつかんで腰だめでどこかへ撃つ。
 宗士は今まさに、この謎の少女に自分の名前を呼ばれたことに衝撃を受けた。だが自分は彼女を知らないし、彼女の顔を自分は見たことがない。
「君! はやくこっちへ来い!」
 すると別の方から、今度は別の警察官がやってきて宗士の方へと手を伸ばす。
 宗士は空飛ぶ謎の少女と警察官を素早く見比べた。
「えっ、ええッ!?」
「早くこっちに!」
「ああっダメですわ隊長様! そっちについていったらアアんッ!?」
 再び誰かが空飛ぶ少女を撃ち始め、少女はちょっとだけ色っぽい声を出し両手で顔を覆う。
 ちょっと恍惚感の漂うような間の抜けた動作一つで、撃たれた銃弾はすべてはずれた。
 拳銃を撃ったのは瓦礫の向こう側に隠れていた応援の警察官たちで、少女が目を向けるとひっと小さく声をあげてひるむ。
「ひ、目をあわせるんじゃない!」
「このッ、私を撃ちやがったなゴミ野郎ォッ! 今すぐ救済してやる死ね!!」
「ひるむなー!」
 空飛ぶ少女はミサイルのような武器を放り投げると、背中に背負ったバックパックからマシンガンを取り出し両手で撃ち始めた。
 撃たれた警察官も負けじと拳銃を撃つが、互いに弾が当たらず決着が付きそうにない。
 宗士が二人の撃ち合いを見ていると、今度は目の前の瓦礫ががらがらと崩れ落ちさきほど風に吹き飛ばされていったもう一人の少女が姿を現した。
 アーマー全体に紅色のラインを引いたもう一人の少女は、苦しそうに脇を抑えよたよたしながら宗士に近づいてくる。
「た、隊長! ずっと探してたんだよ、あれはどこにあるの?」
 少女はさも当たり前といった様子で宗士に語りかけてくる。だが宗士は、彼女も、もう一人の少女のことも知らないし名前も分からない。
 宗士は少女が近寄ってくるたびに、少女とは逆に足を退いた。
「ん?」
 少女は宗士の様子を見てぴたりと足をとめ、不思議そうに宗士の顔を見る。
「隊長? なんで、逃げるの?」
「君は、いやええと」
「なんで逃げようとするのかな?」
 宗士が答えられずもじもじしていると、後ろから誰かに強く肩を掴まれ引き寄せられる。それと変わるようにして朝見た警察官がにゅっと顔を出し、宗士と少女の間に自分の体を挟み込んだ。
 その様子を見ていた目の前の少女は驚きの顔を見せると、今度は疑いの表情をもって宗士と警察官を見つめ何かに気づく。
「わたしだよ萌だよ! 隊長の部下の桜庭萌! あっちはモブキャラの岩崎美つ……」
 言いかけている最中に上から何かが降ってきて、萌と名乗る少女の上に覆い被さった。
「この私を変なモブキャラ扱いなんてしないでくださいませ!」
「なにをっ、この!」
 二人がわちゃわちゃと重なり合いながら互いの顔を押し合っている姿は、ただのどこかの仲良さそうな二人に見える。
 だがその格好は常軌を逸していた。空を飛んでいるときは背中の大きなジェットパックしか目に映らなかったが、ジェットパックを背中に固定するためのアーマーや空を飛ぶための大きな翼は、どう見ても普通じゃない。
「あッコホン。私の名前は岩崎美月、兵長。ウィザーズ電子隊付きの小隊長補佐ですわ。よろしくお願いしますね、サージェントソウシ隊長」
 黄色の線をアーマー全体に走らせる少女は、携帯式対戦車兵器パンツァーファウストを肩に担ぎながら少女っぽくウィンクした。
 それを脇から不愉快そうに見ているのが、桜庭萌と名乗る同じく背の低い少女。こちらもアーマーと翼、紅いラインを施した盾と拳銃を持っている。
 だが少女二人が平然と自己紹介をしている中、周りから駆けつけた駅員や、なぜか一般市民としか思えないようなおじさんおばさん達が宗士をかばいはじめ、少女と宗士の間に身を挟み込む。
「君は、はやく逃げなさい」
 宗士が群衆に取り囲まれ覆われていく様子をみて、少女二人はさらに驚いた顔をする。
「隊長? なんでそっちに?」
「ええと」
 宗士は自分の立ち位置が決められず、流されるようにしながら群衆に後へ後へと追い出されていく。萌と名乗る少女、美月と名乗る少女たちは、悲痛そうな顔で宗士に手をさしのべた。
「隊長、おねがい行かないで!」
 警察官が拳銃を抜く。
「動くな!」
 宗士は自身を動かす市民たちの手に抗いながら、なぜか気になる少女たちの方へと顔を向ける。
「きっ君たちは!」
 だが名前も知らない市民たちは、宗士の抵抗を圧倒する強い力で宗士を奥へ奥へと動かしていく。
「君たちはいったい」
 誰、と言いかけた時点で、宗士の口は見知らぬ誰かの手によって遮られた。
 自分を押し出す群衆の中に、いつも見ていたセーラー服の少女の姿が見える。
 だがそれを見ても宗士には何が何だか訳が分からなくなり、そのまま名も知らぬ群衆たちに駅ホームの中から外へ追い出されていった。

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